68.お話でもしようか
「単刀直入に言う。ここ最近、王都で囁かれてる……なんて穏やかなもんじゃない、声を大にして叫ばれてる、あの馬鹿げた主張をなんとかするのを手伝って欲しい」
やはり。彼女が言っているのは「黒髪黒目はネクロマンサーの卵だから排除すべき」と言う噂の話だろう。彼女の容姿もまさに黒髪黒目、最近王都に戻ってきた僕と違い何度も嫌な思いをしている筈だ。しかも、七年も冒険者をやっているのだから冒険者ランクも高く、相手に手を出せば彼女が処罰されかねないので対応にも困っている、と言うところか。
「手伝うとは、具体的にどのように? フェイさんはどこまで情報を持っていますか? 例えば噂の出所や、その意図などですが」
「噂の出所は教会。理由は、隠蔽工作。自分達に力がないことを暴かれる前に戦力増強、ってところ。でもやり方が悪い。自分達が変わるんじゃなく、手っ取り早く外部から素質のある人間を集めようとしている。しかもあわよくばアンデッド襲撃の件で活躍した貴方のイメージを落とせれば、と思っているのが見え見えだわ」
彼女が正確に事態を把握していること、そしてそれを確定事項のように言うことに僕はとても驚き、しばらく二の句を継ぐことが出来なかった。そんな僕に代わって、声を発したのはヴィオラ。
「まるで確定事項のように言っているけれど、どこからその情報を?」
「ずるいなんて言ってられないから、実家の力を使って調べたの。既に父名義で、正式に教会の方には抗議をしている。まあ実際には私が抗議文を出したんだけど。父には事後報告でね」
随分とお転婆……ではなく行動力のある人なんだなあ。抗議文か……確かに侯爵なんて高位貴族に言われれば、教会側も少しは考えるかもしれない。けれど、貴族の娘、それも実質貴族トップの侯爵家に黒髪黒目が居ることを知らなかったとは考えにくい。それはすなわち、侯爵家に何かを言われても問題ない、と判断出来る強力な後ろ盾が居ることを現してはいないだろうか。
「ずるいとは微塵も思いません。ただ、抗議文を出すということは噂の出所に気付いていると公言しているようなもの……大丈夫でしょうか? 教会の後ろ盾として公爵位以上がついている可能性もありますが」
「その可能性については私も気付いている。けどまあ……そうなったらこの国はどちらにせよ終わりよ。私は父が居るからこの国の貴族として努力しているのであって、教会とずぶずぶの関係で腐敗している国だと分かれば父も見切りをつける筈。そうじゃなくても説得をして、一緒に国を出る。伊達に長いこと冒険者をやっていないもの、父を養っていく位は十分に出来る。
と、話がずれたわね。具体的に手伝って欲しい内容だけど、私が今掴んでいる証拠だけでは弱い。家の力を使って援助をするから、人海戦術でもっと多くの証拠を集めて欲しいの」
「人海戦術、ですか? 見ての通り、我々は三人ですが……」
「お仲間はたくさん居るでしょ? 近々貴方が主催するパーティーに参加するって浮き足立ってる人達をたくさん見たけど。あの人数が集まるだけの人望が貴方にはあるんじゃないの?」
不思議な顔でこちらを見つめるフェイさん。おっと……僕に声をかけてきたのは、僕が黒髪黒目で問題の当事者意識を持っているからだと思っていたけれど、そうではなくて手伝ってくれる人をたくさん確保したかったからか。
『勿論!協力するよ』
『我らがクリスマスパーティーを守る為!』
『NPCに迄知れ渡ってるの笑う』
『俺達の会話聞いて理解してるのか……そりゃそうか』
「そう、ですね……声をかけたら協力してくれる人は結構居ると思います。まさかフェイさんがパーティーの件を知っているとは思わなかったので」
視聴者のコメントもこう言ってくれているし、人海戦術が出来るのはあながち間違いではない。間違いではないけれど、まさかクリスマスパーティーの件がNPCに迄伝わっているとは……いよいよ何があっても中止には出来ない雰囲気を感じる。
「さっきも言ったけど、貴方達は有名だからね。で、手伝ってくれるよね?」
フェイさんがそう念押しをしてきた途端、僕の視界いっぱいに突然「クエスト」なるものが表示された。
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【王都クエスト】
依頼者:フェリシア・バートレット(フェイ)
依頼内容:「黒髪黒目の人物はネクロマンサーの卵」最近王都に流れている噂。
フェイが言うには、その噂の出所はどうやら教会のようだ。
噂に留まらず、最近では差別や誹謗中傷が横行している。
彼女と一緒に教会の悪事の証拠を集め、王都の平和を取り戻そう。
クエストが発生しました!受諾しますか?
※このクエストは王都クエストです。受諾すると、シヴェフ王国プレイヤー全員が参加権利を与えられます。
『受諾』『拒否』
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「えっ、何これ」
「何? 手伝ってくれないの?」
突然のことに混乱して思わず声を上げた僕に、フェイさんは不審の目を向けてくる。おっといけない、多分彼女にこの画面は見えていない。初めて見る画面だけど、きっとゲームシステムの一部なのだろう。
『落ち着いて!』
『「受諾」を押しても良いし、手伝うって口答で言うだけでも良い』
『割とその画面邪魔だよな。あとでUI調整すると良い。ヴィオラ嬢ならお手の物』
「あ、えっと、手伝います。勿論」
視聴者のコメントを参考に、手伝うと口にした途端、『受諾』の文字が淡く光り、そのままクエスト画面は視界から消え失せた。一体何だったんだ、今のは……。本当に突然だし大きくて邪魔だった。
混乱したまま受諾の旨をフェイさんに伝えた直後、今度は「告知:シヴェフ王国で王都クエストが発生しました。」の表記が視界の上部に表示された。ああ、なるほど。前回のクエストもこんな感じだったのだろうなあ。
「そう、良かった。本当は私一人でどうにかしたかったけど、最近噂のせいで二人の兄が面倒な動きをしてて……。極力援助はするけど、私も色々と複雑で表立っては動けない。悪いけど、証拠集めは全部貴方達に任せることになる」
「それは良いですが、援助とは具体的にどのような?」
「写真と映像が記録出来るロストテクノロジーを貸すわ。人海戦術と言ったけど、うちにあるのは一個ずつ。申し訳ないけど、そこはそっちで協力してなんとかやってちょうだい。ちなみに壊したらこの先一生鉱山奴隷だと思うから、そこだけ注意してね」
さらっと恐ろしいことを言うフェイさん。ああ、やっぱりこの世界には奴隷が存在するんだなあ。それらしい人物を全然見かけなかったから、こう言う世界観の割に居ないのかと思っていたのだけれど。まあ、全年齢対象のゲームだから堂々と王都内を歩いていないだけで、水面下には居ますよってことなのかな。
『奴隷居るんか』
『鉱山奴隷……絶対過労死するだろう響きだな』
『生きて出られる奴は居ないってことか』
視聴者の皆も同様の感想を持っているみたい。しかし写真と映像……人一人の一生よりも高価とは恐ろしい。ギルドから借りる可能性のある分についても細心の注意を払って扱わないと、下手したら奴隷になってキャラクターを作り直す羽目になるかもしれない……。それは何としても避けなければ。
「分かりました。フェイさんも絶対に無理はしないでください。僕達は冒険者ギルドに所属していますから、教会も面倒を嫌って表立って攻撃してくる可能性は少ない。けれど、貴方は違う。冒険者である以前にこの国の貴族です。一番狙われやすい立場であると言うことを、決して忘れないでください。それこそ、先程貴方が言ったように何かあったら迷わず国を出てくださいね、命あっての物種ですから」
最後にそう忠告し、その場はお開きになった。後日、ロストテクノロジーを含む支援物資を受け取る日程だけ取り決め、定宿にしているエリュウの涙亭に届けて貰うことに。
シヴェフ王国プレイヤーへの、王都クエストの内容説明と告知自体はゲームシステムが実施してくれているものの、侯爵令嬢からの支援物資の件や僕が今回の窓口になっていることについては、別途視聴者さんから公式掲示板へと周知して貰うことに。
なお、今後も僕を通してフェイさんから何か指示が来る可能性もあるので、今回のクエスト専用スレッドを立てたと報告された。どうやら前回の王都クエストに関しては各国のプレイヤーが情報を集めやすいように「総合雑談」と言うスレッドで主にやり取りをしていたのだとか。でも他の話題を話したいプレイヤーからしてみると不便だったので、暗黙の了解で今後は専用スレッドを個別に立てていく方向でまとまったらしい。なるほど、よく分からない。そもそも掲示板の理論がいまいち理解しきれていないのでぴんとこないのだ。洋士に聞いてみないと。
ギルドを出たところでヴィオラとも別れ、鍛冶屋へと向かうことにした。森で少し無茶をしたせいでアインの盾と槍が少し不安なのだ。それに僕も晴れてプレイヤーになったので、インベントリが使える。今後のことを考えると、予備の武器が何個か欲しいところ。けれどオークションで購入する刀は、僕の意向が反映出来ない。そう言う訳で、デンハムさんに刀を作れるか聞いてみるつもり。
鍛冶屋迄もうすぐといったところで、突然隣を歩いていたアインが躓いたように一歩前へと飛び出した。石でもあったのだろうか? そう思って後ろを振り向くと、何やらにやにやと下卑た笑みを浮かべる住人が二人。ふむ、状況から見るとこの二人がアインを押したとしか思えないのだけれど、まさかそんな馬鹿なことはしないよね? よし君達、ちょっとお兄さんとお話でもしようか。
日付と時間を合わせようと思うと投稿完了するまでそわそわしてトイレにもいけないのが難点ですねw