採取の授業
転校してから数十日が経ち、生活に必要な超基礎的な魔法はいくつか使えるようになった。この世界には電気やガスがないので、料理するにも、お風呂に入るにも魔法は必須だ。魔法が発達している分、科学は遅れているようだった。日常生活困らない程度の魔法は使うことが出来たが、攻撃魔法や防御魔法などはいまだに使えない。
今日は採取の授業の一環で出かけることになった。自然に生える薬草を採りにいき、次の調合の授業でその薬草を使って傷薬の調合をするカリキュラムだ。採取の授業の先生は背が高く、全体的に筋肉がしっかりついているいかつめの先生。
「洞窟に入ってもらう。湧き水でできた泉があって、その付近に今回使う薬草が生えているから、それを採ってくるように。危険は少ないはずだが、単独行動は控えるように。以上だ。行ってこい。」
指示も最低限で分かりやすい。みんな立ち上がり、教室を出ていく。わたしの方にレイくんが近寄ってくる。
「行こう。」
そしてもう1人。初日に、レイの彼女か、と聞いてきたクラスメイト。
「俺も一緒にいいか?」
名前はアキラくんといい、クラスメイトの中で1番レイくんと話している。自然とわたしも話すようになった。レイくんは女の子から人気があるが、言葉が少ないためかあまり話しかけられはせず、見守られている。そしてそんなレイくんに積極的に話しかける同性も少なかった。唯一アキラくんは普通に話しかけている。レイくんが頷き、3人で行動することになった。
指示された洞窟は、入り口はそこそこ大きく、高さは身長の倍はあるし、幅も6~7人並べるくらいだった。入ってみると奥も深いようで、先は真っ暗だ。到着したクラスメイト達が、指先に火を灯して明るくする。これは私にも使える魔法だ。足元を照らしながら、どんどん奥へと進んでいく。静かな洞窟で、話し声だけが響いている。20分程歩いたところで、ピチャンという水の音が聞こえてきた。
「泉は近そうだね。」
少し安心しながら歩を進める。もう10分程歩くと泉があり、クラスメイトたちの姿もあった。
「薬草あったよ!」
「採って、学校戻ろうぜ。」
私の声に応えたのはアキラくんで、レイくんは薬草を摘んでいる。無事に採取して学校に戻ろうとした時だった。
「…何か音が聞こえない?」
「音?」
「…」
遠くから、低く響くような音がした、気がした。アキラくんは気にならなかったようだ。レイくんは辺りを警戒している。
「嫌な予感がする。急ごう。」
レイくんの言葉でわたしたちは来た道を足早で戻り始める。
次第にヴーン…という音が近づいてきた。無視できないくらいの音の大きさ。
「何かいる。早く!」
レイくんは後ろを確認しながら移動している。まだ泉に残っていたのだろう、後ろの方からクラスメイトの叫ぶ声が聞こえた。
「蜂だ…!」
「デカい!!」
どうやら大きめの蜂がいるようだ。ヴーンヴーンという羽音と騒がしい声が聞こえてくる。レイくんもアキラくんにも蜂の姿が確認出来たようで、
「あれは毒を持ってる種類。」
「マジか!あの大きさの蜂の毒針に刺されたら危ないんじゃ…!?」
「1匹じゃない、まだ十数匹はいる。」
声を掛け合っている。わたしは暗くて足場の悪い中を進むだけで精一杯で、2人の言葉を聞いて危ない状況なんだと知った。