66.ダンジョンの種類?
年末年始にかけて、今後投稿ペースが落ちたり、時間がずれたりする可能性があります!
なるべく番外編とかのSSで誤魔化せるところは誤魔化していけたらな、とは。
僕も蓮華くんのパーティーに参加して美味しいものが食べたい……。
冒険者ギルドに再び舞い戻った僕達は、受付カウンターにギルドマスターと面会可能かを尋ねた。そう簡単に会える人だと思っている訳ではないけれど、教会についてとロストテクノロジーについてを受付で聞いてもまともな返答が帰ってくるとは思えなかったからだ。
数分後、二階へと確認しに行っていた職員さんから、無事に面会許可が下りたとの回答があり、いつもの応接室へ案内された。
「蓮華くん、ヴィオラさん。話がしたいと伺いましたが、どうされましたか?」
「お時間ありがとうございます。実はお話したいことが一点、お聞きしたいことが二点ありまして。……言うか言わないか迷ったのですが、一応話すだけ話して、あとはギルドマスターの判断に委ねようかと」
「ほう。何でしょうか?」
「森の魔法陣の浄化作業について、ちょっと懸念事項がありまして。ただ、証拠の類いは一切ないのであくまで可能性の一つとして聞いていただければと。……僕達は神官の能力低下を疑っています。浄化をするだけの力がないのではないかと」
「そう言う結論に至った理由は?」
ダニエルさんに促され、森からの帰路や先程、ヴィオラとプレイヤーの皆と話し合った結果を端的に伝えた。途中、ヴィオラやプレイヤーの皆からのコメントで補足説明が入り、それなりに理路整然と話せたのではないかと思う。ちなみに、僕も今さっき知ったばかりだけれど、やはり既に黒髪黒目の住人が何人か行方不明になっているみたい。
「なるほど……、少し納得がいきました。ここだけの話ですがお二人が帰ったあと、正式に教会に浄化依頼をしたのです。結果的に浄化自体は引き受けて貰えたものの、森には自分達だけで行くから、冒険者ギルドから護衛は不要だと言われまして。神官は戦闘能力が高いとは言えませんから、どう言う意図でそのようなことを言ってきたのか分からず困っていたのですが。今の話を聞く限り、教会側も浄化が失敗する可能性を懸念しているのかもしれませんね……」
「先日アンデッドが急襲してきた背景について、祈りの儀式自体は森で亡くなった方々に対して定期的に実施していたと聞いていますが、アンデッド化自体に不自然なところはなかったのでしょうか?」
「そうですね……実は気になる点はあったのですが、森で亡くなった方々への祈りの儀式と言うのは、依頼でもない限り教会からの善意であって義務ではありません。ですから儀式に不備があってアンデッド化したとしても、それ自体は責めることが出来ないのです」
「差し支えなければ、どこが気になったのか教えていただいても?」
「祈りの儀式をすると、霊魂が天界へと導かれると言います。ですから、その御遺体の持ち主がそのままアンデッド化する可能性はまずありません。あり得るとすれば今回のようにネクロマンサーが介入し、意図的にアンデッドを作り上げる場合です。ただ、その場合でもネクロマンサーの力に制限はあります」
飲み物を口にしてから、ゆっくりと、声をひそめてダニエルさんは口を開いた。
「まず、アンデッドは無から生み出すことが出来る訳ではありません。必ず御遺体と、御遺体に入れる為の霊魂が必要になります。霊魂そのものを大量に集めて、自由に移動させると言った話は聞いたことがないので、アンデッドを作り上げる場所に霊魂が必要になります。つまり……、あれだけのアンデッドが生み出されたと言うことは、森に大量の霊魂が存在していたと言うことになります」
「森で亡くなった方々に対して行った祈りの儀式は、効果がなかった可能性があると?」
「はい。ですがあれだけの数のアンデッドが森にあった御遺体から作成されたとは思えないので、私が知らないだけで霊魂を呼び寄せる方法があるのかもしれません。ですから気にはなりつつも、教会に確認することは控えていたのです」
「なるほど……、お話はよく分かりました。これらの疑問を繋ぎ合わせると、やはり黒髪黒目の人々を集めた理由が、神官の能力低下を補う為と言う可能性は十分考えられます。ですが、無理に教会に突入する訳にはいきませんし、早急に証拠を集める必要があると思います。そこでお聞きしたいのですが、風景を写し取ったり、状況を動いた状態で記録する方法はあるのでしょうか」
具体的な例を持ち出す為にも、ペトラ・マカチュ元子爵令嬢から貰ったペンダントを見せたいところだけれど、『ペトラ・マカチュの魂の残滓が宿った』なんてとてもじゃないけれど見せられない。と言う訳で口頭での説明を試みたけれど、果たして通じるだろうか?
「写真や映像のことでしょうか。そう言ったロストテクノロジーは存在していますが、証拠集めに使える程ありふれているかと言うと、答えは否ですね。一部の貴族や、それを生業にしている店が所有していますが、貸与は厳しいでしょう。一応ギルドの方でも一台ずつ所有はしているので、そちらをお貸しすることは可能ですが」
「本当ですか! ああ、でも……一台ずつしかないのであれば、どうにか森の魔法陣浄化作業に護衛を派遣して、その方に使用していただいた方が確実かもしれませんね」
「そうですねえ……私としてもその方が良いと思います。もしも教会が拉致を行っているのであれば救助を急ぎたいところですが、相手が相手だけに慎重にならざるを得ません。時間をかけて確実な証拠を集める為にも、ひとまずは森の方で使用し、王都へ帰還後は蓮華くん達にお貸しする方向で調整しましょう」
とダニエルさん。貸して貰えるのはありがたいけれど、証拠集めをメインでやってるのは僕じゃない訳で……。又貸しはさすがに問題がありそうだし、どうするのが良いだろうか。後で皆と相談かな。
「ありがとうございます。ではひとまず教会の問題はさておき……、もう一点お聞きしたいことがありまして。こちらのリングなんですが、鑑定をした結果、見慣れない効果が付与されてまして。こう言った効果についての情報はありますか?」
話しながら、僕は先程『全知全能 千里眼鑑定』にて見て貰ったリングと、鑑定結果を記載して貰った書類をダニエルさんの前に差し出した。
「ああ、これはロストテクノロジーの一種ですね。身体能力や関連する能力の上昇効果がある品物です。具体的な内容については、確認出来るロストテクノロジーが存在しているのですが……ギルドでは所有していないんですよね。より正確に言えば、昔はあったらしいのですが、私がギルドマスターになる前に盗難に遭ったとかで」
「そうですか……王都内で確認が出来る施設なども聞いたことはありませんよね?」
「残念ながらそう言う話は聞いたことがありませんね。常時冒険者が居るギルドからも盗まれる位ですから、普通の店が所有するのは厳しいのではないでしょうか。それほど貴重な物のようです」
「では、入手方法についてはご存じですか? こちらのリングはダンジョンから出てきたのですが」
「確実ではないですが、ダンジョンから入手出来るとは思います。ダンジョンの種類についてはご存じですか?」
ダニエルさんからの問いかけに、僕はヴィオラの方を見た。首を横に振っているので、ヴィオラも知らないみたい。
「いえ、教えていただければありがたいです」
「大まかに、ダンジョンには四種類あると言われています。存在が秘匿されているダンジョンや、一度ボスらしき魔獣を倒したタイミングで崩壊したダンジョンもあるので、実際にはもっとたくさんある可能性は否めませんが」
こほん、と咳払いをしてからダニエルさんは指を一本立てた。おお、ヴィオラと同じスタイルか。
「まず一つ目。自然に出来た洞窟などを利用して動物が住み着いたものです。こちらは他のダンジョンとは違い、あくまで動物の住処ですから転送ゲートのようなものは存在しないことが多いです。ですのでダンジョンと言うよりは、言うなればフィールドボス、でしょうか? 気付かずにその近辺の動物達のボスに遭遇してしまい、大怪我をしてしまう冒険者も少なくはありません。報酬としては動物たちからの献上品、それから剥ぎ取った素材や肉類。ドラゴンならいざ知らず、うさぎや熊と言った動物達の住処は苦労に見合わないでしょう」
二本目の指を立てて続けるダニエルさん。いや、待って。しれっと進めているけれどドラゴンなんて居るの……? そして魔獣ではなくて動物扱いなの? いよいよ魔獣が何なのかが気になってくるなあ。
「二つ目。人工的に作ったものや、自然に出来た形を利用した魔獣の住処です。魔獣によっては魔法のような能力も使いますので、例えばですが、木を入り口に偽装してみたりと言った工夫が見られます。報酬は魔核などの剥ぎ取り素材、人から奪ったものなどです。恐らく今回蓮華くんとヴィオラさんが発見したのはこのタイプだとは思いますが、最後に宝箱が存在し、そこからロストテクノロジーが出てきたと言うことは、ダンジョンの作成者は食人木ではない可能性が高いでしょう。元々は古代人の隠れ家だった、なんてことも考えられます」
続いて三本目の指が立てられた。喋ってる間に腕が疲れないのだろうか?なんてどうでも良いことが気になってしまう……。ごめんなさい。
「三つ目。古代文明の遺跡です。恐らく、お探しのものはこのタイプのダンジョンからいずれ見つかるのではと思いますが……、難易度と言う意味では非常に高いです。まずは現在住み着いている動物なり魔獣なり、或いは古代人のアンデッドだったり。それから、罠が多いです。他のタイプのダンジョンにも罠があることはありますが、古代文明の罠の巧妙度、危険性はそれらの比ではありません。罠に詳しい人物が居ない限りはまず攻略は不可能と思って良いでしょう。その代わり、ロストテクノロジーが見つかる可能性は大いにあります」
四本目の指を立てる……のかと思いきや、ダニエルさんは手を下ろし、じっと僕達を見つめてくる。どうしたのだろう。四つ目のダンジョンは極秘事項だったりとかだろうか。
「四つ目ですが」
そう前置きをしてから、ダニエルさんは再び飲み物を口にした。どうにも、言いにくいことがあるときに飲み物を飲んでいる印象がある。一体四つ目のダンジョンはどう言うものなのだろうか。
「これに関しては、情報がほとんどありません。ダンジョン……と言うよりは、繋がってはいけないところに繋がってしまった転送ゲートと言った方が正しいでしょう。つまり、神や魔族や……得体の知れない何かの住処など。正直なところ、正常な状態で戻って来た前例がほとんどありませんから、一体どこに繋がって、何を見たのかも分かりません。ですが、これだけは言えます。もしもそのような場所に飛んでしまった場合は、冷静に、命を最優先に出口を探して下さい。決して倒そうなどとは考えてもいけません、何かを持ち帰ろうとしても駄目です」
どうやら四つ目はダンジョンとは言えない代物みたいだ。しかし、『飛んでしまった場合』とはどう言う状況だろうか? どこに行くか分からないゲートをむやみやたらとくぐる趣味はないけれど……。
「『飛んでしまった場合』と言うことは、もしかして自分達が慣れ親しんだ転送ゲートから突然そのような場所へと繋がる可能性があると言うことでしょうか」
と、眉間の深いしわを刻みながらヴィオラが聞いているのを耳にし、僕は内心ぎょっとした。え、もしヴィオラの言うとおりなら、とてもじゃないけれどゲートそのものを使おうと言う気になれないのだけれど……。
「その通りです。確率的にはまずゼロに近いですが、それでもそう言った報告が極たまにあるのが事実です」
疲れ切った顔でダニエルさんが言う。『正常な状態で戻ってきた前例がない』と言うのは、物理的な意味なのか、それとも狂ってしまうと言う意味なのか。プレイヤーにはリスポーン機能があるからそこまで心配しなくても良いのかな、とは思うけれど実際のところどうなのだろうか。普段は装備の損傷程度で済んでいるデスペナルティが、例えば全財産没収や熟練度減少、なんてものに変わったりは十分にありえそう。
「ところで、転送ゲートと言うのをダンジョン以外で見たことがないのですが、日常的に使用出来るものなのでしょうか?」
「ギルドには完備されていますよ。勿論、誰彼問わず利用可能、とはいきませんけどね。繋げたいゲート側の許可がなければ繋がりませんから、他国のゲートと繋げる為には入国許可も必要なのでなかなか難しいですし。まあ、ギルドが治外法権なのはゲートがあるからと言うのもありますね。戦争に使われたりしたら困るので」
「ああ、それと」とダニエルさんは続ける。
「移動と言う観点で言えば、魔法で空間を捻じ曲げて移動している方も居ますが、そちらは本人しか移動が出来ないようです。そう言った魔法を巻物に閉じ込めて販売している方も居ますから、多少値は張りますが移動系魔法を使えない方はそちらを利用するのが良いかと。勿論、他国国内を目的地として使用すれば密入国で罪に問われますし、使用者が一度も行ったことがない場所へはいけないなどの制限もあるようです。発動に時間もかかるようですので緊急時に利用するのも厳しいでしょうね」
『移動魔法!』
『スクロールだと……』
『やっと移動手段キタ━(・∀・)━!!!!』
『値が張るっていくらなんだ……』
『一通り店を回ってもそんなの見つからなかったけど……』
とコメント欄も大賑わい。確かに、毎回森へ移動するのに一日がかりとかはちょっとしんどかったんだよね。森よりも先も解放されているらしいけれど、それ以上にかかるとなるとなかなか行く気にはなれなかったし。でも一度行ってさえしまえば次からはすぐいけると考えれば頑張ろうと言う気にもなれる。これは確かに朗報だ。一通り店を回っても見つからなかったと言うコメントが気にかかるものの、探してみる価値はある筈。あとでこの通りの店を覗いてみようかな。