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7話


 一年生対上級生の練習試合。

 堅太郎はベンチでグルグルと獣のようにうなり声を上げて喉を鳴らしていた。


 一体、どういうことだ!?


 その原因はゴールキーパーである川田のプレイだった。

 川田のプレイスタイルは勇猛果敢な飛び出しにある。ゴールキーパーでありながらペナルティエリアの最前線にまで身を乗り出しボールを奪取する。

 気迫(あふ)れる攻撃型ゴールキーパー。

 それが川田の代名詞だった。


 しかしベンチから試合を見守る堅太郎を驚愕させたのはそれだけではなかった。

 池添が『魔剣剣士デュランダル』の剣を振り回し、ディフェンダーを薙ぎ倒すようにしてペナルティエリアに切り込んでいく。

 すると川田は怯むことなく、池添の足元に飛び込みボールを奪う。


 川田の背後にそびえ立つ、不動王明王のような思念体。

 それが池添の『英雄の加護(ガーディアン)』を掻き消し、池添の遺伝子スキルである『魔剣剣士デュランダル』の効力を無効化していた。

 福永もまた同じで、ペナルティエリアに侵入してボールをコントロールしようとすると、川田の思念体が『親愛なる眷属(ピクシーナイト)』の姿を消滅させた。


 ──うん? どういう理屈だ!?


 太眉ふとまゆ木彫り人形もあいつらと同じ遺伝子保持者だということは分かった。

 堅太郎は立て続けに『英雄の加護(ガーディアン)』の存在を目の当たりにし、存在自体は認めざるを得なかった。

 しかし、キャプテン川田の『英雄の加護(ガーディアン)』の能力が分からない。

 池添と福永が再三と攻め入るものの、川田が操る不動明王の咆哮が二人の遺伝子スキルを無効化し攻撃を食い止める。

 守護神、川田の活躍。

 そして、それが上級生チームを勢いづかせ、気づけば三対〇という結果でハーフタイムを迎えていた。

 


「おい、お前ら一体どういうことだっ!?」

 ぜぇぜぇと肩で息をする二人に堅太郎が問いただす。

「……分からん。キャプテンの前では『魔剣剣士(デュランダル)』が通用しねぇ」

 池添はそう言って投げやりな態度でスポーツドリンクをあおった。

 タオルで汗を拭き取った福永が、

「どうやら川田さんの遺伝子スキルは『英雄の加護(ガーディアン)』の能力を無効化するようなんだ……」

 と言葉を漏らす。


「だからどうした!? それが普通のサッカーだろ!? つーか、お前らその『英雄の加護(ガーディアン)』ってヤツに頼り過ぎなんだよ!」

 核心をつかれた二人は顔を見合わせると、不甲斐ないと言った様子で目を伏せた。


「ったく、だらしがねぇーな。お前らは『英雄の加護(ガーディアン)』がないと何もできねぇーのかよっ!」

 うつむいた二人は返す言葉が見つからない。


 堅太郎の話は的を得ていた。

 しかし、サッカーは組織力を競うゲーム。

 いくら優れた個人技をゆうしていても練度の高い組織力の前には無意味だということを二人は熟知していた。

 去年地区大会準優勝を果たした上級生チームの組織力は洗練されていた。連携が未熟な一年生チームとは雲泥の差だった。


「かなえさんっ! こいつらじゃ太眉ふとまゆ木彫り人形は倒せませんよ! 後半はこの秘密兵器、有馬堅太郎を使って下さいっ!」

 気を落としている二人を尻目に堅太郎がいきり立つ。

 かなえが表情を曇らせた。


 ──たしかにこのまま彼らに任せておいても状況は好転しない。だからといってサッカー経験の乏しい堅太郎君を投入してもいいのだろうか──


 堅太郎がかなえに交渉をしている背後で、

「うん? 待てよ」

 福永が突然、顔を跳ね上げた。

「やっぱり川田さんのプレイはおかしい」

「おかしいって一体何がだよ?」

 池添が怪訝な態度で突っかかる。

「強引なほどに前がかりなプレイスタイルだよ」

「はっ!? 何をいまさら? それがキャプテンの持ち味だろーがっ!」

「いや、いくらなんでもキーパーがあそこまで前にポジションをとるのはリスクがデカすぎる」

「お前、何が言いたいんだよ!」

「弱点さ」

「弱点?」

「そうさ、『英雄の加護(ガーディアン)』の弱点さ」

 

 池添が思い立ったかのように目を見開いた。

「……たしかに臭うな」

「『英雄の加護(ガーディアン)』は万能じゃない。必ず弱点がある」

「ははぁーーん。つまり、キャプテンのプレイスタイルから推測するに弱点は『範囲』だな」

 池添があごさすりながら答えた。

 それに福永も同調する。

「そう。おそらく川田さんの『英雄の加護(ガーディアン)』が効力を発揮するのは半径三メートルってとこじゃないかな?」

「それなら危険をかえりみず距離を詰めてくるプレイにも納得ができる」

 池添が深くうなずく。


「すなわち、川田さんの攻略方法はペナルティエリア外からのシュート」

 そこで二人は再び、視線を落とした。

 ゴールからペナルティエリアの距離は直線にして16.5メートル。その外からのシュートとなると20メートルもの距離を強勢きょうせいかつ正確に蹴らなければならない。

 おいそれと容易たやすくできる芸当ではなかった。


「待てよ。高さなら……」

 福永が名案とばかりに目を輝かせる。

「高さ?」

「『親愛なる眷属(ピクシーナイト)』の飛行能力でボールを上空へと運ぶ。そこから落下させたボールをヘディングで決めれば……」

 そこで二人の視線は、同時に堅太郎の背中へと向けられた。

「かなえさんっ! お願いですよっ! いつまで秘密兵器を温存させておくつもりなんですかっ!」

 堅太郎はかなえに詰め寄るように捲し立てていた。


「うーん、とは言ってもね……」


 歯切れの悪いかなえに対して福永が、

「かなえさん僕からもお願いしますっ! 上級生チームに対抗できるのは堅太郎君の高さしかありませんっ!」

 と、勢いよく立ち上がり懇願した。

「おっ、長良川の饅頭鵜飼もたまにはいい事いうじゃねーか? ようやく俺様の実力が分かるようになったか? がははははっ!」

 堅太郎が福永の肩に腕を回してガシガシと揺さぶる。


「……高さか。たしかに一理あるわね。ところで堅太郎君はヘディングシュートってやったことある?」

 かなえの問いに堅太郎は、一瞬、戸惑いをみせたものの、

「はいはい、ありますともありますとも。頭突きは得意中の得意でして。私の必殺技でもありますっ!」

 自信ありげに言い放った。


「頭突き? 必殺技!?」


「しゃあぁぁぁああーーオラァ、覚悟しておけよ、太眉ふとまゆ木彫り人形っ! お前は俺がヘディングでたおーーすっ!」

 堅太郎はそう雄叫びをあげると、かなえの気が変わらないうちにそそくさとピッチに向かっていた。


「いや、堅太郎君、ヘディングを決めるのはキャプテンじゃなくてボールの方だからねえーーっ!」


 かなえの不安は堅太郎の耳に届いてはいなかった。

 長髪を後ろで一つに括り、川田に向かって鋭い眼光を飛ばしていた。



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