73.メリークリスマス
クリスマスパーティーあと2回くらい続きます……多分
「BGMも設定して……と。あ、凄い。一応著作権的なことも調べてきたけれど、これちゃんと著作権フリーBGMなのか支払いが必要なのかが明記されてるんだ。へえ、しかも支払いが必要な楽曲に関しては自動で僕の連携口座から引き落とされる、と……。便利だなあ」
当日になってこんなことに気付く時点でどうかとは思うけれど。ちなみにこの空間自体は配信を許可する予定だけれど、今は準備中なので配信をオフにしている。どうせならパーティー開始時にお披露目したいからね。
ああでもない、こうでもないと三時間程かけてアインと内装を試行錯誤。ちなみに事前に用意した仮装、誰も着ないかな、なんて思っていたら僕が装飾に集中している間にちゃっかりアインが着ていた。お、似合うねサンタクロース。図らずも某古典有名キャラクターのコスプレみたいになっちゃっているけれど。まあでもこのクオリティ、アインの右に出る者は居ないだろうな、ふっふっふ。
さて、BGMよし、内装よし、料理……もずっと熱々らしいので誰が来ても良いように既にテーブルに置いてある。のど自慢大会用のカラオケセットも入手出来たので——なんとレンタル出来た——、スペースの一角に用意。何が凄いって、この空間。電脳世界と言う事もあって、設定が細かく出来た。今回のパーティーの様子を配信したい人も居るけれど、のど自慢大会で歌っている曲が著作権的に配信に乗せられない!なんて言うときでも大丈夫。なんと勝手に曲を判別して、配信にカラオケ音声が乗らない仕様になっています。
「今から歌う曲は著作権的にNGなので皆さんの配信は自動でオフになります!」なんて言っていたら配信者的にも視聴者的にも興醒めだもんね。この機能を考えた人は天才だと思います。
現実時間の本日夜九時と、明日の朝九時から開催予定のビンゴゲームに関して、こちらは視聴者の一人がボールと回す機械を木材で作ってくれた。
全体的に丸みを帯びていて怪我をしない構造、そして中のボールの動きが見えつつ、隙間からボールがすり抜けない絶妙な粒度の透かし彫り。数字自体も彫ってあるだけでインクは乗っていないので、回す際に八百長もしにくいデザインになっている。全体を通して木工熟練度の高さと本人のセンスの高さが垣間見える素晴らしい一品となっている。
ちなみに無料贈呈して貰った代わりに、今回使用している様子を配信して宣伝して欲しいとのこと。勿論しますとも! 余談だけれども、パーティー会場で露店も出すようです。商売上手だなあ。
この会場のルールに関しては実際にトラブルが起こってから考慮するスタンスとして、最初は余りがちがちに設定しないようにした。具体的には一つのみ。
喧嘩を検知した場合、自動的に当事者を会場の外に転移。その際出入り禁止登録は行わないので喧嘩が終了した後は戻って来られる仕様。まあ千人単位で人が集まるのでこれ位の軽いトラブルは起こりうるだろうな、と。ちなみに喧嘩の判定は口喧嘩、物理的喧嘩問わず。そこはAIがよしなにやってくれるらしい。凄い。
それにしても全てにおいて柔軟に設定が出来て脱帽するばかり。正直、借り手がつくまでの間の仮レンタルスペースではなくて、もう少し価格が上がっても良いので正式なレンタルスペースとして運営して欲しいレベル。
ちなみに今回のイベントでは露店の出店もあるので万引きも考慮すべきかと思ったけれど、現実そっくりでもここは仮想世界。露店に広げている商品自体を盗もうと思っても販売者が設定さえしていれば盗むことは出来ない。例えばいつぞやの所有権が他人のアイテムは時限式にしておけば手元に戻ってくる、という概念とか。他にも販売用の独自設定もあると思うので、会場としては今回、ルールを設けないことに。
ルール設定自体は一つしかしなかったけれど、余程のことがない限りはこの設定のみでこと足りるのではないだろうかと考えている。想定外の問題が起こればまた年越しカウントダウンのときに考えるつもり。
全ての準備が終わったあと、ジョンさんの店の入り口隣にゲートを設置。最初に設置した上で入場開始時間の制限を設ける方法でも良かったのだけれど、やっぱり全ての準備が終わってからゲートを設置した方が視覚的に分かりやすいので親切かなと思って。さて、最初のお客様は誰かなあ、いつ来るかなあ。なんて思っていたらヴィオラが朝一番、六時にやってきましたいや、本当に早いな……?
「おはようヴィオラ。随分早いね」
「準備からの徹夜は断られちゃったから、せめて一番になろうと思って。間に合ったかしら?」
「うん、君が一番だよ」
そう言って僕はヴィオラを雑談スペースへと誘う。さすがに二人+アインしか居ない状況で食べ始めるのもね。もう少し人が来てから開会宣言したいし。ヴィオラの目線が今すぐ食べたいと訴えている気がするけれど見なかったことにしよう。
「あら、アインくんがサンタクロースなのね? 蓮華くんは何も着ないの?」
「うーん、アインがサンタだから僕が着るとしたらトナカイかなあ。ちなみに他にはクリスマスツリーとプレゼントがある」
「何でそんなネタみたいなものしか用意されていないの……? 手軽にカチューシャ系で良かったじゃない」
「オークションでたまたま目に入ったから……」
「プレイヤーメイドだったのね……。良いお値段しそう。コスプレと言えば、来場者の中には最初からコスプレしてくる人も居るかもしれないわね」
「確かに。公式でもクリスマスアバターなんてものを販売してるしね」
なんて雑談をすることしばし。徐々に他のプレイヤーの皆様がやってきたみたい。皆初めましての方々だからか、入り口から動かずに一カ所に固まってこちらの様子をうかがっている。
「メリークリスマス!」
何かきっかけを、と思ってトナカイのコスチュームに着替えてから声をかけた。インベントリの操作だけで着替えられるのって本当に凄いよね、待たせなくて済むし。
「「「め、メリークリスマス!」」」
と何人かのプレイヤーは返答をしてくれたのでほっと一息。
「とりあえず準備はもう完了してるのだけれど、僕とヴィオラとアインの三人だけじゃ味気ないから人が集まるのを待ってたんだ。これ位集まったらもう開会宣言して配信を開始しても良いかな?」
「参加希望者数は千人を超えていましたよね? 僕らを合わせてもまだ十数人ですけど良いんですか?」
「うーんでも、正直朝から来る人ってそこまで居ないんじゃないかなって思ってて……もっと集まるまで待つとなると昼になっちゃうかもよ?」
「それは嫌だな」「この後用事があって昼迄しか居られないんだ……」と言った声がぼそぼそと聞こえてくる。どうやら朝しか都合がつけられなかった人も居るみたい。
「それじゃ、さくっと開会宣言して始めちゃいますか。現実のパーティーと違って料理は無尽蔵に用意出来るから、遅く来た人達が損することもないし」
僕の言葉に歓声を上げるプレイヤー達。まだ人数が少ないからかもしれないけれど、滑り出しは好調ではないだろうか。料理と飲み物が用意してあるテーブルへと皆を案内し、各々飲み物を用意している間に僕は配信の準備。
「皆飲み物の準備は良い? それじゃあちょっと配信をオンにして、と……。えー、ではここに、第一回蓮華主催、クリスマスパーティーを開催したいと思います! で良いのかな、挨拶って? ノリと勢いで言ってみたけれどこう言う場が初めてで良く分からない!」
『うぇーい』
『待ってました!』
『開会宣言からぐだぐだで笑う』
『初めの挨拶くらい事前に考えておこうぜ』
などと視聴者からのコメントが。ええ? 配信開始数秒でもう見てるって凄くない? 視聴する暇があったら直接会場に来てくれれば良いのに……。オフィス街だからどこの国のプレイヤーでも参加出来るよね?
「えー、早速視聴者さんからお叱りの言葉をいただきましたが。と言うよりも、視聴者の皆は来ないの? 忙しいなら分かるけれど、開始数秒から観るくらいなら来れば良いのに。勿論強制ではないけれど」
『いや、あとで行く予定』
『ちょっと今手が離せなくてGoW外から見てるんよ』
『俺会場入りしたけど直接話す勇気ないからここに居る』
「いやいやいやいや、会場入りしてるって人!? 噓でしょ、直接話しかけてよ! っと、僕がこうやって視聴者さんと会話してたら会場の人が置いてけぼりなので今後は基本的にコメントに返答はしません。えーと、それじゃあ気を取り直して、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
何はともあれパーティーは無事開催出来た。あとは無事に終了することを祈るだけ。
朝から来てることもあって皆良い食べっぷりだなあ。ちなみに参加費は一人当たり五百円にした。事前アンケート通り千五百人程来てくれれば七十五万円。ちょっと貰い過ぎかなと思って四百円にしようと思ったのだけれど、キリが悪いので五百円で良いと視聴者の皆に言われた。まあざっくり計算すると場所代に十万、内装の家具や雑貨代に十五万、そして催し物の景品調達費用で十万。料理代金がどこまで行くかにもよって変動するけれど、現時点で十五万円分で見積もっている。クリスマスだけで総計五十万近く使っているのでかなりぼったくり、と言う訳でもないライン。
しかし今回のパーティーにかけた準備時間と労働力を考えても二十五万円の労働対価は多い気がする……。稼ぎ時では?とは思ったけれど、正直こんな金額が稼げるとは思っていなかったので冷や汗が止まらない。初期費用の三十万円も元々投げ銭だから、結局のところ僕のお財布から出た金額って今の所二十万円だけだし……良いのだろうか、本当に。
何てことをずっと考えていたので、今回のパーティーの料理は恩返しの意味も兼ねて凄く力を入れた。具体的には、一つの料理に時間をかけるというよりも品数の多さ、見た目のクリスマスっぽさの方に注力した感じ。味もさることながら、配信映えやスクリーンショット映えを意識してみた。どうせなら参加して良かった!と思って貰いたいからね。
例えばパスタ一つとってもジェノベーゼにして、緑色のパスタをツリーに見立てて高く盛り付け、具材を飾りに見えるようにカットして散らしてみたり。あとは立食パーティーということを前提に、片手でつまみやすいおつまみ系を多めに用意してみた。勿論それらもクリスマスのオーナメントを意識した見た目。
それからメインの七面鳥。これに関しては映えを意識しすぎて最終的に登場時間をビンゴゲームと同様夜九時とした。ちなみに色々な意味で苦労した。運営の遊び心なのかなんなのか、サイズによって価格が違ったのだ。一般的な価格を払えばごく一般的なサイズの七面鳥。そして目玉が飛び出る程の金額を払った場合、現実には存在しない巨大七面鳥が入手出来る。
料理代金がかなりかかったのはこの七面鳥のせいだったり。けれど、その甲斐あって多分七面鳥に関してだけは複製せずともオリジナル料理のみで全員の胃袋を賄えると思う。まあ実際には夜九時に参加出来ない人の為に通常サイズの七面鳥も用意したけれどね。
ただ、問題は調理法だった。巨大七面鳥を調理出来る器具がジョンさんの家の台所には存在しなかったのだ。結局デンハムさんに泣きついて、急遽七面鳥を調理出来るサイズの石窯を作って貰うことに。専門外にも関わらず快く引き受けてくれたデンハムさんは神様だと思います……。
火力は僕の火魔法のおかげで割と自由に調節出来たので、石窯が出来たあとは苦労はしなかった。これが現実世界なら、このサイズの七面鳥をばらさずに料理するのはまず難しいだろうなあ。ちなみにデンハムさんは七面鳥を見ても余り驚かなかった。どうやらこの世界にはこのサイズの七面鳥が存在するらしい。いずれまたどこかのフィールドで再会することになるのでしょう……。肉塊ならともかく、このサイズの七面鳥と対峙するとなるとちょっと勇気が必要かな。攻撃的じゃないことを祈るよ。