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65.ロストテクノロジーだと思う?

 ヴィオラと共に店内に入ると、カウンターの他に応接セットがいくつか並んでおり、まるで貴族の社交空間のような光景が広がっていた。鑑定を待っている間に待機する為なのだろう、既に何組か冒険者らしき身なりの人物がソファに座っている。


「いらっしゃいませ、鑑定でしょうか? お探しでしょうか?」


 お探しと言うのは多分、鑑定だけではなく、条件を元に品物の入手代行のようなこともしてくれるということだろう。仲介手数料のようなもので儲けられるので上手い商売と言える。


「鑑定をお願いしたいわ。リング二点なのだけど」


「かしこまりました。毎度恐縮ではございますが、身元の証明にご協力下さい。冒険者の方でしたら、ギルドカードで構いません」


 店員の言葉に、ヴィオラはリングと共にギルドカードを提示する。受け取った店員が一瞬目を見張ったのはランクが変わってたからかな? すぐに表情を引き締めた辺り、プロ根性が窺える。


「確認が取れました。ご協力ありがとうございました。それでは、これより鑑定に入らせていただきます。商品によってはお呼びする順番が前後します。また、場合によっては鑑定に追加料金が発生する場合もございます。その際は鑑定前にお声がけいたしますのでご判断下さい」


 そう言って、店員はリングを手に奥へと引っ込んだ。鑑定品を他の客に見せないように配慮しているのかもしれないけれど極端な話、奥で鑑定した商品を偽物と交換されても気付く術はない構造。そこが許容出来ないなら他の店に頼めば良いのかもしれないけれど、他の店も信用出来ないとなると……、うん。やっぱり保険も兼ねて鑑定熟練度は上げておいた方が良さそうだ。


 いつまでもカウンター付近に立っていても邪魔になるだけなので、僕とヴィオラは空いているソファへと向かい合わせに腰掛け、鑑定結果が出る迄待つ。


「そう言えばロケットペンダントを見て思い出したんだけど。この世界にも写真があるってことかな?」


 そう言って僕はヴィオラにマカチュ子爵令嬢のロケットペンダントをヴィオラへ見せる。


「言われてみれば、どう見ても写真ね。絵には見えない」


「この世界に写真を撮る技術があるとは考えられないから……やっぱりロストテクノロジーだと思う?」


「そうね……カメラがあると考えるよりも、ロストテクノロジー或いは転写魔法のようなものがあると思った方がしっくりはくるけど」


「今プレイヤーの皆と一緒に取り組んでる件なんだけど、証拠として写真とか映像が撮れたら良いのになって思って。でも、ロストテクノロジーとなると難しいかなあ。魔法は魔法で使い手が限られちゃうし……」


「ああ……確かに。目撃者も、買収されて噓の証言をする可能性は十分あるものね……ロストテクノロジーの可能性があるなら、まずはギルドマスターに聞くのが手っ取り早いかしらね?」


「かなあ。少なくとも王都イベントのときは隊長クラスのやりとりにロストテクノロジーを使ってたし。写真や映像系のロストテクノロジーがあるのか、あるなら入手方法もしくは誰かから借りられないかを聞いた方が早そう。……それはそうと森の魔法陣の件、浄化出来ないかもしれないってダニエルさんに言わなくても良いと思う?」


「言うのは勿論構わないけれど、教会が浄化出来ないかもしれないと言うのは今のところ全く証拠もないし、蓮華くんの外見の件もあるから下手をすれば教会を陥れる為の噓と受け取られかねないかもしれない。勿論、多少の信頼関係もあるから全く聞く耳を持たれないと言うことはないと思うけれど……。例えばストレートに教会を疑う物言いをするのではなくて、神聖魔法を使える魔術師の同行とか、ギルド側で写真や映像を撮る技術があるならばその準備もしておいた方が良い、とアドバイスをしてみるとか?」


「証拠もない状態で教会を悪し様に言うと、間違っていたときが大変だもんね。万が一冤罪を着せられたときに、冤罪ではないと思われて力になって貰えなかったら困る……。ただ魔術師はともかく、写真や映像が必要になる理由は絶対聞かれそうな気がするけれど」


「そうなったら正直に私達が考えていることを言うしかないわね。噂の出所が教会であることは確認済み、神聖力は存在せず、全て魔力だと教会は知っている筈なのに黒髪黒目がネクロマンサーの卵だと吹聴する理由として、教会の実力の低下を疑っているのだと。その上で現段階では一切証拠がないけれど、その証拠を集める為に魔法陣の浄化を見守って欲しい、と迄言えば、少しは検討してくれるんじゃないかしら」


 そんな話を僕達が小声でしている間にも、待機していた人々が次々と呼ばれ個室に入っていく。鑑定結果も他者に聞かれないように配慮されているのか。まあ裏で鑑定をして、結果を表で伝えたら意味がないもんね。


「教会の実力が衰えているんじゃないかと考え始めたのって『多少名声が衰えたところで祈りの儀式がなくならない以上、黒髪黒目を血眼になって探す必要はない筈』、と言う疑問から始まったよね。実際のところ、教会が魔法陣を浄化出来ない可能性ってどれ位だと思う?

 ネクロマンサーが出来ることが分からないから何とも言えないのだけど、祈りを捧げた死体もアンデッドに出来るのかな……それによって考え方も変わってくる気がする。前にジョンさんに話を聞いた限りでは、祈りさえ捧げて貰えればアンデッド化はしない、と言う風に受け取れたんだよね。でもそれはあくまで住民がそう思い込んでいる可能性もあるから……」


「でも祈りの儀式済みの死体をアンデッド化出来ないのであれば、森にアンデッドが出現した段階で皆、おかしいと気付くわよね? 例の子爵令嬢以外の御遺体は基本的には誰かしらが祈りを捧げていたんでしょう?」


「だよねえ……ネクロマンサーの使う魔法が実は詳しく知られていないとか? それか、祈りの儀式はアンデッドの自然発生は防げるけれど、ネクロマンサーによる強制アンデッド化は防げないとか?」


「その可能性はあるにはあるけれど……。ネクロマンサーがどんな死体でもアンデッドとして蘇らせることが出来るのなら、そもそもちゃんと浄化や祈りをしたところであまり意味はないわね? 土地が汚れる可能性は低いから自然発生率も低い筈だし。それなのに教会の権力は未だに落ちていないのは何故なのかしら?」


「んー、僕は分かる気がするなあ。アンデッドとして蘇る可能性は低いのに、それでも教会にすがるのは死後、天国に行けないと言う恐怖心から来ているんじゃないかな。誰にも気付かれずずっと一人でこの世に彷徨う霊魂にはなりたくない……だから死後はしかるべき儀式をして貰いたい。要するに死後の世界という未知の世界に行く前の、一種の精神的安定剤かなって」


「特にこの世界にはアンデッドが実在しているから、天国の存在も信憑性がある……。なるほど、納得だわ。……誰かの死体に無理やり入れられた誰かの霊魂がアンデッドだと仮定したら、確かに天国に行けずに霊魂として彷徨うのは嫌だわ」


「霊魂……」


 ヴィオラの発言に僕は何か引っかかるものを感じた。けれど、その考えはしっかりつかみ取る前に霧散してしまい、どう頑張っても思い出せない。とても重要なことをひらめいた気がしたのだけれど……。


「ヴィオラ様、お待たせ致しました」


 もう一度思考をたぐり寄せようと必死に唸っていると、先程の店員がヴィオラの名前を呼んだ。どうやら鑑定が終わったみたい。


「どんな結果が出るのかなあ……緊張するね」


「ええ、そうね」


 依頼主の許可さえあれば僕も同席して良いとのことだったので、遠慮なく同席。


「さて、まずは鑑定した品物はお返し致します。結果に関してですが、こちら、緑の石がはめ込まれているものが『AGI+1』、青の石がはめ込まれているものが『INT+1』となっております」


「「……え?」」


『ん!?』

『どういうことや……』

『熟練度以外にもあるだと……』


「料金の方はリング二点、特に追加費用は必要ございませんでしたので十銀となります」


『二点で一万。一点五千円?』

『安いとも高いとも言えない』

『やっすいとこで変な結果だされる位なら全然出すな』

『ちなみにスラムの店は一点五百円。物ごと盗まれることあるけどな』

『ひえ……盗む店とかもあんのかよ。それなら保険って意味で五千円出すわ』


 十銀を店員に手渡しながら、ヴィオラは口を開く。


「AGIやINT……こう言った類いの効果が付与されたアイテムは良くあるの?」


「はい、+1程度でしたらよく鑑定を依頼されます。大体皆様ダンジョンで拾われたと」


「こう言った効果のものを使用した場合、どういう恩恵を得られるのかは判明しているのですか?」


 と僕。幸い、AGIやINTと言ったパラメータは読んでいたゲーム小説によく出てきたので意味は分かる。分かるけど、このゲームは全て熟練度ベースの筈で、キャラクターのステータス画面にもそう言ったパラメータ表記は見当たらない。一体どのように反映されるのか、皆目見当もつかないのだ。


「どうやらロストテクノロジーの一種みたいですからね、噂ではどう言った恩恵が得られるのかを確認することが出来るロストテクノロジーがあるようですが、とても珍しいもので高価だと聞いたことがあります。個人で確認するのはまず不可能ですから、実際に装備してご自身で判断しているようです」


「ありがとう。それじゃあ私達はこれで失礼するわ」


 追加の質問がないかと僕に目で問うヴィオラに首を振ると、ヴィオラは頷いて店員との話を切り上げた。再度二人でお礼を言ってから店を後にする。数歩進んだところで、ヴィオラがゆっくりと口を開いた。コメント欄も困惑しているのが見て取れる。それはそうだよね。


「謎が深まったわね」


「そうだね。AGIとINT……敏捷(びんしょう)と知能なのだろうけれど。熟練度との兼ね合いがいまいち分からないなあ。関連する熟練度が全て上昇するとか?」


「それに+1と言うのも何を基準にしているのか分からないわよね」


『確認用のロストテクノロジーとやらが必須では?』

『熟練度だけでもしんどいのにパラメータ装備があるとか……』

『ポジティブに考えれば熟練度低くてもブースト出来る可能性が微レ存』

『他の地域でもダンジョンいくつか見つかってるけど、同じようなの出たんかな』


「とりあえずギルドに戻って聞いてみる? ついでにその確認する為のロストテクノロジーとやらがギルドにあるかも知りたいし。まあ皆自己判断してるって言ってた辺り、ないのだろうけれど」


「そのロストテクノロジーもダンジョンから出るのかしらね」


「滅びた文明の遺跡ダンジョンみたいなのがあれば可能性はありそうだけれど」


「ダンジョンについても聞いた方が良さそうね」


 話はまとまり、再び元来た道を戻って冒険者ギルドを目指す。ただ鑑定すれば使えると思っていたのに、思わぬ罠が潜んでいてお預けを食らった気分。ただ、今のところはヴィオラが敏捷、僕が知能のリングをつけることで半ば合意している。知能は魔法系と関連がありそうなので、自然とそうなった形。


「でも知能って言う位だから、魔法系だけじゃなくて知識の収集とかにも影響しそうだよね。ヴィオラの方が使いこなせそうだけれど」


「だとしても、魔法系に影響するなら私じゃ宝の持ち腐れになってしまうもの」


 本当は今すぐお互い交互に装備してキャラクターステータスを確認すれば良いのだろうが、生憎と配信中には確認出来る熟練度ではない。ヴィオラも恐らくそうなのだろう、自分で装備しようとする様子も、提案してくる様子もない。


 僕の場合太刀の熟練度がなあ……さすがに五十万を超えているのは異常なのじゃないかと思う。他の人と比べたことがないから分からないのだけれど、アインの数値を皆が高いって言ってたし……うん。万が一見られたら、言い訳のしようがない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人斬り経験が活きてますね() [気になる点] デフォルトが配信の設定であるならば、熟練度が個人の経歴由来である程度以上反映されているので、熟練度のところだけモザイク的な処理する配信モードと…
[良い点] すごく気になってた主人公の熟練度が分かった。
[気になる点] >『多少名声が衰えたところで祈りの儀式がなくならない以上、黒髪黒目を血なまこになって探す必要はない筈』 血眼(ちまなこ)の筈が、血塗れのナマコになってますぞ(笑)。 多分、だから漢字…
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