A子さんが言うには「B子さんが言うには「C子さんが言うには「D子さんが言うには○○だって」だって」だって」だって
ある日のことだ。
5年A組の教室でクラスの女の子の体操服が盗まれるという事件があった。
学級委員長の僕としては、そんな犯罪は絶対に許さない。
そこで、助手のA子くんとともに犯人逮捕のため、片っ端から情報をかき集めた。
A子くんは僕と違ってクラスの人気は高い。
みんな惜しみなく彼女に協力してくれた。
そしてわずか二日でA子くんは容疑者を特定したのだった。
「それではA子くん。集めた情報を教えてくれたまえ」
みんなが帰った放課後の教室で、僕は椅子に座りながらA子くんの報告を受けていた。
「はい、学級委員長。まずはこちらをご覧ください」
そう言って黒板に聞いて回ったクラスメイトの相関図を書き始める。
まるでドラマでよく見る警察の捜査状況のようだ。
さすがは成績優秀なA子くん。
とてもわかりやすい。
「まずはじめに、私はB子さんから聞き込みを開始しました」
そう言ってB子に○をつける。
「ふむ。それで?」
「すると彼女はこう言いました。「C子さんが言うには「Dさんが言うには「E子ちゃんが言うには「F子ちゃんが言うには「G子ちゃんが言うには「H夫くんがI子ちゃんの体操服を盗ったのをJ子ちゃんが見た」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」と」
……………。
うん?
「A子くん、すまないがもう一度言ってくれないか?」
「ですからB子さんの証言だと「C子さんが言うには「Dさんが言うには「E子ちゃんが言うには「F子ちゃんが言うには「G子ちゃんが言うには「H夫くんがI子ちゃんの体操服を盗ったのをJ子ちゃんが見た」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」そうです」
…………。
ちょっと待て。
今の日本語、使い方あってるのか?
「A子くん、もうちょっとわかりやすくお願いできないかな?」
僕は机の上で両手を組み、碇ゲ○ドウのようなポーズを取ってみた。
そうしないと混乱してるのがバレてしまいそうだからだ。
A子くんは僕の慌てふためいた顔など気づきもせず言った。
「B子さんはC子さんからD子さんからE子さんからF子さんからG子さんからJ子ちゃんから「H夫くんが盗んだのを見た」って聞いたって聞いたって聞いたって聞いたって聞いたって聞いたって聞いたそうです」
いや、保険かけすぎだろ。
B子さんが直接聞いたわけじゃないことを強調しすぎて、よくわからいことになっているぞ?
つまりだ。
B子さんは人づてにH夫くんが体操服を盗んだのを聞いたということだな。
「なるほど、容疑者はH夫くんということか」
「ですがH夫くんにはアリバイがあります」
「ア、アリバイ?」
「はい、これをご覧ください」
そう言ってまたたくさんの名前が黒板に書きこまれた。
……嫌な予感がする。
「K夫くんが言うには「L夫くんが言うには「M夫くんが言うには「N夫くんが言うには「O夫くんが言うには「P夫くんが言うには「体育の時間はH夫くんと一緒にいた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」そうです」
……………。
「……つまり?」
「つまりK夫くんが言うには「L夫くんが言うには「M夫くんが言うには「N夫くんが言うには「O夫くんが言うには「P夫くんが言うには「体育の時間はH夫くんと一緒にいた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」そうです」
つまりになってないんだが?
さっきとまったく一緒なんだが?
「えーと? つまり? K夫くんが言うには体育の時間はH夫くんはP夫くんといた、ということかな?」
「いえ、厳密にはK夫くんはそれをL夫くんから聞いただけで、L夫くんはそれをM夫くんから聞いて、M夫くんはそれをNくんから聞いて、N夫くんはそれをO夫くんから聞いて、O夫くんはそれをP夫くんから聞いたそうなので、H夫くんがP夫くんと一緒にいたのを聞いたのはO夫くんです」
「…………へい」
よくわからなかったので、よくわからない返事をしといた。
「……どうしましょう。目撃者と証言者に矛盾が生まれていますね」
「つまり誰かがウソをついているということだな」
「そうですね。B子さん側の人間とH夫くん側の人間。誰かがどこかでウソをついてるということになりますね」
「いや、もう一人疑わしき人物がいるな」
「疑わしき人物? 誰ですか、それは」
「それは……」
僕はそう言って慣れない動作でA子くんに指を突きつけた。
「それはこの証言をまとめたA子くん、君だ!」
「……な!?」
カッと目を見開くA子くん。
やはりそうか。
よくわからない証言で煙に巻こうとしていたのが気になっていたのだ。
まさか自分が嫌疑にかけられるとは思ってなかったようで、明らかに動揺している。
「どうしてですか、学級委員長! なぜ私が? 納得のいく説明をしてください!」
「A子くん、君の優秀っぷりは知っている。クラスの誰からも好かれているのもな。しかし、この報告段階で、ほぼほぼすべて又聞きになっているのがおかしいのだ!」
「はう……!」
「君の情報収集力なら、全員の証言を得られるはずだ。実際は二人くらいしか聞いてないのだろう?」
どうやら図星のようで、A子くんはへなへなとその場に座り込んだ。
「……さすがは学級委員長。あなたの目は誤魔化せませんでしたね」
「なぜだ? なぜ君がクラスの女の子の体操着を盗んだのだ?」
僕の質問に、A子くんは供述してくれた。
「それは……」
「それは?」
「Q子ちゃんが「R子ちゃんが「S子ちゃんが「T子ちゃんが「U子ちゃんが「V子ちゃんが「W子ちゃんが「X子ちゃんが「Y子ちゃんが「Z子ちゃんが体操服がないから貸して欲しいって言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってた」って言ってたから」
………………。
「つまり?」
「Q子ちゃんが……」
Q子ちゃんはいいんだよ!
もっと簡潔に言って欲しいんですけど!?
「親友が体操着を貸して欲しいって言ってたから、貸してあげたくて……。私、体操着、持ってなかったし」
犯行の理由は単純だった。
そして体操着は洗って返そうと思ったのだが、事が大きくなりすぎてしまったため、返すに返せなくなってしまったらしい。
「でも、あなたが動き出した時点で、バレるのは時間の問題でしたね」
A子くんはそう言って潔く罪を認めた。
そしてそのまま先生に報告し、生徒指導室に連行されていったのだった。
めでたしめでたし
Aさんが言うには「Bさんが言うには「Cさんが言うには「Dさんが言うには「お読みいただきありがとうございました。って、たこすが言ってたらしい」って言ってたらしい」って言ってたらしい」って言ってたらしい」って言ってたらしい。