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19.

 部屋の外にいた警備担当に二人を引き渡し、恭介は千夏を連れて事件のあらましを来賓客の一人であり、捜査開始を告げた相手である牧田に説明すると、牧田は苦虫を噛むような顔で事実を受け入れた。その後、牧田から参列者に説明をしてもらうように恭介が依頼をすると、二人はようやく現場から離れることができた。

 

 エレベーターで一階まで降りる間、千夏は己のふがいなさにただいたたまれなくなっていた。


「すみませんでした」

「何が?」

「危うく殺人の冤罪を作るところでした」

「困るよ、本当に。でも、それまでの事実の積み上げ方は見事だった」


 隣に立つ恭介の顔を見る。恭介の表情は変わらず飄々としていたが、声だけはやけにまじめだった。


「どこで、彼女が殺害したと気づいたんですか」

「んー、最初から?」

「そうですか」


 やっぱり叶わない、この人には。同じものを見ていたはずなのに結論が違いすぎた。

 肩を落とした千夏は、途端に手足を重く感じた。


「それにしても、つまらない事件だった」


 大きなため息とともに聞こえてきた恭介の言葉に耳を疑った。


「はい?」

「だって、結局は衝動的な殺人でしょ。途中までちゃんと積み上げてきた計画的でそこそこ美しかったのに、最後の最後にあんな衝動的な。ほんとナンセンス。これだから美的センスがない犯罪者は面倒だ」


 耳を疑いたくなるほどの、すがすがしい恭介の主張に千夏は信じられないものを見ている気分になった。


「あ、の」

「もう少しまともな犯罪者はいないのかな。芸術性にあふれている、というか美学というものがないんだろうかね」

「それは、警察官としてあるまじき発言ではないでしょうか」


 ゆっくりと頭を動かし恭介を見る。悪びれた様子もないまま、しかめた顔で恭介は話を続ける。


「そう? この国は言論の自由を保障している。僕は何も間違ったことは言っていないけど?」


 なぜこちらが間違っているかのような言い方をするのだ、この上司は。

 頬を掻きながら、千夏は恭介を見た。


「ですが、警察官としては間違っているのではないですか?」

「職務倫理の話? でもそこに言論までは縛ってないよね」

「……そうですが」

「ならば、問題ない。さて、帰りに新作のスイーツでも買っていきますかね」


 両手を挙げて、ストレッチをした恭介は何かを切り替えたかのようにあっさりした口調でそう言った。


「え、でもこの後事情聴取とか、書類のまとめとか」

「それはそれ。モチベーションアップのために、新作スイーツは必須。じゃなきゃ、仕事しない」

「それこそ、職務放棄では」

「人間の感情として至極当然でしょうが」

「感情はいらないって」

「ロボになれとは言ってない。事件じゃないんだから、感情くらい良いでしょ」


 何を言っても反論される。これ以上無駄な問答を続けても、気力がそがれるだけだと悟った千夏は何も言うことなく、黙って上司の後を付いて職場に戻ることに決めた。


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