76.何のことでしょう?
ヴィオラやアインとのプレゼント交換についてはいつか番外編で記載する予定です(需用があれば
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そして今更、大掃除に励んでおります。汗だくです笑
翌二十五日早朝には運営側から修正完了の連絡があった。そのお陰もあって、大きなトラブルもなく二日目は無事に過ぎていった。模様替えの効果もちゃんとあり、それぞれ楽しみたい人の動線を邪魔することもなく一日目よりも反響が良かった。
総じて、クリスマスパーティー自体は成功と言っても良いのではないだろうか。この調子で年越しカウントダウンパーティーも平穏無事に開催が出来れば良いのだけれど。
なんてことを思いながら仕事を終えて王都シヴェリーに戻り、いつものように配信を通して視聴者さんとの雑談を楽しんでいたとき。
『おいお前!俺のこと勝手に調べやがったな!?』
『家に迄来るなんて卑怯だぞ!』
『家族にばれたじゃねえかよどうしてくれんだよ』
といったコメントが相次いだ。うん……全く心当たりはないけれど、プレイヤー名的にはクリスマスパーティーで料理を叩き落としてくれた男性だ。そうか、あれから六日経っている。今日からアカウント凍結解除だったか……。
「クリスマスパーティーの方ですか。何のことでしょう? 僕は特に何もしていないですが」
『噓つくんじゃねえよ、じゃあ誰が家迄来たって言うんだよ』
『仮に蓮華君だとしても自業自得では……』
『家族にばれてやばいようなことしてる段階でなあ』
『ゲーム内なら何しても良いと思ってる方が卑怯』
「噓と言われましても……クリスマスからこっち、まあ確かに仕事中は配信をしてないですが、それ以外は常時配信中だったので調べる暇なんかないですよ。視聴者の皆が証人になってくれると思います。まあ、誰かに代わりに調べさせたとか言われたらそれまでですけどね」
『それだよそれ、代わりに調べさせたんだろ?来た奴もお前じゃなさそうだし』
「誰が来たのかは知りませんが、その人は一体なんて言ってたんです? 僕の代理人だと?」
『パーティーで無駄にした料理を弁償しろとよ。内容的にお前だろ?』
「まあ確かに被害者は僕なので僕を疑うのは分かりますけれど……数千円の為に貴方の個人情報を調べる労力を考えたら割に合わないですからねえ、やりませんよ」
『確かに』
『数千円と言っても実被害だからね、労力はともかく凸る資格は十分』
『それで?払ったの?』
『払うわけねえだろ、ゲームだぞ?』
『こいつ微塵も反省してなくて草』
「ええ……ゲームだとしても僕が被った被害は日本円なのですが……? んー……より具体的な法整備自体は今回行われましたが、ネット上での被害自体は既存の法律でも処罰された前例はありますよ。なので僕は貴方に対して民事訴訟を行うことが出来ます。これが一つ目。二つ目、貴方の今回の行いは刑法第二百六十一条器物損壊に当たる可能性が大きいです」
『は?おいそんなわけねえだろ、噓こいてんじゃねえぞ。逆にお前のこと調べてぶっ殺すぞ』
『刑法って事は刑務所行き?』
『執行猶予つく可能性はあるが基本は刑務所か罰金』
「だって貴方を野放しにしていると、またどこかで同じ事をやりそうじゃないですか。今回はたまたま僕がターゲットだっただけでしょう? だからこれ以上の被害者が増えないように、僕が責任を持って動いた方が良さそうだと思いまして。僕の感覚的には『数千円ならまあ……』と諦めもつきますが、他の人にとってはそうじゃないかもしれない。学生なんかにとっては許せない金額だと思いますし。あと、今の貴方の発言は刑法第二百二十二条脅迫に当たりますね」
『どんどん罪が増えてて草』
『民事は蓮華くんが訴訟を起こさなきゃ回避出来るけど、刑事はどうにもならんw』
『ご愁傷様www』
『ゲームだからこそがっつりログ残ってんだよなあ』
「一つだけ言っておきますが、ゲーム内のことはゲーム内で。貴方のその考えは間違いではありません。ですが、場所が悪かったですね。料理を吹っ飛ばしてもそれがシヴェフ王国内だったらまだ、ソーネ社側の判断で済んだ可能性があるのですが。今回貴方が事を起こしたのはオフィス街ですから……」
『政府肝いりの空間だもんな』
『基本的にソーネ社と言うより国の管轄だな』
『仕事中に暴力振るわれて「ゲーム内だから関係無い」とか通じる訳がない』
「皆さんの言う通りです。現実のオフィス街同様、歩いている人に暴力を振るえば暴行罪が適用される空間です。ですからあの地域のレンタルスペースで開催していた僕のパーティーに、入場料を払った上で料理が載ったテーブルに飛び乗り、料理を叩き落として妨害をした貴方は間違いなく器物損壊罪に該当すると思います。過失ならともかく故意ですしね。器物損壊罪は親告罪ですから、僕が訴えなければ処罰はされません。なので穏便に済ませようと思っていたのですが……」
とここで僕は言葉を濁す。要するにお前が反省もせずに更に騒ぎ立て、挙げ句の果てに脅迫罪に抵触しそうな発言迄したから告訴するぞ、と言外に匂わせている。誰かは知らないけれど、既に彼の個人情報は把握済みらしいしね。そう言えば、もう一人のプレイヤーはどうしたのだろうか。正直彼に関しては手掴みで料理を食べただけだからなあ、器物損壊に入るのか微妙だな、と思っていたし何より今の所音沙汰がない。謝罪云々はさておき、これ以上何かをしでかすつもりがないのであれば放置で良いかな、とは思っている。
『俺を脅そうとしても無駄だ、ゲーム内は所詮データの塊。壊したものが存在しないだろ』
『もうこいつどうしようもないから告訴しとこ』
『器物損壊罪は前条三つが含まれるから、「他人の電磁的記録」も含まれるんだよなあ……』
「視聴者さんの言うとおり、現実に存在する物だけでなく、電磁的記録も器物に含まれるので、今回のこともアウトだと思いますよ。まあそこまで信じられないのであれば、僕としてもどういう判断が下されるのか気になるのでさくっと告訴の手続きしてきますね」
『あーあ』
『誰だか知らんけどどんまい』
『さすがに刑事訴訟は家族も見捨てるだろ……』
『これが塀の外での最後の年越しかもしれない』
『罰金で済むと良いね!』
どこの誰なのかを調査する手間は多分かからない筈。僕自身は身に覚えがないけれど、こういうことに関してとんでもない速度で行動を起こしそうな人物には心当たりがある。きっと彼の家を突き止めたのは洋士なんだろうなあ……。別にそこまでしなくても良かったのに。でもちょっと嬉しい。いや、それにしても今回の件は一体どこから突き止めた……あ、配信を見てるんだっけ。あれ、あの日は用事があるって言ってた気がするのだけれど。わざわざアーカイブを観たのかな?
もう言い訳も聞きたくないし、本当に告訴準備を進める為に、視聴者さんに断りを入れてからログアウト。これで更に信憑性も増して、今頃彼は大慌てだろう。僕と連絡を取ろうにもそれこそGoW内以外では取れない訳だし。
それにしても全く、明日は大晦日だというのにこんな面倒事を起こすとは……。許すまじ、迷惑プレイヤー。名前の通り沸点の低い人だったな……。
§-§-§
「洋士、居る?」
「ああ、どうした?」
「クリスマスパーティーでトラブルを起こした人を正式に器物損壊罪で告訴しようと思って」
「民事は良いのか? 少額とはいえ現金で損害が出たんだ、お前が許すとは思えないんだが」
「何の件だ?」なんて聞くこともしないで当たり前のように話が通じちゃうんだなあ……。やっぱり住所を調べたのは洋士でほぼ確定ですね。
「うーん、まあ普段から節約してる身としてはそれなりに……いや、かなり腹が立つけれど、書類作成したりする労力を考えたら微妙過ぎない?」
「お前がやると言えば徹底的に叩きのめす為の準備は既に整ってるぞ。告訴状も作っておいた。それに労力が見合わないと言うが、何も被害を被った金額だけ請求する必要はないだろう。お前がパーティーにどれだけ準備時間を充ててて、料理をどれだけ丹精込めて作ったのかは配信を通して皆が知っている。精神的苦痛に対する慰謝料も上乗せして請求する位朝飯前だぞ」
「そう。全部揃ってるんだ……。うん、予想はしていたけどさすがというか何というか。それにしても慰謝料か……。ショックじゃなかったかと言えば噓だし、腹が立ったからその場で運営に問い合わせをした訳だし、うーん。でも告訴した上に民事でそこまで請求するのってやり過ぎじゃない? どう思う?」
聞いてから駄目だな、と思った。洋士に聞いたところで身内贔屓が過ぎて公平性に欠ける返答しか来ない気がする。もっと冷静に判断出来る第三者に聞くべきだったな……。