60.何も言わないのかあ
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「お帰りなさい」
ログイン直後、まだ視界が暗転状態から完全に街道へと切り替わっていない状態でヴィオラからの挨拶が聞こえてきた。おお、凄く待たせちゃった感じかな?
「ただいま。ごめん、僕遅れた?」
「いいえ、全然。私が勝手にやる気を出しているだけだから気にしないで」
「う、うん……? 何かあった? 急にどうしたの?」
ログアウト前迄は普通だった気がしたけれど……。
「蓮華くん主催のクリスマスパーティーとお正月は私が守る」
『www』
『教会のせいでパーティー中止になったら困るもんな』
『想像以上に楽しみにしてて草』
『開催の危機だ!ってログアウト中に気付いたんだな』
「思った以上に楽しみにしててくれてるってことは良く分かった……」
『蓮華くん若干引き気味』
『引かないであげてwww』
『そういや正月って大晦日からのカウントダウンはしないんか?』
「大晦日からのカウントダウンか、良いね。そうなると日跨ぎで貸して貰えるスペース探さないと駄目か……予算も調べないといけないし。王都に戻ったらちょっとオフィス街も見に行ってみようかな。でもオフィス街に場所を借りても、皆の移動が大変そうだよね」
『多分レンタルスペースへ移動出来るアイテムみたいなのが貸し出されるんじゃないかな』
『移動に関しても込みで場所選定か。大変そう』
『同じ事考えてる人絶対居るし、オフィス街借りるなら早い者勝ちなんかな』
『課金食材売るくらいなんだから、インスタンスダンジョンの要領で会場も売ってくんないかな運営』
『蓮華君、同居人居るんじゃ無かった?クリスマスも正月もゲーム内で過ごして良いの?』
「場所は確かに早い者勝ちになりそう、急いで下見しに行かないと……。課金会場……運営に問い合わせたら販売予定有無教えてくれるかな? 無理か。さっき同居人にクリスマスと正月をGoW内で過ごして良いかって聞いたら、自分も出掛けてくるから大丈夫って言ってた」
『クリスマスに別行動ってことは恋人の可能性なさげか?』
『恋人居ない発言を疑ってかかってる勢、結構いて笑う』
『この企画をずっと続けて欲しいからこのまま恋人作らないで欲しい』
『ってか同居人に恋人居そう。クリスマスも正月もって……デートじゃん』
『同居人結婚秒読み』
「恋人かあ。居るのかな? 気にしたことなかったけど、クリスマスとお正月に出掛けるって確かに……僕いつまでも居候してたら邪魔なのでは?」
洋士に恋人……恋人かあ。想像出来ないけれど、確かにイケメン・金持ち・権力持ちと三拍子揃ってれば近付く人は多そう。もし居るんだとしたら、僕の存在ってかなり迷惑だなあ。コクーンの改造もいよいよ大詰めだし、早いところ退居しないと。いつまでも僕が居たら部屋に呼びたくても呼べないもんね。
でもヴィオラが言っていた件を考えると、どうなのだろう。この先も会って会話をする可能性を考慮すると、東京から離れるのは難しい……。かといって、東京に部屋を借りるのはお金が勿体ない……むむむ。
『本当に居るなら部屋に呼べなくて困るかも』
『居るなら最初から同居断ってるんじゃないかな』
「それも一理あるかあ。一応次ログアウトしたときに聞いてみるよ。でも僕が居たら恋人じゃなくて友達でも呼びにくい気がするよね」
洋士に友達が居るのもあんまり想像つかないけれど。イケメン・金持ち・権力持ちだと、妬まれそうだし、何より本人の性格も相まって敵の方が多そうな気が……。和泉さんみたいに何でもニコニコ流してくれる人ばっかりじゃないだろうしね。
それはさておき、そもそも洋士って人間で親しい人は居るのだろうか? 和泉さんは仕事上のパートナーだろうし、どうにもビジネスライクな関係以外を築いているイメージがない。まあその辺りは僕が気にすることではないのかもしれないけれど、同居の件もあるし、居るなら居ると教えて欲しいところ。
同族にも洋士に対して対等な子が居るとは思えないもんなあ。洋士は日本の吸血鬼をまとめる存在だから、良くも悪くもどうしても皆一歩引いてる感じ。お父さんはちょっと心配です。
『とりあえず24日、31日、1日はバイトのシフト入れないでおこう』
『上に同じ』
『俺も』
働かない宣言のコメントが凄い勢いで流れていく。これ、大丈夫かな? 年末年始の人員不足に全力で貢献してしまっている気がするんだけど。
「か、会社側が泣かない程度に調整してね……? それにしても仕事か。すっかり忘れていたけれど、僕も王都に戻ったら本格的に仕事再開するんだよね。教会を探りつつ仕事しつつ、パーティー準備をする……間に合うだろうか」
『いや、仕事忘れちゃ駄目w』
『自分から仕事を詰めていくスタイル』
『教会はプレイヤー皆でやるんだから手抜きでええんやで』
『何の仕事してるのか非常に気になります』
「仕事はさすがに秘密だなあ。忘れてたのは……ほら、ここ一ヶ月丸々お休みしてたから、うん。まあそんな訳で配信時間は今後減ると思うので、よろしくお願いいたします」
『配信時間は減っても睡眠時間は増えないの知ってる』
『ぶっちゃけ蓮華くんいつ寝てるの』
『本当に人間?』
『配信減った方がアーカイブ追いかけるの楽だから良い』
この件についてはいずれ直接質問が来ると思って、事前に回答内容を考えていたのだ。僕に抜かりはない。
「ちゃんと寝てるよ、大丈夫。ログアウトしてる時間にちょこちょこ寝てる。基本的に超ショートスリーパーだから一日一時間も寝れば十分なんだ」
『確かにそう言う人は居るらしいけど』
『早死にしそうで不安』
『めちゃくちゃ羨ましい体質』
『ショートスリーパーがしょおとすりいぱあに聞こえる』
『蓮華くん横文字全般発音怪しいよねw』
誤魔化せてる感じはするけど、なにげに発音貶されている……そんなに怪しい発音してるかなあ? 英語を喋れと言われると怪しいけれど、日本語の横文字なら完璧だと思っていたのに……。
「話は戻るけれど、年越しカウントダウンをするとしたら皆大晦日は何時から集まりたい?」
『朝から』
『朝から暇ではある』
『大掃除も前日までには終わってるから大晦日は一日暇』
『一日もおせち食べるためにぶっ通しでパーティーするなら夕方以降が良いな』
『場所代との兼ね合いもあるだろうしお任せ』
徹夜する気満々の人と、大晦日とお正月は別物と考える人で意見が真っ二つか。参加時間は本人の自由だし、早めに始めてしまえばいつでも皆来られて良いかな?
「場所代を調べないと何とも言えないけれど、早くから始めてればいつでも参加出来るだろうし、朝から始める想定で居ようかな」
「と、年越しそばはありますか……!?」
隣で何か言っている人が居る。ヴィオラさん、ちょっとイベントに期待し過ぎでは? ハードルが上がってやりにくくなるんですが。
「あ、年越しそばも用意する予定です。あとハードル上がるのでそんなに期待しないで欲しい」
『ヴィオラちゃんw』
『食いしん坊か』
『年越しそばは大事』
『外国育ちの割に日本の風習詳しかった』
確かに、年越しそばとか一体どこから知識を得るんだろうな……それも漫画なのだろうか。漫画は偉大ですね。
『クリスマスパーティーは何時からですか!』
『クリスマスパーティー参加したいけど、日中は用事がある』
『クリスマスは夜やって欲しい』
『クリスマスも朝からやって欲しい』
『ぼっちなめるな!朝からやろうぜ』
『クリスマス日中用事あるとか言ってる人爆発して欲しい』
「クリスマスも色んな意見があるけど、これもやっぱり朝から始めようか? 夜参加の人も居るみたいだし、一日中する感じで」
『毎年ケーキ一切れ買ってこっそり祝ってたけど、今年はカップ麺で良いな』
『現実はもうお茶漬けとかで良いわ』
『GoW内で豪勢なもの食べ過ぎて現実で食欲湧かなさそう』
これは、意図せずケーキ屋さんとかお肉屋さんの売上妨害もしてしまう可能性が……? そうは言っても、オードブルとかもパーティー向けばかりで独り身の人には厳しいイベントではあるよね。自分で作れば丁度良い分量にはなるけれど、食材は絶対余りそう。そもそも料理をしたくない人も居る筈だし。
「何も食べないのは身体に悪いから、忘れずに何かしら食べてから参加してね。それと場所が確保出来ていない現時点では、まだちゃんと正式に開催決定とは言えないから現実の予定をキャンセルしたり、仕事を休んだりするのはもうちょっと待って欲しい。あと、既に予定があったのに無理にキャンセルして参加した結果、人間関係が悪化しても僕は責任取れないからね?」
「正式に決定したら、参加のルールや注意事項は掲示板に書いたり別途動画を上げたりした方が良さそうね」
『まあ人間関係云々はさすがに書かなくてもね』
『自己責任だからそこまで面倒見る必要ないよ』
『文句言う輩がいるかもしれないし釘刺すのは大事』
『参加費と場所に関する続報お待ちしてます』
『教会はこっちでも調べてるからパーティー優先でお願いしますw』
パーティーの時間や提供料理、何をするのか。そしてヴィオラから今後の動き方の提案があって、それらを視聴者さんと相談している間にあっと言う間に王都に到着。行きよりも急ぎ目で帰ってきたのが功を奏したのか、強制排出迄はあと三十分程余裕がありそう。
「どうせなら睡眠バフを取ってからログアウトしたいし、ギルドに報告してエリュウの涙亭迄帰るのが目標かな」
検問を無事通過し、冒険者ギルドへ。と言うか、顔を覚えてくれるのは良いのだけれど、さして調べもせずに通してくれるのは問題ありません? 行きと違って急に荷物が減ったことに対する疑問は絶対あると思うんだよ。まあ、問われたら返答に困る訳だし、インベントリがあるプレイヤーに対して検問したところで意味はないんだけど……、何かちょっと複雑な心境。
「門番さん……何も言わないのかあ」
『期待してたのかw』
『仕方がない、多分プレイヤーの一部の行動はスルーするように設定されてる』
『いちいち突っ込まれることに慣れきっている蓮華くん』
「スルー設定なんてあるの?」
「野宿の際の睡眠サイクルとかね。NPCと生活サイクルが違うから、無理に寝なくても普通は指摘されたりしないのよ」
「あれ……僕がっつり指摘された。なんなら護衛に支障来すから寝ろって怒られた位」
「多分蓮華くんがNPC扱いだったからでしょう。プレイヤーに対していちいち指摘してたらゲーム性が損なわれるもの。手荷物がないのも本来なら不自然だけれど、そこに関してはスルーするように設定されているのだと思うわ」
「そっかー、僕もプレイヤーデビューしたからもう指摘されないのか。強制睡眠命令は辛いと思ったけれど、何も言われないのもそれはそれで寂しいものだなあ」
『慣れって怖い』
『まあ蓮華くん門番さんと親しげだったもんね』
『手荷物検査とかプレイヤー相手じゃ……ね』
こうやってしばらくは、NPCとプレイヤーの違いに戸惑うことになるんだろうなあ。