71.散財する未来しか見えない
本当は今日、クリスマスイベントの回にするつもりが全然進行が間に合わなかったので、クリスマスイベントは年明け頃になりそうです、、、申し訳ない(--;)
感想は年末年始に徐々に返します!
『遺品はどうするん?』
『インゴットに戻して刀に使うとか出来ないの?』
『半分はヴィオラちゃんに所有権あるでしょ。今決めない方が』
「うん、遺品装備に関しては急ぎじゃないし、ひとまず保留かな。売るにしてもインゴットにするにしても、全部見てみて、遺族に返せそうな物がないか確認してからだね」
『アインくんはまだ探してるの?』
『後ろからずっとごそごそ聞こえて笑ってる』
「そう言えばアイン、遅いね……デンハムさんそんなに種類増やしたのかな?」
視聴者さんのコメントを読んで、確かにアインがやたらと探索に時間をかけていることが気になり始めた。僕がデンハムさんと会ってから刀の仕様を決める迄ずっと探してるって、よっぽどでは?
「アインー? 随分かかってるけど大丈夫……!?」
店の奥、倉庫をのぞき込みながらアインに声をかけてみたけれど、その光景に僕は目を見張ってしまった。え……ちょっと増えたとかそう言うレベルじゃないんだけど。これ絶対最近アインの装備ばっかり作ってたよね……?
前回もそれなりの種類の盾と槍があったけれど、今回はその数倍以上の規模に膨れ上がっている。しかも盾に関しては大盾ばかり。完全にアイン仕様じゃないですか。どうしちゃったのデンハムさん……。やっぱり大盾使いに並々ならぬ思い入れがあるのかな。
僕の声に反応してくるりとこっちをふりむき、とことことこっちに戻ってくるアイン。いや、ごめん。まだ終わってないならそのまま続けてて良かったんだ。随分かかってるから心配になっただけで……。
「うん? これが欲しいの?」
差し出された数本の槍。どれも先端の形状が微妙に違うけれど、長さや細さなど、全体的なコンセプトは同じに見える。うーん、やっぱり万人向けに作ってる感じじゃないな。
デンハムさんのところに戻り、本当に貰って良いのか改めて確認してからインベントリに収納。それにしても、一口に槍と言っても先端の形状だけでこんなに違うんだなあ。
どうやらアインはまだ盾を選べていないようなので、僕は視聴者さんと改めて相談。
『人海戦術使うにしても、参加者全員とどうやって連絡とるの?』
『クエストは蓮華君を総隊長にして攻撃隊組む感じ?』
『誰かが何か見つけたと報告したとして、カメラとかビデオを持ってその場にどうやって移動するのか』
「ふむ……確かに連絡手段は必要か。攻撃隊って何?」
『前回の王都クエストで組んでた部隊みたいなやつ』
『全員プレイヤーだから、意思の疎通にロストテクノロジーとか使う必要ないよ』
『パーティと違って上限一万人らしい』
『一万じゃ足りなくない?』
『攻撃隊何個か組めば良い』
「なるほど、ダニエルさんが総隊長だったあれか。プレイヤー同士なら音声通話みたいなの出来るからロストテクノロジー要らないし、確かに組んでれば連携は取りやすいか……問題は一万じゃ足りない、と。え、そんなに居るのプレイヤーって?」
『今更wこのゲームの人口二十万って言われてるよ』
『一国五万人位じゃない?全員がクエスト参加しなくても一万じゃ危ない気が』
『まだサービス開始二ヶ月ちょっとだから、下手したらもっと増える』
「ほー……そんなに居るのか。じゃあ僕とヴィオラがそれぞれ攻撃隊を作って、情報共有すると二万か……もう一つ位あった方が安全? と言うか、それだけの人口に対してカメラとビデオが一個ずつって……。誰かが何か見つけたら即行で向かう感じになるのか。同時にことが起きると面倒、と。王都内の移動も結構かかるし……どうしよう」
『例の移動魔法が使えるスクロールとやらはいくらなんだ?』
『スクロールがあったら駆けつけられるかも』
『ロストテクノロジーの数が少ないんだからスクロール代位侯爵家でどうにかして貰おうぜ』
「ああ、スクロールがあったね。まだ店売り価格とか確認してないけれど、侯爵家の人に調達して貰えば良いか。ただ問題は自分が行ったことがある場所限定、なんだよね確か? それに発動にも若干時間がかかるとか……」
『行ったことがない場所から連絡来たら駆けつけられないのか』
『うーん……実物がないから発動時間調べようがないな』
「現物調達して発動時間は要検証か。数十秒位ならどうにかなりそうな気もするし……。うーん、今から王都全体を回るって言うのも厳しい気がするなあ。総隊長は部隊長クラスの待機場所にだけ最低限行けるようにして、部隊長は分隊長、分隊長は各担当プレイヤーの持ち場範囲を事前にカバーしておけばスクロールは活きるだろうけど。問題はそんなリレー方式をやる間のスクロール発動時間を合わせると、証拠を撮る時間がなくなりそうってことか」
『ロストテクノロジーって現場の風景しか撮れないのか?例えばプレイヤーの視界を共有して貰って、その映像を撮るとか……』
「共有して貰った画面を撮影……あー、テレビの画面を更にビデオで撮影するみたいな感じ?」
『それ出来たら理想だけど』
『むしろ、それをする為としか思えない縛りじゃない?ロストテクノロジーが一個ずつとか』
『システムを柔軟に利用しろ的な?』
『システムと言えば、スクリーンショット、キャプチャ機能をどうにかNPCに共有出来ないんかな』
「スクリーンショットにキャプチャ機能……そう言えば『設定』の中にそんな項目があったような。あれが使えて、どうにかフェリシアさんに共有出来たら一番楽だね」
『実はロストテクノロジーってハブとかストレージの役割果たしたりして』
「本当申し訳ないんだけど、ハブとストレージって何?」
『ハブ:中継装置みたいなもの。ストレージ:記憶装置。』
『要は皆が撮ったスクショを集めて保存する役割を果たしてるんじゃないかってこと』
「あー、なるほど! ロストテクノロジーの現物がまだ手元に無いから分からないけれど、侯爵家から届いたらそれをまず調べてみようか」
色々と決めてる間に、アインもようやく店の奥から出て来た。ちなみに僕が一人で話していてもデンハムは気にするそぶりをまるで見せない。遠隔魔法を使ってると思っているのか、はたまたプレイヤーの独り言は無視する設定でもされているのか、それは分からないけれど。
「アイン……随分たくさん持ってきたね?」
呆れ半分で思わず声をかけてしまう程、アインが持ってきた盾の数が凄かった。それにしても凄いな。全部が金属で出来ている盾や、針みたいな物がたくさんついていて刺さったら痛そうな盾。それに皮で出来た盾。
「おお、その皮の盾は耐火性能を上げておいたからな。今回みたいな相手に効果的だと思うぞ」
とデンハムさんはにこにこ笑顔。ごめんなさい、今回盾が燃えたのは僕の魔法のせいであって、ヤテカルの攻撃ではないんです……。
ひとまず鍛冶屋での用は終わったので、デンハムさんにしっかりとお礼を言ってから店を出た。ふむ、これから何をしようか。
「クエストはロストテクノロジーの現物を受け取ってから方針を決めるとして……ちょっとイベントの場所を確保しておきたいから、オフィス街に下見でもしてこようかな」
『いてら!』
『クエストよりイベント優先してください』
『イベントは俺達が守る!』
『クエストに関して何かあったら次回の配信時に伝えるよ』
と視聴者さんが快く送り出してくれたので、僕はエリュウの涙亭へと戻り、アインに留守番を任せてから配信を終了。先日篠原さんに貰った転送アイテムを使用して、オフィス街の執筆部屋へと移動した。執筆部屋に飛んでから外に出てしまえば楽だよね、と考えた次第。出来るかは分からないけれど。
「転送アイテムを使ったからってこの部屋から出られません、ってことはないと思うんだけど。……お、開いた」
無事に玄関扉も開いたので、僕は早速オフィス街を散策。まあ、行き当たりばったりで来てしまったので、肝心のレンタルスペース的な場所がどこにあるのかを全く把握していないからです、はい。
意外と親切設計になっているようで(何て言ったら早川さんや小林さんに失礼だけれど)、オフィス街に出た途端、視界の端っこに何やら今迄とは違う、見慣れないマークが出てきた。そこを指でタップしてみると、「オフィス街Tips」とやらが開く。何々? あ、オフィス街に居る間はオフィス街の店舗を検索する為のメニューが追加される、と。カテゴリ別検索や名前検索、単純に全体の地図を見るなど、色々出来るみたい。
「カテゴリ……飲食、体験、販売、オフィス、レンタルスペース! これだ」
そのものずばりのカテゴリを見つけ、僕は歓喜の声を上げた。おっと、サラリーマンらしき人にちらっと見られてしまった、恥ずかしい。
「ふむふむ、表通りだったり裏通りだったり、商店街の中だったり色々あるなあ。多分商店街の中は催事場向けだろうからパスかな。場所はどこでも良いんだけど、なるべく広そうな場所……ソート順で面積を選べば良いのか」
人数と面積、どちらも記載されていて便利。けど値段がなあ……時間単位で数金ってことは、数万円。とてもじゃないけれど日をまたいでのパーティーなんて出来ないな。もっと安い場所はないかな、と……。
「あれ、ここは随分安いな。一時間二十銀?ってことは四十八時間借りても十万いかないな。なんでこんな安いんだろ……ああ、ソーネ社が所有してるのか。建物に借り手がつくまで格安でレンタルスペースとして開放してる、と。ただし備え付け家具の類いは一切なし。ふむ。まずは中を見た上で空きがあればここが良いかな? 家具も多分インベントリに収納出来るだろうし……」
地図を頼りに目的地へ。表通りではないけれど、決して入り組んだ路地裏と言う訳でもなく、割と分かりやすい場所。それなのになんでまだ借り手がついてないのだろう。やっぱりゲーム内にオフィスを移すのはハードルが高いからかな?
中は無人で、レンタル中でなければいつでも下見が可能みたい。丁度誰も借りていないようなので、早速お邪魔してみることに。
「凄い広い! これなら数千人は余裕で入りそうだなあ」
まあ、家具の類いが何もないから余計そう見えるのだろうけど。立食形式にして長テーブルを置くなら数千人は大丈夫っぽいな。テーブル席を用意するとしたらどれくらいだろう。どれ位来る予定なのかはちゃんと把握しておかないといけないな。あとは視聴者さんが言っていた、転送アイテムとやらがあれば文句はないのだけれど。
どうやら申し込みも全て無人で出来るようになっているらしく、入り口近くにタッチパネル式の機械が一個ぽつんと置いてあった。
「十二月二十四日と二十五日、それから大晦日と元日は、と……。うん、今の所全部空いてるな。お、説明もここで見られるのか……ええと」
・借主は出入り出来る人物を管理することが出来ます。
・契約を行ったタイミングでレンタル期間中のみ使用出来、期日が過ぎると消失する転送アイテムを貸与します。
・転送アイテムは設置型の為、借主が招待客を迎えに行く必要はありません。
・事前に空間内でのルールを設定することにより、違反した招待客を自動で追い出す機能も完備しています。
・後続の枠がレンタルされていない場合に限り、レンタル期間中に延長申請も受付可能です。
・レンタル期間終了のタイミングで、空間内に居る人物は全員転送アイテム使用前の場所、もしくは当建物の入り口前へと自動的に移動します。
「へえ、さすがソーネ社所有のレンタルスペースだけあって、至れり尽くせりだなあ。最悪僕が常駐していなくても良いってことだし。転送アイテムは設置型か。ジョンさんの店の壁にでも設置させて貰えるか確認してみようかな」
ひとまず大晦日と元日に関しては両日、計四十八時間で申し込み。クリスマスに関しては二十四日なのか二十五日なのか、それとも両日やるのかを決めていなかったのでその場でヴィオラに連絡を取って確認。丁度配信中だったらしく、視聴者さんにアンケートをとってくれた。結果としてこちらも両日開催に。
「あとは家具か」
再びオフィス街のマップを開くと、どうやら販売だけじゃなくて、家具や小物の貸出を行っている店もあるみたい。デジタル世界で家具の貸出ってなんだか不思議な感じがするけれど、それを言ったらオフィス街の土地の所有権も含めた全てが不思議か。
「うーん、購入とレンタルだとどっちがコストパフォーマンスが高いのかなあ」
正直、今後もこうやってイベントを実施するなら買ってしまった方が安い気もする。けれど、家具を買ってしまうとインベントリの空きが気になるなあ……。
「う、レンタル倉庫を営んでいるところもあるのか……」
これは散財する未来しか見えないぞ……。