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58.早速なんか嫌な話?

 マップ踏破率も無事に百%になり――フラグとやらは立たずに済んだらしい――、今は休憩を挟んでログイン直後、金曜日の午後一時。順調にいけば土曜に変わった頃に王都に到着する見込み。下手なことを言ったら「フラグ」とやらが立ってしまいそうなので、心の中で計算するに留めておく。


「どうして急に喋らなくなったの?」


「えっ……いや、何か言ったらフラグが立つかなって」


「……不器用ね」


『www』

『フラグ気にしてるwww』

『どんだけ何ごともなく帰りたいのか』

『まあこれだけ想定外のてんこ盛りなら分からなくもないw』


「いや、家に帰る迄が遠足なんでしょ……? 慣れ親しんだ街道だからって油断して何か起こったら……」


『遠足気分でCランクフィールドの依頼……』

『遠足w随分と殺伐とした遠足先だなあ』

『お弁当は現地調達ってか……』

『帰ると言えば、確かに蓮華くんはちょっと気を付けた方が良いかも?』


「えっ、何、早速なんか嫌な話?」


『王都に戻ってきたら嫌でも体験することになると思うけれど、今NPC住民が黒髪黒目の人達を迫害してると言うか、目の敵にしてると言うか……』

『あー、あれか。確かに蓮華くんばっちり当て嵌まってるな』

『ね。よりによって魔術師だし』


「どう言うこと? 黒髪黒目の魔術師が恨まれてるってこと?」


『そそ、王都イベントの件で、主犯がネクロマンサーじゃないかって話になったでしょ?結果として、黒髪黒目はネクロマンサーの素質があるから徹底的に排除しなければならないって言う噂と言うか、主張というか』

『まあ、王都が厄介なことになってるんすよ。だいぶ前の蓮華くんの配信で「黒髪黒目は魔法の素質が高い」っていうシモン先生からの情報が出てるから、わざわざキャラメイクを黒髪黒目に変更したプレイヤーも結構居て被害が大きい』


「なんだってまたそんな話になってるの? 原因は?」


『それは勿論腐敗した教会っすよ』

『あー、あいつらか。俺シヴェフ王国民じゃないけど、王都イベントの配信観てて胸くそ悪かったなー』

『まじで全く仕事しないくせに文句ばっかり一人前の集団だったよな』

『ついに動き出したのか……』


「教会、と言うか王国民全員がネクロマンサーを恨むのは分かるけど、黒髪黒目が悪いだなんてそんな話……魔法の素質があるってことは、当然神官としての素質も高い筈なのに何を考えているのだろう」


『だからじゃない?』

『うぬ。教会からの依頼で一回教会内に入ったことあるけど、まあ見事に金髪碧眼とか、色が白い系ばっかりなの。だから多分、見た目をかなり気にしてて、結果として魔法の素質は高くないから、神官の腕も全然良くない……んじゃないかな』

『そうなると当然教会の威信は地に落ちるから、再び名声を取り戻す為には神聖力を高めないといけない』


「もしかして、黒髪黒目の人達を捕まえて、神官にしようとしている?」


『多分。でも黒髪黒目を神官にするならあんなデマ流すわけないと思うから……』

『監禁とかして、表向きは今居る綺麗どころの神官が治癒した風に見せる』

『そもそも教会は魔法と神聖力は別物って言ってるんじゃ無かったけ?それなのに黒髪黒目を搔き集めようとしてるの?』


「要するに、表向きは神聖力というものがあって、自分達は特別だと言っているけれど、その実態が魔法で、魔力と神聖力が同じものだということは本人達も理解してるってことだね。でも教会に権威を集中させる為には、神聖力というものがあるように見せた方が都合が良い、と」


『あー、なるほど』

『ぶっちゃけ今までなら神聖力(笑)が弱くても、どうにかなってたんじゃない?だけど、王都イベントからこっち、冒険者とか魔術師の活躍ばっかり取り沙汰されてて、教会が見向きもされなくて焦ってる、と。んで慌てて策を打ち出した結果が――』


「今ってことか。時期的には確かにあり得るね。王都イベントが終わって……どれ位だっけ?二週間くらい? イベント後の自分達への風当たりの強さを実感して、それに対して行動を取るには丁度良いタイミングか」


『風当たりが強くなったのだって自分達が原因だろうに』

『そう言うところは棚に上げるんだよあいつらは』

『頑張ってる魔術師冒険者に対して「野蛮」とかほざいてたもんな』

『前線でご自慢の神聖力使ってアンデッドを一掃するだけの力もなければ度胸もないくせにな』


「うーん、状況は分かった。となると、ますますアインを教会に委ねる選択肢はないね。アインどころか僕すら教会に近寄れなさそうだ……、アインの件、どうしようかなあ」


『王都に入る前に蓮華くんが頑張ってみる?』

『そうだよ。アインくんが昇天しない程度に毒だけ浄化すればいい』

『ついでに神聖力wwwもアップさせて王都で人を癒やせば黒髪黒目の神聖力持ち(ただし神官ではない)が立証されて教会ざまぁ出来ない?』

『それ良いね!』


 宗教かあ。異端審問官だとか魔女狩りだとか……いつの世の中も本当に宗教って厄介だよなあ。どうして「うちはうち、よそはよそ」という考え方が出来ないのだろう。


「教会ね……そう言えば、魔術師とか魔法師って言葉の区別に関しても色々面倒なことを言ってたんだっけ?」


 とヴィオラ。ん、面倒臭いこと? その二つに明確な使い分けがあったのか。


『あー。魔術師:魔法をメインに使う人。魔法師:魔法を少しでも使う人の総称。ってやつ?』

『でも魔術師って呼ばれると神官ぶち切れるんだろ?w魔力じゃなくて神聖力だからwww』

『俺も片田舎のばーちゃんからその辺の使い分け教えて貰ったけど、神官に対して魔術師と言う言葉は使っちゃいけないって言われたな。神官はあくまで神官で、それ以外の何者でもないらしいぞ』

『頑なで草w本気で神聖力の存在を信じてるなら分かるけど、魔力だって理解して黒髪黒目を誘拐してんだとしたら、どの面下げて言ってるんだよって思う』


「それじゃあ僕は厳密には魔法師な訳かあ。どう考えても神官は魔術師だよね」


『それofそれな』

『本当に』

『魔法メインだもんな』


「……シヴェフの教会って、シヴェラ教だっけ? 女神シヴェラの教えってどうなってんだろう。絶対的一神教だから排他的なのは今に始まったことではないのだろうけれど」


『「わたしのほかの神を崇めてはならない 」とかモーゼの十戒と似たようなこと言ってるやつな』

『まあ絶対的一神教だしな。それ以外は?』

『「清廉潔白・日々を神に感謝して慎ましやかに過ごしていれば、死後は女神シヴェラに迎え入れられ、穏やかに過ごす事が出来る」』

『まあ正反対の生き方をしたマカチュ子爵家の面々がひどい目に遭った辺り間違ってはいないんだけどさ』

『当たり前のこと言ってるだけって言うか、そもそも死後のことだけ?生きてる人に対しての保護みたいなのはないの?w』


「女神シヴェラを崇めているのに権力主義で強欲で金の亡者の神官……死後は間違い無く女神シヴェラに見捨てられるよね」


「その通りでしょうけれど、ああいう人達は自分達が実際に死ぬ迄はそんなことこれっぽちも思わないんでしょうね」


「それか、女神シヴェラの力の源が神官の信仰だとしたら、たとえ腐敗していても神官だけは厚遇するとか?」


 じゃなきゃどんな馬鹿だってさすがにどっかのタイミングで気付く……よね? 気付かないから馬鹿なのか。


「一種の免罪符ってこと? 神官になるだけで死後の扱いが決まっているのだったら現世で何でもし放題でしょうね」


「でもさ、そもそもの話だけど。治癒はさておき、死後の祈りは神官が必要だよね? 国民皆ペトラ・マカチュ子爵令嬢が森で打ち捨てられていた結果、昇天出来ずに王都に迄やってきたのは知っている筈。教会の評判が多少落ちたとしても、自分達の死後を考えたら教会を蔑ろには出来ないと思うのだけど。なんで教会はそんなに躍起になって黒髪黒目を集める必要があるのだろう」


『今凄い嫌なこと思いついた』

『俺もwそもそも最早、アンデッド化しない為の祈りを成功させるだけの力がないのでは』

『うぬ。それなりの人数が森のエリュウ狩りに失敗して森で死んでるんでしょ?令嬢以外は祈りを捧げて貰ってるとか言ってたけど、実は令嬢が怨霊として蘇ってきたときに貸し与えられたアンデッドって、ネクロマンサーが無理やり遺体をどうこうしたんじゃなくて、元からアンデッドになってたってことない?』


「王都イベントで神官はその事実に気付いた? アンデッドを浄化しないで文句だけ言いながら後方で治癒をしてた本当の理由は、浄化が出来ないから?」


『祈り=浄化みたいな図式ならそうかも』

『こっわw』

『現実での葬式みたいな感じで、概念としてなら良いけど、実際にアンデッドとして復活するような世界観で祈りが出来てないとか怖いどころの騒ぎじゃない』

『住民が事実を知ったら教会崩壊待ったなしじゃん』

『だから黒髪黒目を集めて、戦力増強しようとしてる?』


「え、どうしようヴィオラ。なんか突然怖い方向に話が発展し始めたのだけど」


「うーん……そうね。一つ気になるわ。黒髪黒目の人に魔法の素質があるのは良い。でも、無理やり教会に拘束されたとして、そこで目覚める力は本当に治癒や浄化の力だと思う……?」


「あくまで素質があるのは魔法。となると治癒じゃなくて攻撃魔法だったり……或いは死霊術だったり。いくらでも別の方向には転ぶだろうね」


「響きだけで言うと、闇魔法、黒魔術とか。あるのかは分からないけれど。とにかく、神官への恨みが積み重なって危険な方向に転ぶ可能性は多いにあるわよね」


「これはもしかして、王都へ急いで帰った方が良いかな?」


「でも、アインはどうするの? それに今の話もあくまで噂から予想しただけであって、証拠はない」


「そうか、そうだよね。……黒髪黒目のプレイヤーも増えてたって言ってたけれど、実際に居なくなった人は居るの?」


『いや、プレイヤーはあくまで住民からの風当たりが強くて買い物とか苦労してるだけかな』

『プレイヤーは基本的に冒険者ギルド所属だからな。手出ししたらヤバいって分かってて一般人のNPCだけ選んでるかも』

『NPC誘拐の可能性は高いけどなー、誰もわざわざ注意深く見てないから居なくなってるかどうかは分からないんじゃ』

『聞き込み調査でもしてみる? 最近居なくなった人が居ないかって』

『黒髪黒目を軽蔑するようになった=存在を気にしている人も多い。姿が見えなくなったかどうかくらいなら探れそうだな』


「お願い出来るならしたいかも? 僕達が王都に着くまでに居なくなった人が居ると言う事実さえ出て来れば、ギルドマスターに話をするくらいなら出来るし」


『だな、俺達じゃギルマスへのコネはないし』

『教会が腐敗してようが死に戻り出来る俺達には関係無いけど、王都内に新たなネクロマンサーが出現したり、遺体がアンデッドとして蘇ったりとかしてきたら話が変わる』

『そうなったら他人事じゃいられないな』

『まさか王都イベントからのこんな派生があるとは……』

『これって蓮華くんが活躍しすぎて、蓮華くんがたまたま黒髪黒目だからこう言う展開になったのだろうか?』


「どうだろうね。もし用意されてるシナリオなら、僕が居なくても誰かNPC冒険者の中に黒髪黒目の魔術師が居たとか……」


『居たな、そう言えば』

『居たわwww』


「あ、じゃあどう転んでもこの話は出て来たかもしれないね。……とりあえず、事実だって確証が持てる証拠が出てくる迄動くことは出来ないし、アインが紫のままじゃ教会から何を言われるか分かったもんじゃないから、僕達は急ぎつつ、道中でアインをどうにかするよ」


『おっけー、配信コメント通じてこっちの様子は随時伝えるから待っててくれよな!』

『やべえ、ただの雑談配信かと思ってたらとんでもないイベント隠れてそうでドキドキする』

『いいなー!どうして俺はシヴェフ王国でキャラクターを作らなかったんだ!!!!!!!!!!!!!』

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2024年4月20日2巻発売!

吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

二巻表紙


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― 新着の感想 ―
[一言] お、クエストがどんどん派生していく感じ良いぞー笑
[一言] >『いいなー!どうして俺はシヴェフ王国でキャラクターを作らなかったんだ!!!!!!!!!!!!!』 解る、こういう一体感を感じられるゲームとかやりたいわ。
[一言] 指一本外して浄化実験すればよくね? 頭でも新しく生えてくるんだしw
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