74.どうしてこんなことを?
すっっっっっっかり忘れて時間過ぎてました!失礼しました。
1月4日みたいになってしまった……
昼過ぎから続々とプレイヤーが集まり、みるみるうちに料理が減っていく。勿論一度作った料理は食材さえ調達出来ればその場で補充出来るので慌てる必要もなければ裏方に徹する必要もなくて、僕もパーティーを堪能出来ていた。
あらかじめ設定しておいたルールも上手く発動しているようで何組かのプレイヤーが会場外へと強制排出を喰らっていたけれど、そのあとは仲直りしたのか休戦協定でも結んだのか、それとも関わらないことに決めたのか。今の所全員無事に会場内へと戻ってきている。
雰囲気ががらりと変わったのは現実時間でいう午後六時過ぎ辺りだろうか。突然甲高い音が聞こえたかと思えば、プレイヤーの一人が料理の並んでいるテーブルの上に立ち上がり、料理を次々に足で蹴飛ばして落としている。
その仲間なのか、別のプレイヤーも料理を取り皿に盛らずに手掴みで食べるといった行為を行っている。けれど二人は喧嘩をしている訳ではないのでルールに引っかからず、強制退出にならないのでやりたい放題。
僕を含め、その光景を見て呆然としていた周囲のプレイヤー。我に返った何人かのプレイヤーが慌てて二人を確保し、テーブルの上から引きずり下ろした。
「蓮華さん、この人達どうします?」
とわざわざ声をかけてくれる辺り皆いい人。しかし……どうしよう。単純に入り口の端末からブラックリストに登録して「はい、さようなら」でも良いのだけれど、会場に来て迄こんな行動をする辺り、多分僕に恨みがあるとかだよね?
「どうしてこんなことを?」
訴えたい何かがあって事を起こしたのだろうし、まずは動機を聞いてみた。まあ何を言われても許す気はないけれど。テーブル一列分の料理を無駄にされたんだから当然だよね。
「いやいやいや、何? 普通に出禁すれば良いだけなのにわざわざ話しかけてきて『僕は公平ですよ』アピール? お前まじで何様なんだよ」
と笑いながら切れるという器用な芸当をしているのは料理を全て叩き落としてくれた方のプレイヤー。
「目立ってんのがむかつくだけですよ。って言うかこんなパーティーまで開催しちゃってどんだけ目立ちたいんすか? かまってちゃんですか?」
と妙に煽ってくるのが手掴みで食事を食べていたプレイヤー。うん……? つまり二人とも僕が何かをやってしまったという訳ではなくて単純にひがみ? 入場料払って迄こんなことするって相当暇なのかな?
『こいつ攻略組(笑)のプレイヤーじゃない?』
『最近蓮華君のコメント欄荒らしてる奴の仲間じゃなかったっけ……』
『まじで何考えてんのこいつ?』
『入場料払ってまで嫌がらせとか……』
ご丁寧に何人かの視聴者さんが鑑定で他プレイヤーの情報が確認が出来ることと、多分、と前置きをしつつ目の前のプレイヤー名を教えてくれたので鑑定を使用しつつヴィオラに質問をする。
「ヴィオラ、今配信している映像を運営側に確認して貰いたい場合ってどうすれば良いのかな?」
「配信終了時にアーカイブとして保存された動画をダウンロードして添付するか、該当時間のタイムスタンプ付きの配信動画のリンクを報告するかのどちらかね。まあ貴方がやらなくても既に視聴者かここに居る誰かが報告済みだとは思うけど」
「でも一応一番の被害者は課金食材を無駄にされた僕だからね、僕からも報告するのが筋だと思う」
そう言って僕もシステムメニューから「問い合わせ」を選択し、報告の準備。リンクはヴィオラが即座にメールで教えてくれたのでコピーしてそのまま使用。正直、運営側が対応してくれるのかは不明なのでひとまずは報告するだけにはなるけれどどうなるかな。
今後のことを考えてルールを設定しようにも、「アイテムの移動不可」とかは多分皆が取り皿に盛ることも出来なくなるから現実的じゃないんだよね。料理を足で蹴飛ばす行為を禁止出来るルールなんて運営側も想定していないだろうしなあ。
「おい、何無視してんだよ。『運営さん助けて〜』とか子供かよ。自分じゃ何も出来ないくせに目立ちたがり屋とかまじ笑えるわ」
「単純に相手をする価値がないと思ったので運営に報告をするという妥当な判断をしただけですよ。それにしても、仮に僕が目立ちたがり屋だったとして、それが何か迷惑をかけていますか? 犯罪行為ですか? 違いますよね。それに対して貴方がやっていることは犯罪行為の可能性がありますよ? 自覚ありますか?」
「はあ? たかがゲーム内のデータを蹴り飛ばしたからって何が犯罪行為だよ? 頭おかしいんじゃねえの。現実とゲームの区別もつかないとか怖いわー」
「まあいつまでも皆さんの手を患わせておくのも申し訳ないですし時間の無駄ですから、とりあえず出禁にしておきますが……。
現実とゲームの区別がついていないわけではないですが、貴方こそ大丈夫ですか? まさか現実世界じゃないから何をやっても許されるとは思っていないですよね? 少なくとも貴方が叩き落とした料理は現実の資金で購入した食材を用いた料理ですから日本円で損害が出ていますし、ゲーム内でも経費精算が認められるようになったということは、ゲーム内にも法律が適用されるということですよ。今回の行為も現実で罪に問われる可能性は十分あると思います。僕が情報開示請求をすればソーネ社は貴方の個人情報を引き渡してくれるかもしれませんね?」
相手は脅しと受け取ったのだろう、顔を赤くしたり青くしたりと大忙しだが、僕は無視してさっさと入り口の端末で二人分のプレイヤー名をブラックリストに登録した。何か喚いている途中で光の粒子になって会場の外へと転送される二人。なおも外からこちらを睨んでいたけれど、そのまま更に光の粒子になって消えた辺り、元いた場所へと転送されたのだろう。ふう、ようやくこれでパーティーを再開出来る。
『今時、義務教育課程でその辺りのことなんて習うだろうに』
『アクセスに生体認証必要な段階で現実の身分とプレイヤー名紐付いてるの位分かるだろw』
『ええ、蓮華くんに言われるまでまじで思い当たらなかったの?』
『「怖いわー」がブーメラン過ぎるわー』
叩き落とされた分の料理はちょっとした操作で削除が出来たので、登録しておいた料理情報から複製を選択し、改めてテーブルへと並べ直す。勿論、手掴みで食べられた食事に関しても視覚的に誰も手をつけたがらないだろうから処分し、新たに置き直した。
それにしても、昔みたいにマウスとキーボードで操作するゲームなんかでは荒らしは良く出現したらしいけれど、こんなに現実世界と錯覚する程リアリティのあるゲームでも、笑っちゃう位堂々と荒らし行為をする人が居るんだなあ。まああの人の主張を考えるに仮想アバターとプレイヤー名であれば匿名性は守られていると勘違いをしているのだろうな。ネット上での誹謗中傷などが罪に問われるようになったのって、何十年も前のことだったと思うのだけれど……。
幸い皆もちょっとのトラブルは想定済みだったのか、料理が新しくなった段階で何ごともなかったかのように会話に戻ってくれた。残念ながら視界の端で二名程会場を後にする姿が見えたけれど、たまたまこの後用事があるだけだよね、うん。
それにしても本当、メインの七面鳥を出してるタイミングじゃなくて良かったよ。事前に告知していたのにそこを狙わなかったのには理由があるのか、単純にリサーチ不足だっただけなのか。何にせよ不幸中の幸いだった。
九時には七面鳥の他にいくつか催し物も始まるし、もう一回端末からルールを確認しておこうかな。どうにかして料理を叩き落とすのだけは阻止をしたい……。