表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

15話

 

 はっ!? はぁあああ!?

 こいつ、複数の遺伝子スキルを連続して使うことができるのかよっ!?


 堅太郎は武の上半身ではなく下半身の動きに意識を向ける。武の足元で福永の『親愛なる眷属(ピクシーナイト)』に似た物体がちょこまかと動き回っていた。


 ──たしか、福永の『英雄の加護(ガーディアン)』は【操作】(コントロール)の因子だったはず……、

 ここからまた五秒か──、

 その僅かな時間が重石おもしとなって堅太郎にのしかかる。


 すると、武はボールを跨ぐように挟み込み、空中へと跳ね上げた。


 ──!?っ

 飛び上がった鳥のような生命体が、ボールをつかみ、パタパタと翼を羽ばたかせる。

 ボールが堅太郎の視界から消えた。

 そして、武の身体は、──ズンッ!

 急激に姿勢を低くして堅太郎の脇をすり抜ける──。

 

 ──はっ!?

 頭が真っ白になった。正面に広がる視界、

 しかし──もぬけの殻。


 ──ボールはどこだ!?

 ──武は!?


 そう思った矢先、しばらくしてようやく、堅太郎の視界がボールをとらえた。

 首を動かしアゴを突き出す。

 堅太郎の頭上で『親愛なる眷属(ピクシーナイト)』がボールを運んでいた。

 武はかかとでボールを自分の背後から浮き上がらせて、堅太郎の頭上を越えさせようとしていた──ヒールリフト。


 堅太郎は視線でボールを追うも、まさかの事態に力が入らない。

 武はすでに堅太郎の背後に走り抜けている。ふわりと弧を描いた、山なりのボールが足元に落ちてくるのを背中で待っていた。


 ぐぬぬぬぬっ──

 分かっているのに、力が入らないもどかしさに、堅太郎は奥歯を噛み締める。

 伸びきったけん。足首、膝、腰。跳躍に必要な関節が左右の動きに備えていたため、反応できない。

 浮遊するボールを無情にも、視線だけが追う。


 パタ、パタパタ──、

 空中を舞う『親愛なる眷属(ピクシーナイト)』が堅太郎の頭上を通過して、ボールを落下させる。

 ──ふんがあぁぁっ!

 それと同時に堅太郎は、唯一、力が入る足の指だけで跳んだ──。

 地面を穿うがつように指先に力を込めて、斜め後方に跳躍する。


 余力のない身体が限界を越えて、後方に伸びた。

 ──!?っ

 人体の構造を無視した、いや、極限ギリギリの範囲で可動する唯一の力。


 ──ふんがががっあぁぁぁっっ!!

 それを後押しするように、咆哮をあげて叱咤しったする。

 奮い立った堅太郎の身体がボールに届く。

 そして、額が落下するボールを跳ねけた。


 ──!?っ

「ルーズボールっ!」

 キーパーの川田が咄嗟に声を荒げた。

 堅太郎の超人的な身体能力に静まり返っていたフィールドが、川田の声で動き出す。


 堅太郎の額に弾かれたボールがサイドを転がっていく──、

 予期しなかった不測の事態に、オフェンスチームもディフェンスチームも反応が遅れた。

 川田が即座にボールに向かって走り込む。


 ──ボールはまだ生きている──、

 倒れ込んだ堅太郎は身体を起こすと、弾けるようにボールを追った。

 立ち上がった刹那、跳ねるような瞬発力が、加速力を瞬時に生み出す。

 そして誰よりも早くボールに辿り着くと、振り向きざまに、ボールを蹴り込んだ。


 ドゴーンッ!

 ゴールラインすれすれの角度のない位置から大気をぐような一閃が、ゴールをえぐる。

 ──!?っ

 堅太郎が放ったのはクリアボールではなく、シュートだった。

 ディフェンスチームであるはずの堅太郎は、こともあろうか自軍のゴールにシュートを叩き込んだ。

 再び、フィールドが静まり返る。


「お、お前……」

 川田の頬をかすめた痛烈な弾道が、ゴールネットを揺らしていた。

 川田が呆然とした様子で声を漏らす。


「うおっしゃぁああっーーーーっ! 武も太眉木彫り人形も、まとめて撃破じゃあぁぁーーっ!」


 シュートがゴールに突き刺さったことを確認した堅太郎は雄叫びを上げて、拳を突き上げた。

 ──どうだっ! 

 俺こそが優駿高校の英雄、有馬堅太郎様だっ!

 そして、両手を広げて飛行機ポーズでウイニングランを決めていた。


「……いや、それ、オウンゴールなんだけど……」

 武が苦笑いを浮かべて、こめかみをく。

「とんでもない一年生が入部してきたな……」

 思わず武の本音がこぼれ出ていた。


 ──時に英雄はすべての常識を破壊する。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ