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5話

 

 後半戦。

「……バカやろうが。なにが英雄の加護(ガーディアン)だ。キテレツな話をしやがって……、あんなのインチキじゃねぇーか」


 フォワードのポジションに入った堅太郎は、納得がいかない様子でぶつぶつと呟いていた。

 しかしボールが回ってこない。

 終始、赤チームがボールを支配していた前半戦とは打って変わって後半戦は白チームが優勢を保っている。


 またもや堅太郎は──、

 今度は──前線のポジションで暇を持て余していた。


 それもそのはず、ポジションを変更したのは赤チームだけではなかった。

 前半戦、白チームのゴールキーパーを務めていた白の1番がフォワードに入り、一貫してボールをキープしている。

 そのため赤チームの前線にはボールが回ってこない。

 

 ──ぐぬぬぬっ。

 堅太郎は歯軋りをしながら最前線で苛立ちを堪えていた。

 赤チームのかなめともいえる福永はディフェンダーのポジションに入り、白の1番の攻撃に手を焼いている。


親愛なる眷属(ピクシーナイト)』が白の1番の足元に絡みつきボールを奪おうと躍起している。

 しかしそこでまた、堅太郎は異変に気づく。

 ──うん!? なんだあれ??

 にわかには信じがたい『英雄の加護(ガーディアン)』と呼ばれる超常的な現象は、福永の『親愛なる眷属(ピクシーナイト)』だけではなかった。


 白の1番の身体に重なるように見える、──亡霊剣士のような残像。

 西洋の鎧をまとったフルフェイスの剣士が片手剣を振り回し、迫り来る福永の『親愛なる眷属(ピクシーナイト)』を振り払っている。


「ぷぎぃっ」

 小さな鳥型の生命体はその太刀筋をかわすのが精一杯でボールを奪うどころではなかった。羽をバタつかせ、銀色に輝くやいばの剣閃を必死にくぐっている。

 しばらく続いた攻防ののち、剣士の片手剣が『親愛なる眷属(ピクシーナイト)』の胸をつらぬき、剣先が背中から突出すると、

「ぷぎぃぃぃぃぃぃっっっっーーーーっ!」

 細く鋭い叫喚がこだまして『親愛なる眷属(ピクシーナイト)』の姿は霧散するように消えていく。


 それと同時に白の1番が福永の脇をすり抜けて、シュートをゴールに叩き込む。

 放たれたシュートがゴールネットを揺らしていた。


 ──はあ!? なんだあれ!?

 堅太郎は無意識のうちに、白の1番のもとに駆け寄っていた。

「……お、おい。お前、なんだ今のは?」

「はっ、誰だお前?」

 鋭い眼光が堅太郎に向けられた。

 切れ長の吊り上がった目に、入学早々にも関わらず茶色に染め上げられた髪。耳にあしらわれたシルバーのピアスがこの男の性格を物語ものがたっている。

 白の1番が大柄な堅太郎にひるむことなく、啖呵たんかを切るように食い下がった。


「初対面で言い掛かりをつけてくんじゃねーよ。俺にケンカ売ってんのか!?」

「いや、だから、あの剣士みたいなヤツは……」

 堅太郎がしぼり出すように声を震わせると、

「堅太郎君、池添いけぞえ君も僕らと同じ、遺伝子保持者の一人なんだ」

 福永が背後から歩み寄ってきて、二人の間に割って入った。

 堅太郎が、池添と呼ばれた白の1番の顔と福永の顔を交互に見比べる。池添尚斗いけぞえなおと。サッカー名門中学出身のドリブラー。


「なるほど。デカブツのお前も俺たちと同じ人種ってわけか──」

 池添が堅太郎の顔を一瞥いちべつした。

「ああ、堅太郎君はまだ覚醒していないみたいなんだけどね」

 堅太郎が返答に困っていると福永が会話を繋ぐ。

「どーでもいいけど、サッカーの基礎が出来てないヤツに『英雄の加護(ガーディアン)』が使いこなせるとは思えん。まあ、精々(せいぜい)、俺たちの足を引っ張るなよな。デカブツ野郎」


「……デカブツ野郎……?」

 池添の悪態に怒りが込み上げる堅太郎だったが、それどころではなかった。

 奇妙な物体を操る人間が二人。

 理解しがたい超常的な現象を福永だけではなく、池添にまで見せつけられ、半信半疑だった遺伝子保持者の話を強制的に受け入れるしかなかった。

「あう、あう、あう」

 堅太郎は感情を整理することが出来ず、口を動かして空気だけを噛み砕く。


「おいデカブツ、最初に忠告しておくけどな、俺は遊びでサッカーをやってるんじゃねぇんだ。くれぐれも俺の邪魔をするんじゃねぇぞ」

 池添の伸ばされた指先に重なるように、剣士が握る刀剣が堅太郎に突き付けられた。

 白く光り立った光芒こうぼうに息を飲む。

 物質として存在しているのか、思念体しねんたいとしての偶像なのかは分からない。ただ、目の前に迫るやいばの輝きは、現実リアルな質感を携えて堅太郎に向けられている。

 不良少年である堅太郎にとって刃物で脅されることはさして珍しい経験ではない。そのたびに弱者の虚勢だと、鼻であしらいじ伏せてきたものだ。

 しかし、今、目前もくぜんに突き付けられた鋭利な剣先は、どこか異様な、底冷えする殺気をたたえ、動けば瞬時に首をねられるような威圧感があった。

 身体が硬直して動かない。

 堅太郎は眼球だけをジロりと池添に向ける。


「ふん、まあいい。とりあえずトラップくらいは出来るようになれ。話はそれからだ」

 池添はそう言って、刀剣を持った剣士を取り下げるとその場を後にした。

「池添君の遺伝子スキル遺伝子名称(コードネーム)、『魔剣剣士(デュランダル)』。【切れ味(エッジ)】を司る因子を保持しているんだ」

 福永が去り行く池添の背中を見つめながら答えた。

「差し詰め、僕たち遺伝子保持者以外には、切れ味鋭いドリブルくらいにしか見えないだろうけどね……」

 福永が補足する。

 堅太郎は福永の話を聞きながら、


 ──違う。こんなのサッカーじゃねえ。

 俺が思い描いていたサッカーと全然違う。

 まるで、異能力バトルじゃねぇーか!?

 湧き上がる感情に困惑していると、


「白の1番の子、やるわね」

 主審を務めていたかなえが近寄ってくる。

 その言葉に堅太郎のこめかみがピキンと引きった。

「いや、かなえさん違うんすっよ。こいつら二人ともインチキなんすっよ……」

 そこまで言い掛けて、堅太郎の言葉は尻すぼみになった。


 ──遺伝子保持者以外は認知できない。

 言っても無駄か……。

「堅太郎君も頑張ってね。今度はバシッと決めてちょーだいっ!」


「あっ、ハイッ!」

 かなえの声に堅太郎の表情が緩んだ。


 ──まあ、いい。

 『英雄の加護(ガーディアン)』かなんだか知らないが、力でじ伏せてやるっ!

 そう意気込んで試合に戻った堅太郎だったが──、


 スカ。

 スカ。

 スカッ。


 『英雄の加護(ガーディアン)』を駆使して活躍する二人とは対照的に、素人丸出しの凡ミスを繰り返し、結局、見せ場を作ることができず終了してしまった。


 ──ちきしょう。

 ペテン師どもがっ!

 俺の恋路を邪魔しやがって!


 自分の未熟さを棚に上げて、遺伝子保持者の二人に、何やら違うライバル心を燃やす堅太郎であった。





 

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