78.ノーコメント
遅れましたー。
全然内容が書けないので最近文字数少なめで誤魔化してます、あしからず。
「……見て見ぬ振りをするのも不自然過ぎるから思い切って聞くけど、もしかして作家なの?」
「……ノーコメント?」
「まあ良いけど。私が配信を切っていたことが不幸中の幸いだったわね。さすがに配信に乗っていたら言い逃れは出来なかったわよ?」
「その通りでございます、ヴィオラ様。弁明の余地もございません……そして配信をしていなかった事実に深く感謝致します」
「馬鹿なこと言ってるわよ……本当にこんな人がご主人様で良いの?」
呆れた顔でアインへと話しかけるヴィオラ。し、失礼な。確かに迂闊だったし本当にヴィオラじゃなかったら大変な事態に陥っていたけれど、それとアインとのテイミング契約については話が別では!?
アインはアインでもう諦めている、みたいな空気感を醸し出してヴィオラに慰められている。ば、馬鹿な……アインに裏切られただと?
「まあ、確かに暇は暇よね。さすがに大晦日にこんな早い時間から来る人はそうそう居ないと思うし」
ヴィオラさん? 御自身のことを棚に上げて言ってらっしゃる?
「私は何か手伝うことはないかなって思って早く来ただけよ!? 別に掃除も昨日のうちに終わったからすることもなくて早く来たとか、そう言うことじゃないわ……」
尻すぼみになりながらも必死に言い訳をするヴィオラさん。うん、掃除も終わったし暇だったんだね。
「さて……どうする? 何かする?」
「何かって……見たところ準備は完璧に終わっているし特に何もすることはないわよね?」
会場をぐるりと見渡しながらヴィオラが言う。確かに。もう準備は終わっちゃってるんだよね。だからこそ暇で仕事をしていた訳で……。
「んー、じゃあ今後の活動についての雑談?」
相手が居るからこそ出来ること、雑談。それに何より最近は、やれパーティーの準備だ、やれパーティー当日だ、訴訟準備だと忙しくてヴィオラと話す時間が全然取れていなかった。
「そうね、それが良いかしら? 教会の件も年明けすぐには決着がつきそうだし、そうなったら東の新規開放エリアにでも行ってみる?」
「ああ、あったね。どんなところなの? 宿とか取れそうな感じ?」
王都クエスト完了直後に解放されたエリアか……なんだか王都クエストが遠い昔のことに感じるのは僕だけだろうか? おかしいな、長く生きると時の流れが速く感じるようになると言うけれど、さすがにここまで早いと感じることは未だかつてなかった筈。
「そうね、本格的に拠点を王都から移している人も居るには居るけど、足がある人達は王都と行ったり来たりしている感じだから宿の部屋数に余裕はありそうよ。私達は足がないから拠点を移すか、高いのを承知でテレポスクロールを使用するか……」
「足?」
「そう。馬とかロバとかラバとか? アイン君を見てスケルトンホースを探している人も居るみたいだけどそっちはまだ前例がないわね」
「足かあ……確かに今後遠距離を移動するなら徒歩じゃ厳しいよね。森ですら一日がかりだったし」
正直森よりも先の距離を徒歩で移動するのはごめん被りたい。ただひたすらにゲーム内を無心で歩くだけ……苦行過ぎます。
「問題がいくつかあって、まず馬を購入するにはそれなりの費用がかかること。それに購入して終わりじゃなくて、コンスタントに餌代とかもかかるわ。費用を抑える為に王都から東迄馬をレンタルして乗り継ぐ方法もあるけれど、それだとテイミングが出来ないのよね」
「テイミングをする必要って……あー、乗馬熟練度か」
確かに乗馬をしたことがない人がいきなり馬をレンタルして片道一週間の距離を駆け抜けてね!とは鬼畜の所業。普通に考えて無理だろう。熟練度が上昇するまでひたすら練習しないといけない。けれど、ゲームの世界で馬に乗るためだけにそんなに時間をかける人はそうそう居ない。早く目的地に着くために馬をレンタルしたのに、乗馬の練習にそれ以上の時間をかけるのは本末転倒。
その状況を打破する為に考え出された手法が馬とテイミング契約をすること。テイミングをした動物とは意思の疎通が出来るので、主人が乗馬に不慣れでもそれなりに乗りこなせるように馬の方が合わせてくれる、と言う仕組み。ただしこの方法には一つ問題がある。
「そう。乗馬経験者とか、別に急いで目的地に行きたい訳じゃないからまずは後々のことを考えて熟練度を上げたいって人はレンタルで良いと思うの。で、もう一つの問題が既に別の動物とテイミング契約を結んでいる人よ。折角馬を購入しても、熟練度不足で複数契約が出来ないみたいなのよね。蓮華くんも既にアイン君をテイミングしているじゃない?ってことは……」
「うーん、テイミング熟練度がいくつになれば複数契約が結べるのかは分からないけれど、多分まだじゃないかなあ? でも僕は乗馬の経験はあるからレンタルで問題ない、筈?」
……ちょっと遠い過去の話なので実際に乗ってみないと分からないけれど。
「ああ、そうなのね。それなら心配要らないわ。犬や猫と契約している人はここがネックでなかなか東に行けないって言っていたのよね」
「そんなに遠いんだ?」
「片道一週間ってところかしら? 勿論途中途中に町や村なんかがあって宿もあるけど、既にトッププレイヤーがあらかた探索済みで情報が出回っているからクエスト位でしか用事はないって」
「ふうん……考えてみれば僕は今迄クエストをやってきてないけれど、いきなり東に行ってクエストは発生するのかな」
「確かに……、そこも問題ね。メインクエストは普通最初の町から受けるものだからどうなのかしら。実際に東に行ってみてからクエストが発生しませんでした、ってなんか嫌よね」
それは確かに嫌だけれど、最初の町に戻る手間を考えたらこの先もクエストなしで良いのではないだろうか、なんて考えてしまう僕は出不精でしょうか。だって本当に最初の町から王都迄は遠かったんだよ……現実時間で二週間近くかからなかったっけ?
「まあどうせ今迄もクエストを受けてきていないし、これからもないのであればそれはそれでもう良いかなっとは思うけれど。ああ、でもなあ。クエストを受けないことによってヴィオラと一緒に遊べないような状況になるのは困る」
「そうね、突然ストーリークエスト上の演出でインスタンスダンジョンに飛ばされたときに、隣に蓮華くんが居なかった……なんて嫌だわ」
「だよね。とはいえ最初からクエストを受けるには初期町に行く必要があって、ゲーム内で片道五十日……現実だと二週間……遠すぎる。往復だと倍かかるもんなあ」
「クエストを受けながら戻ってくる訳だから、帰りの道は更に時間がかかるわね。馬をレンタルしたとしてもはっきり言って地獄よ」
「NPC時代に訪れた場所でもテレポスクロールが使えるなら一気に戻ることも出来るけれど……五万!さすがに高くて出したくないな」
「世界観とのバランスを考慮しての価格なんでしょうけど、いくらなんでも高いわよね。今後は五万円ですらはした金だと思える程稼げるってことかしら……? でも日本円へ変換出来る世界でそれは運営が赤字になりそうよね」
「冒険者ランクが上がらないと、報酬の高い依頼は受けられない。冒険者ランクを上げる為には熟練度を上げて強くならないといけない。五万円がはした金だと思える程稼げる日は一体何年後なんだろう?」
「なるほど。数年あれば運営側は開発資金の回収が出来ると踏んでいるのかもしれないわね。オフィス街へテナント入居も増えれば安定して回収出来るし、ある程度ならプレイヤーへ還元出来る、と」
「かもしれないね。……とりあえずクエストの件は初期町に確認しに行くのも一手間だし、運営に問い合わせしてみようかな。プレイヤーになったので今後はクエスト受けられますか、受けるとしたら初期町に戻らないといけないですか、って」
「そうね、その結果次第で次の行動を決めましょうか」
話がまとまった頃、タイミングよくまとまった人数のプレイヤーがやってきたので雑談は終了。クリスマスのときも思ったけれど、皆一気に来るということは、実はどこかで示し合わせてきてるのかな? 僕と二人きりだと気まずいと思っているのかも。……あながち間違いじゃないな。話題提供は苦手なので出来る気がしない。