悠人
孤児院の庭園、悠人という少年が居た。
「ふぅん...。読めない漢字ばかりだな。」
「お前また本読んでるのか。たまには皆と混ざればいいのに。」
「いや、いいよ。あまり体は動かしたくないし...。」
「ふぅん じゃあいっか。」
悠人は庭園のベンチで常に本を読んでいた。同じ本を何度も。
「おい、悠人、また本読んでるのか。」
「あ、おじさん。こんにちは。」
「何の本を読んでいるんだ...?」
「黒羊。読めない漢字ばかりだけど。」
「お前いっつもそれ読んでいるのか。好きなのか?」
「特別好きってわけじゃないよ。この人が書いている小説は全部好きだよ。誰が犯人だったり、謎を解くシーンだったり、場面の切り替わり、展開だったり全部が面白いんだ。」
「へぇ...。かなり好きなんだ。」
「うん。俺はこれを読むのに集中しているから、話はまた後でね。」
「じゃぁ、ちょっと聞きたいんだけど、なにか欲しいものはあるか...?」
「? いや、特に無いけど。」
「本当か?他の子達は皆欲しいものがあるぞ。おやつとか、おもちゃとか、なんかあるだろ?」
「いや、別にいらないかな。この本にだって、甘やかされすぎた子供は将来駄目になってしまうって。」
「夜隅みたいになりたいのか...?」
「!? どうして、この小説の人の名前はを...知ってるんですか...?」
「そりゃ分かるさ。俺だって昔子供の頃読んでいたからな。何度も何度も。」
「へぇ... 意外と古い本なんですな。」
「30年前くらいに作られたんだぞ。知らなかったか?」
「はい。」
「そうか、じゃぁ、もう一回聞くけど、欲しいものはあるか?」
「強いて言うなら、この人の書いた...他の小説がほしい。黒羊以外の。」
「よーし、分かった!見つけたら買っといてやる。」
「本当!?ありがとう、おじさん。」
悠人は微笑んだ。