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13.

「面白い、ですか」

「事件を解くヒント、とか」


 こともなげに言う恭介に千夏は少しイラついた。

 事件の真相がわかっているならば、自分でさっさと解決したら良い。それが被害者のためでもある。

 しかし、それを言うのは千夏はできなかった。

 せっかく憧れの警視庁捜査一課に異動になるというのに、異動前にも関わらず志半ばで憧れへの道を閉ざそうとしかねない発言にもなる。


 いったい、自分はどうしたら良いのだ。


 恭介に何も答えられずにいるにも関わらず、千夏に何も声をかけない恭介。沈黙がその場を占めはじめた。

 静寂に耐えられず、もう一度現場に行こうとしたところで恭介に呼び止められた。振り返ると、資料に目を通したまま恭介が婚礼料理資料を差し出した。


「そう言えば、ここの婚礼料理のラインナップ見た?」

「一通りは」

「もう一度よく見て見ると良い」

「何かヒントがあるんですか?」

「どうだろうね? まぁ、ゆっくり見ると良い。ここのホテルのアフタヌーンティ―はもちろんだが、ティールームのケーキも素晴らしい。それはこのラインナップを見るだけでもわかるもんだよ」

「それ、事件に関係なくないですか?」


 しまった。


 恍惚に語る上司に、棘のある言い方をしてしまった。口から出た言葉は戻らない。階級が上の、しかも上司となる予定の人に対する口の利き方ではない。


 だが、イライラが溜まった状態の自分ではその口を閉じることができなかった。


「何がスイーツですか。ここは殺人現場ですよ。不謹慎です。赤城警部は大変優秀でいらっしゃるようですから、現場を一目見ただけで解けているようですが、私はただの素人なんです。それに捜査はチームでやるものですし、これは原則を破っているのと同じです。それに、捜査に感情は不要? ですが、生憎と私はロボットではないのでそれはできません。あなたのように誰もがなれるわけじゃないんですよっ」


 肩で息をしながらも、さあっと血の気が引いていくのが良く分かる。恭介を見ると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。


 千夏は咄嗟に謝ろうと頭を下げてた。


「も、申し訳ございませんっ。私、私は」


 暴言を吐くとは何事だ。

 そんな叱責が頭の上から降ってくると思っていた。だが、いくら待っても叱責も罵声も鉄拳も飛んでこない。


 恐る恐る顔を上げて見ると、恭介はまだ同じ顔をしていた。


「あ、あの赤城警部……?」

「それで、続きは?」

「はい?」

「私は、の続き。僕は次の言葉をずっと待っていたんだけど」

「どうして」

「え? 気になったから」

「はい?」

「まさか、何もないの?」


 やけに不思議そうな顔で、首をかしげる恭介。その様子を見て、何も言えなくなった。自分がまき散らかした鬱憤が何一つ響いていないようだと千夏は悟った。


「つまり、君の主張は、君と僕は違う人間なんだから、同じことできっか、バーカ。ということだね」


 平たく言えば、当たりです。

 とてもそうとは言えず、気まずげに千夏は視線を下げた。


「君こそバカなんじゃないか。僕がそう言うこともわからない人間だと?」


 はい、そうです。と素直に言うことができず、千夏は視線を下げたままだった。言葉が平たん過ぎて、相手が怒っているのかどうかも判別できない。


「とりあえず、一度冷静になりなさい。僕は下のティールームに行くから」


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