表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

14話

 ボールを抱えた川田が堅太郎に近寄ってくる。


「堅太郎、話は福永から聞いた。お前にも俺たちの『英雄の加護(ガーディアン)』が見えているようだな」


 堅太郎は黙って首を縦に振った。

『武の『英雄の加護(ガーディアン)』は遺伝子名称(コードネーム)──、『模倣犯』(ディープインパクト)。一度見た遺伝子(スキル)をコピーする」


「はっ!? はっあああ? ってことは、今のはやっぱり池添の『魔剣剣士(デュランダル)』!?」

「そうだ。一度見たものを瞬時に吸収する。【感性センス】の因子を持つ武ならではの能力だ」

「そ、そんなの反則じゃねぇーかよ……」


「だがな、武のコピーは万全ではない。能力を持続できるのは五秒だ。そのかん、お前の身体能力で耐え凌げ! 分かったな!」

 川田はそう言い残して、キーパーのポジションに戻った。


 すると、何やらクスクスとした笑い声が堅太郎の鼓膜をくすぐる。

 視線を笑い声の方に向けると、女子生徒達が嘲笑するように堅太郎を見つめていた。

 そこで堅太郎は、ハッとする。

 ゆっくりと視線を落とす。

 不様ぶさまに開いたガニ股の両足。


「堅太郎、お前のようなデカい選手は股下を狙われる。警戒しておけ!」

 川田の指摘にドッと大きな笑い声が起きた。

 ──股下だって?

 ガッツリと開いた大きなトンネル。

 ここを抜かれた──?

 たけ目当ての女子生徒たちの視線に、気恥ずかしくなった堅太郎は即座に両足を閉じた。

 かあぁーーっ!

 圧倒的な屈辱に堅太郎の顔が熱くなる。

「た、武ぇぇっーーっ! て、てめえ、もう一度勝負しやがれっ!」

 堅太郎は羞恥心を誤魔化すように声を荒げた。

 武が涼しげな笑みを浮べる。

「別にいいけど、武さんな! 武『さん』。俺、こう見えて上下関係には厳しいタイプだから」

「……た、た、武──、さ、さ、さんっ、もう一度勝負しやがれっ!」

 武の口角がニヤリと吊り上がる。

「つーか、堅太郎、お前、面白いじゃん。じゃあ、もう一回やろっか。今度は川田さんからもゴールを奪いたいし──、あと、しやがれじゃなくて、『してください』、なっ!」

 武がそう言ってボールをセットすると、ミニゲームが再開された。


 ヨシトミ、エダテル、堅太郎。

 三人で包囲網を張って武をマークする。

「堅太郎っ! お前なにやってんだっ!?」

 その光景を遠巻きで見ていたサイドのフルキチが怒号を上げた。

 ──なにって、股下抜き対策ですが……、

 堅太郎は小便でも我慢するように、内股を小さく閉じて身構えていた。

「そんな体勢で動けるわけねぇーだろっ!」

 その姿に、エダテルが呆れたようにののしった。

「バカヤロウ! 股抜き対策はな、身体を正面に向けず、斜めに構えるんだよ!」

 そう言ってエダテルが見本をみせる。

 武の活躍を見守るギャラリーたちから再び、笑いが起きた。


 ぐっ、ぐぐぐぐ──、

 堅太郎が下唇を噛み締め、ゆっくりと内股を開くと、

「ったくよ。見込みがあるヤツかと期待してたが、やっぱりただの素人じゃねぇーか!?」

 エダテルが冷やかな視線を向け、ポンッと、ヨシトミが堅太郎の肩に手を置いた。

「まずは基本を覚えろ」

 上から目線の物言いに、堅太郎の表情が引き攣った。


 ──分かってねぇーのは、てめぇらの方じゃねぇーか!

 基本なんてどーでもいいんだよ!

 こっちはサッカーじゃなくて異能力バトルをやってんだ。この凡人どもがっ!


 堅太郎が言葉を詰まらせ、悶々と身体を震わせていると、

「さて、始めようか──」

 武がクリスタルのような思念体を再び繰り出した。ディフェンダー陣が散るようにしてポジションに戻る。

 武の『模倣犯』(ディープインパクト)が、剣士の姿に変貌する。


 ──五秒だ。

 堅太郎は咄嗟に心の中でカウントダウンを始めていた。


 そして、

「あっ!? あっああぁぁぁぁーーっ!」

 突然、大声を張り上げた。

「武さん、見て下さいっ! あの子めっちゃ可愛いくないですかっ!?」

 フェンス越しの女生徒たちに指を差し向ける。武は、一瞬、視線を送ると、何事もなかったかのようにしてドリブルで切り込んでくる。


 ──くそっ! 時間稼ぎ失敗。


「堅太郎っ! バカなこと言ってないで集中しろ!」

 ヨシトミが疾呼しっこして武に向かっていく。

 堅太郎は素早く視点を動かして、カバーリングポジションを見定めた。武の動きに先輩たち二人が食らいつき、ポジションが目紛めまぐるしく変わる。

 果敢にボールを奪いにいくヨシトミが肩や両手を振って、激しく体をぶつける。その後ろで、エダテルが虎視眈々と突破口を阻もうとしていた。


 ──よし、いいぞ。時間を稼げ!

 堅太郎は動向をうかがいながら、左右にステップを踏んで武の突破に備える。

 ──あと三秒、

 堅太郎がそう思った矢先、

 武は左方向にドリブルを仕掛けた。ヨシトミが身体を合わせる。すると、剣士の刀身がくうを切り裂き、武はアウトサイドターンで右側に抜けた。

 エッジの効いた切り返しにヨシトミの身体がつんのめる。

 しかし、すかさずエダテルが右側をマークする。エダテルと対峙した武は、連続したアウトサイドタッチでボールを細かくさばくと、今度は直角にターン。ヨシトミとエダテルの間を抜ける。

 剣士の剣先が矢継ぎ早に振り抜かれた。


 そこで、──残り一秒、

 意味深な笑みを浮かべた堅太郎が正面に立ち塞がった。


 ムフフフ。初心者向けの指導(チュートリアル)トリオのみなさんご苦労様です。

 武さん、時間切れっスよ。

 股下対策にも抜かりなし──身体を斜めにして迎え討った。


 堅太郎の思惑通り、武の『模倣犯』(ディープインパクト)は、剣士の姿から本来の形へと変化した。


 五秒経過──してやったり。

 あとは俺が力づくで食い止める。

 堅太郎が、そう意気込んだのも束の間、

 ──ぐにゃり。

 クリスタルの人型の物体が、予想に反して小さな鳥のような姿に変貌した。


 ──なっ、なに!?

 これは福永の『親愛なる眷属(ピクシーナイト)』!?

 羽根の生えた小さな物体が武の足元に纏わりついてボールを死守していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ