64.全知全能
今回全然中身ない(進展がない)です!ごめんなさい!
「とりあえず……、無事にランクアップも完了したし、これからどうする?」
「そうね、とりあえず蓮華くんが仕事に戻るのでしょうし……その前にやらなければならないことと言えば、ダンジョンで拾ったリングの鑑定と、遺品装備をどうするか決めることかしら」
「ああ、リングの鑑定はやってしまおう。遺品装備は……どうする? もし遺族に返すとしたら、持ち主の特定と家族の有無を確認するのにかなりの時間を要すると思うけれど」
「うーん……今迄は取得者に所有権を譲渡していて、その人達は装備を売って生活の足しにしているのよね。ここで私達が遺族に返却してしまうと、遺族に返却すると言う前例が出来上がってしまって、今後他の冒険者が不利益を被ることはないかしら?」
『他の人のこと考えてるの偉い』
『確かにそこの対応が分かれると後々面倒臭いことになりそう』
「確かにそれは十分にあり得るかも。今回僕達が返却した遺族から噂が広まって、『前は返してくれたじゃないか!』なんてことになりかねないか。となると、僕達も先人達に従って素直に換金した方が……」
「ひとまずロケットペンダントの類いがないか一旦確認するところかしらね。さすがにそれ位は遺族が居るなら引き渡しても問題ないでしょう。まあ装備品は急ぎではないし、今日のところはリングの鑑定だけしておきましょうか?」
「うん、そうしよう」
『リング!wktk』
『どんな性能なんだろうなあ』
『鑑定ってどこでするんだろw』
「鑑定を行う場所か……現実世界的に考えるなら古物商とかやってくれそうだけれど」
「古物商の店でも鑑定はしてくれるみたいだけど、安く買いたたく為に偽証することも多いらしいから鑑定士のところへ行く方が確実よ」
「本当は良い品物なのに悪い物だって結果を出して安く買い取るのか。それって要するに詐欺だよなあ……それがまかり通っちゃってるのがなんとも……」
「この時代だから仕方がない、で済ませるのもあれだけれど、現代と違って法整備や取締機関もしっかりしていない世界観では仕方がないのかもしれないわね。今はとりあえず鑑定士のところへ向かう、で良いかしら?」
「勿論」
『為になる』
『古物商行ったら大損する可能性あんのか。怖いな』
『一番安心なのは自分の鑑定熟練度を上げることか』
実を言えば王都に来てしばらく経つものの、ほとんど見て回っていないのでどこに何の店があるのか全くと言って良い程把握出来ていない僕。今のところ南門からすぐの太い通りに面しているエリュウの涙亭と、そこからほんの少しだけ東側にある冒険者ギルド、そしてギルドがある通りの冒険者御用達商店通りしか開拓出来ていない。
したがって、今ヴィオラに先導して貰って向かっている王都の北側に足を踏み入れるのは初めてだったり。
「そうか、城が邪魔で北側に行くにはぐるっとまわらないといけないのか」
「さすがに城を突っ切るわけにはいかないものね」
『邪魔w』
『不敬罪に問われちゃうw』
王都の中心にそびえ立つのは、王族が住まう城。ヴィオラが言う通り突っ切ることは出来ないので、どうしてもぐるっと王都内を回る必要がある。東門よりも上側は完全に見知らぬ土地。だから違和感があるのかと思ったけれど、よくよく見れば道路やら家の外壁やらの雰囲気が南や東とはだいぶ様変わりしている。
「北側は貴族街なんだね」
「そう。個人的には貴族街にある鑑定士の店が今のところ、一番信用出来ると思っているの」
「確かに貴族相手に詐称なんかしようものなら、命がいくつあっても足りないもんなあ。でも僕達が行ったら逆に足元を見られたりしない?」
「今から行く店はもう顔を覚えられているから大丈夫よ。初めて行くときはそうね……例えば貴方の装備を見ればオーダーメイドでそれなりの値がするのはすぐ分かる。そう言う人に対しておざなりな接客をする程、判断力は低くないと思うわ」
『わいらが行くときも身だしなみ整えといた方が良さげだな』
『今後も付き合いが続きそうな相手には丁寧な接客をするってことだな』
「そっか。それにしても一番信頼出来ると断言出来るってことは、結構な数の店を利用したの?」
「ええ、王都に来る迄にクエストやらモブ狩りやらでそれなりの未鑑定品が手に入ったから、先に自分で鑑定した上で店に持っていったのよ。で、鑑定料や鑑定精度、報告の正確さを比較した結果この店が一番良かった。鑑定結果に関係なく、鑑定料はそれなりにかかるけどね」
「安い鑑定料で噓の報告されたり、鑑定熟練度が低くて詳しい内容が分からないよりもずっと良いよね。それにしても鑑定熟練度か……僕も上げないとなあ」
『鑑定結果が店によって違うなら、装備として使用したらどの値が採用されるの?』
『古物商で偽証された装備を自分で使ったらどうなるんだろ』
『自分で使う分には問題ないのか、偽証されたままステータス反映されるのか気になるところ』
「ああ、確かに? 虚偽の報告をされてもこちらはそれを見抜けない訳で……実際とは違う鑑定内容のアイテムを装備した場合はどうなるの?」
「私が調べた限りだけど……、未鑑定品はゲーム的にパラメータは設定されているけれど、プレイヤーからはそれが見えない状態のアイテムのことね。だから未鑑定品は装備してもステータスには反映されない。これが大前提よ」
そう言ってヴィオラは指を一本だけ立てて続ける。
「まず、自分で鑑定、或いは誰かに鑑定して貰った際、その結果がアイテム本来のパラメータ以下、もしくは同等の場合。装備した際は、鑑定結果の値がステータスに反映されるわ」
さらに続けて、指をもう一本立ててヴィオラは続ける。
「次に、実際のアイテム性能よりも上の性能で鑑定結果を偽った場合。この場合は、本来のアイテム性能でステータスが反映されるわ」
『へー納得』
『んじゃ悪徳古物商に依頼したら、自分で使うにしても売るにしても大損な訳か』
『実際のアイテム性能よりも上の性能の鑑定結果ってどう言う状況なんだ?w』
『二束三文の商品をそれなりの品と偽って売ってる古物商とか?』
「ちなみに、今迄の話でピンと来た人も居ると思うけれど、同じアイテムに対して鑑定は何度でも行える。鑑定料が払えない人はまず自分で鑑定して、熟練度が上がってから再度鑑定する手もあるわよ。もし熟練度不足で本来の性能よりも低い鑑定結果が出た場合、『このアイテムにはまだ隠された性能があるようだ』と言った表記が出るわ」
「なるほど、その表記が出ていないアイテムは既に正しいパラメータが開示されているから、それ以上性能が高くならないってことか。まだ他に性能があるかも……なんて無駄に期待して全装備をインベントリに貯めておく必要はないんだね」
『あ、それ俺だわ』
『俺もずっと鑑定したアイテム取っておいてた』
『インベントリ整理しないと……』
「ところで鑑定の熟練度って、未鑑定品の鑑定以外では上がらない?」
「いいえ、ありとあらゆる物のステータスを表示すれば上がるわよ。面倒だからいちいち全部ステータスを確認することなんてしないけれど。例えば……そこの商店で売っている品物だとか料理だとかも鑑定出来るわ。ただ、未鑑定装備と違って、こう言う日常品に関しては鑑定熟練度以外も作用しているみたいよ?」
「うん? それってどう言うこと?」
「現実世界の知識も考慮されていると言うことよ。例えば、道ばたに生えている植物を鑑定するとするじゃない? 鑑定熟練度が一万超えで、かつ採集や花関連の熟練度が低い人は植物の名前と一般的な人々が知っている情報だけが表示されるの。けれど、反対に鑑定熟練度が低くて、採集や花関連の熟練度が高い人がその植物を鑑定した場合、名前と一般情報の他に、使用方法や効用、毒性の有無も表示されるらしいわ」
「ああ、つまり特定の分野の熟練度が高い人は、その分野に対する知識が高いと判断されるから、鑑定熟練度が低くてもどんなものなのか分かるよね、ってことか」
『未鑑定品は鑑定熟練度のみ?』
『未鑑定のリングの場合、細工系熟練度が作用したりはしないのかな?』
『未鑑定品だけ鑑定熟練度必要ってのもなんだか辛いな』
「そうね、未鑑定品のアイテムもそれに関連する熟練度があればある程度作用するのかは……そこまで検証してみていないからなんとも言えないわ」
「いや、今の情報量だけでも十分凄いよ。少なくとも僕は王都の中を全然歩き回ってないから。未鑑定品を使って鑑定士比べをするなんて、尊敬するよ」
「たまたま掲示板にそれらしい情報がなかったから自分の足で稼いだだけよ。褒めたって何も出ないわよ? ……と、ついたわよ、ここが私のおすすめ鑑定店」
「ここが……」
僕とヴィオラの眼前にあるお店は、規模こそ大きくはないものの、シンプルながらも洗練された外観で貴族街に馴染んでいる。ただ、残念ながら掲げられた『全知全能 千里眼鑑定』の店名看板が随分と強気で、浮いているように感じる。いや、裏を返せばそれだけの自信があると言うことか。
『全知全能w』
『どこぞの神を彷彿とさせる店名』
『この店名、熟練度不足で完全鑑定出来ないアイテムがあったら恥ずかしいな』