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Side:ヴィオラ編3

 森から王都迄の移動時間中、六時間経ったタイミングで強制排出。夕飯を食べる為に、作り置きして冷凍しておいた食材をレンジで温めながらふと昨日のことを考えた。


「どうしてあのとき、凝視してしまったのかしら……」


 いつも通っている書店で偶然蓮華くんを見つけたとき、すぐにその場を離れる選択も出来た。けれど、私はそうしなかった。結果としては悪くなかったけれど、今思えば相当危険な行為だったと思う。蓮華くんがゲーム内以上にお人好しな性格だったから無事だっただけ。一対一で対峙した場合、エルフにとって吸血鬼が天敵という事実は変わらないと言うのに。


 言葉にするのは難しいけど、あの瞬間、蓮華くんから目が離せなかった。顔が美しいからとかそう言う理由ではないと思う。それこそ、エルフにも美形は多いから見慣れているもの。


 身に纏っている雰囲気かと思ったけれど、それも違う気がする。むしろ目を合わせたあとの蓮華くんからは耐えがたい威圧感を感じて、まともに目を合わせることも出来なかった。そう考えると雰囲気に引き寄せられたとは言いがたい筈。


「それにしても、スウェーデンで道を聞かれたときはあんな威圧感は微塵も感じなかった筈なのにどうしてかしら」


 あのときはまだ吸血鬼ではなかった——いえ、却下ね。他の長命種に会ってみたかったと言っていたのだから、既に吸血鬼だった筈。


 太陽は今も昔も苦手なようだし、そこに変わりはない。一体何が違うのかしら?


 部屋中に響き渡るレンジの音で我に返った。そんなこと、考えても仕方がないわね。今後の事を考えた方がまだ生産的だわ。


「もし同族が運営に居るとして……ダンジョンでの会話を聞かれれば、私の正体に気付いてしまう可能性がある。あれは迂闊な発言だったわ……、慌てて図書館で読んだなんて言ったけれど、過去の行動を洗い出されればそんな書籍を読んでいないことは丸わかりだし」


 私の正体が露見すれば、自ずと一緒に行動している蓮華くんにも注目する筈。過去の彼の言動の中に、吸血鬼と結びつける何かがなければ良いのだけど。正直、最序盤の「血液が体中を駆け巡っている、あの何とも言えない感覚と似たようなもの」と言う発言と、彼の熟練度を照らし合わせれば「吸血鬼」とは分からなくても、「人間以外の種族」だと言うこと迄は十分たどり着けてしまう可能性がある。やっぱり正体が露見するのは時間の問題かもしれない。


「蓮華くんにはああ言ったけれど、私のせいで彼らに迷惑をかける訳にはいかない……。そのエルフが何を考えているのかを分かるのが一番良いのだけど。いっそのこと、もっとエルフアピールを前面に出して、声をかけられるのを待ってみるとか?」


 いえ、実際に会うことになったら間違いなく面倒臭いことになるでしょうね。私の見た目は人間のそれと大差がないから、下手をしたらスウェーデンでの二の舞になってしまう。平穏に暮らす為に日本に来たというのに、自分から火種に飛び込むような真似はしたくない……。潜入捜査のような手法は却下よね。


 ひとまず、エルフが日本に居る理由が何かを考えるとして……。

 一、変わり者のエルフがたまたま日本に来て、ゲーム業界で働き始めた。

 二、移住する為の候補地を探している。

 三、エルフ族に革命が起こって、現代文明に馴染む努力を始めた。

 四、サブカルチャーが好き。


 あり得そうな理由としてはこんな所かしら。三はともかく、二に関しては理由如何によっては日本に迷惑をかける可能性もあるわね。例えば他種族に追われて逃げてきたとか……。特に吸血鬼だったらしつこく追いかけてきそう。一と四なら平和だけど、期待は出来ない。


 冷めてしまった夕飯を口へ運びながら、なおも考える。考えた所でどうにか出来る訳ではないと分かってはいるものの、気になりすぎて考えるのをやめられない。


「こんなことになるなら、現実とはかけ離れたキャラメイクをすべきだったわ。どうせバイト先と自宅の往復以外特に人前に出ることもないし、配信も有名になるとは思ってなかったから……」


 プリセット顔は絶対被るので、最初に却下。じっくりキャラメイクをしようかとも思ったけど、一刻も早くプレイしたいという気持ちが強くて、つい自分の顔のままプレイしてしまった。今思えば恐ろしく危機管理能力に欠けた行動だったと思う。


「でも課金アイテムですらキャラメイクをやり直せるアイテムってないのよね……それに配信者としてそこそこ人気が出始めちゃったから、今更顔を変えたところで意味はないし。本当に失敗したわね」


 課金。課金と言えば、蓮華くん手作りのクリスマス料理とおせち料理……、彼が配信中に作る料理が余りに美味しそうで、いつか食べてみたいと思っていた。まさかこんなに早く叶う機会が訪れるなんて夢にも思わなかった。


 しかも毎年クリスマスとお正月は一人寂しく過ごしていた身としては、誰かと過ごせると言うだけで十分ありがたい。


「別にバイトをして過ごしても良いのだけど……客も同僚も面倒臭いのよね、特にクリスマスは」


 「恋人は居ないのか」「美人の持ち腐れだ」挙げ句の果てには「俺が相手してやる」。冗談は顔だけにして欲しい。そう言えばこう言うのもあったわね……「美人なのに恋人が居ないなんて性格に難があるの?」美人と言って貰えるのは嬉しいけれど、恋人が居ない=作りたくても作れないと言う思考回路をどうにかして欲しい。


 別に「恋人は絶対要らない!」なんて思わないけれど、恋人とデートをするお金と時間があったらゲームにつぎ込みたいタイプ。ゲームを一緒に楽しめる相手以外とは恋人になりたいと思わないし、そもそも人間相手じゃ生きる時間が違い過ぎて、長く付き合おうと思えない。だから恋人を作ろうとは積極的に思えない。


 結果として、家で一人で過ごそうが、バイトをしようがクリスマスを楽しく過ごすことが出来なくて、早く過ぎないかとさえ思った位。だからより一層今年のクリスマスに期待をしてしまう。


「教会を早々になんとかしないと、私の幸せなクリスマスが邪魔される可能性もあるかしら? いえ、でも今回の件については味方NPCが多くなければ状況が不利になりそう……、出来るだけ時間をかけてギルド全体を動かす位のレベル感で取り組んだ方が良いかしら」


 冒険者ギルドの冒険者ランクが高ければ貴族に対抗出来ると言っても、あくまで可能性。しかも、明らかにこちらに正当性があると証明出来ない限りは不利になる。


 ギルド側に教会の悪事を伝えたところで、ギルドとしても証拠がなければ冒険者を庇い立ては出来ない。それをしてしまえば、ギルドの信用性自体が地に落ちてしまうから。


 ギルドが治外法権を認められているのは、全世界中に散らばるギルドがそれぞれの国に対して冒険者と言う戦力を国力に組み入れることを認めており、ギルドを敵に回せば自国から撤退される可能性があると言う恐怖心から来ている。


 ギルドの自浄作用が働いていなければ国側も、ギルドを利用する利便性よりも被る被害の方が大きいと判断し、強硬手段を取る可能性が高い。従って、ギルドとしても明確に守るべき理由がなければ、冒険者の保護を全面的にすることは出来ない。


 人命救助の観点からは早急に決着をつけたいけれど、確固たる証拠もなしに教会に無理に押し入ってしまえば、シヴェフ王国の秩序を乱す存在としてギルド・国の双方から排除される可能性は大いにあるわよね……。


 更に悪いことに、現在は教会の入れ知恵で民衆の意識も黒髪黒目を憎悪する方向に向かっている。仮に教会に黒髪黒目の人々が監禁されていたとして、それを救出したところで私達に味方する意見が増えるとは思えない。


「高ランクNPC冒険者と仲良くなって、間接的に教会を快く思っていない高位貴族へのコネを作るのが最善の策かしら」


 国内の問題に冒険者が介入しにくいのであれば、国内の貴族を巻き込んでしまうのが手っ取り早い筈。問題は、理性的で私達に味方してくれて、かつ教会相手にどうこう出来る程度に位が高い貴族が誰なのか、それもかなりの数の家名の賛同を得なければ国教相手ではどうにも出来ない可能性があると言うことね。


「その為にはやっぱり教会が監禁している証拠も大事だけれど、教会の神官に既に力がない証拠を早急に集める必要があるわね……」


 教会を快く思っていなくても、自分の死後を考えれば強気に出られない貴族は多い筈。でも、神官に力がないとなればそれは詐欺に当たる。教会とずぶずぶの関係にある貴族以外は、ことの次第と証拠さえ提示出来れば動いてくれる可能性は高い。


「うん、この方向が良いかしらね」


 何としてもクリスマスパーティーを守る為に。蓮華くんと視聴者さんに作戦を伝えようと、私は残りの食事を急いで流し込んでヘッドギアを装着した。食器洗いは寝る前にすれば良いわよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 食器はせめて水に浸けておかないと・・・(笑)
[一言] 更新の時間が12121212になっててちょと笑ってしまった(笑) ヴィオラさん…戦闘と同じくらいリアルのこともしっかりこなしてくださいよ……
[一言] 他の種族も出てきて欲しいものだね 1番はハーフリング……でも小さな子供とか割と目立ちそうだな 次に精霊種 こっちは姿形を変えて溶け込んでいそうだな 後、居そうなのは獣人の各種だね
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