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16.

「さて」


 千夏は集められた人の前で、そう切り出した。

 スーツの上からシャツがシワになるくらい強く握った。心臓の音が自分の耳に届くくらいバクバクとさっきから煩く鳴っている。


 これだけ緊張するのは、いつぶりだろうか。就職の時の面接試験以来だろうか。

 頭の中にあるのは、憧れた刑事ドラマの登場人物たちだった。彼らは事件の真相を堂々と話していた。

 まるで、名探偵のように。


 千夏も彼らと同じ立場に立たされて、ようやく彼らの気持ちが分かった。

彼らも千夏と同じように極度の緊張状態に置かれ、それでも被害者のために真実を明かすことをすることの責任の重さを感じていたのだろう。


 ごくりと喉を鳴らして、つばを飲み込んだ。


「今回の事件で最も奇妙な点を挙げるすれば、『何故花嫁はお手洗いで死亡していたか』となります」

「は、犯人じゃなくて?」


 花嫁の友人として呼ばれていた岡田由美が目を丸くしながら、千夏に問う。千夏は岡田由美の問いに頷きながら、話を先に進める。


「現場での奇妙な点は、二つ。腕に出ている発疹とピルケースです」

「ほ、発疹なんて亜美にはなかったぞ」


 花婿の杉村が噛みつくように言う。


「それは、いつ時点の話ですか?」

「昨晩だ」

「今日の亜美さんの体の状態を知っていますか?」

「い、いや」


 杉村は首を力なく振る。無理もない。花婿も花嫁同様早めに準備をしなければならない。


「そうですか。これは、ウェディングドレスを亜美さんに着せた人にも聞きましたが、挙式前も発疹がなかったことを確認できています。となると、亜美さんはいつ発疹ができたのか。これで、ウェディングドレスを着てから死亡するまでの間に絞り込めます。その間に何があったか。それは、挙式と披露宴だけです」


 タイムスケジュールを全員に見せる。

 挙式をしてから、披露宴が終わるまで分刻みでスケジュールが決まっている。全て滞りなく終えるために、ウェディングプランナーが立てるのだ。


「挙式を終えてから、披露宴までは簡単な化粧直しくらいです。そうですね、杉村さん?」

「ああ」

「では、発疹はなぜできたか。発疹ができる例としては、虫刺され、薬品や金属の刺激性物質にかぶれた場合、それと、特定の食べ物に対するアレルギー反応になります」

「まさか、そば……」


 岡田由美が真っ青な顔で小さく言う。千夏はその言葉を聞き逃さなかった。


「そうです」

「そばは、出ていないだろ」


 杉村が顎を掻く。千夏は首を縦に振りながら、メニュー表を見せる。


「間違いなくそばは出ていないです。被害者もウェディングプランナーの坂本さんに強く念押ししていました。では、何故発疹があったんでしょう?」

「食事にでも誤って混入していたんだろ」

「偶発的、ですか。杉村さん」

「それしか考えられない」

「故意に発生させた、ということは考えられないでしょうか?」


 故意、という言葉を聞いて、訊いていた人たちは一様に険しい顔をした。表情の変化がないのは、千夏と恭介だけだ。千夏は一呼吸置いてから、話を続ける。


「毒物を手に入れるよりは遥に簡単で、特定の人物だけを狙うのならば非常に効果的です。食べ物は毒にもなるんです」

「だけど、アレルギーによるアナフィラキシーショックだったら、もっと症状がはっきり出ているんじゃないんですか?」


 花婿の友人代表である沢村はおずおずと手を挙げる。


「席を離れた時は、そんな様子には見えませんでしたが」

「恐らく、症状としては軽症だったのかもしれません。ですが、本人にとっては毒です。症状を早く鎮静化させるために、このピルケースが次に必要になります」


 あらかじめ我妻から預かっていたピルケース。ビニール袋に入れてあるピルケースを全員の前に掲げる。


「アレルギー対策の薬、です。そばアレルギーは表示されるようになったものの、何かの拍子に混ざるかもしれない。そう考えた彼女は、常に薬を持ち歩いていた」

「だったら、その薬を飲んだんですよね、亜美は」


 岡田由美が声を震わせながら、千夏に問う。千夏は頷き、話を続ける。


「もちろん彼女はその薬だと思い込んで服用したんだと思います。でも、実際は違いました」

「まさか、毒物が」


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