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55.待って待って待って

 さて、いざダンジョンを出ると言っても、どこからどうやって出るのだろうか。改めて空間全体を見渡すと、細い通路が死体の山の合間に存在していた。


「思いっきり見逃していたわね」


「うん……ログアウト時にダンジョンから追い出される仕組みだったら泣いていたね」


 細い通路を進んだ先、ダンジョン最奥には宝箱と、僕の身長よりある謎の渦が存在していた。宝箱か……道理でヤテカルからの報酬がしょっぱい訳だ。宝箱が別に存在していたのだから。


「さて……これ素直に開けて良いと思う?」


「罠がないかってことよね? 正直分からないけれど……、ボス討伐のゲーム的報酬と考えれば罠はない気がするわよね。ただ、これがここに住んでいる人たちが貯めた財宝と仮定すると……」


「ありそうだよねえ」


 するとアインが、僕の裾をくいくいと引き、アイン自身を指差して何ごとかをアピール。


「何? もしかしてアインが開けるってこと?」


 僕の発言に、アインがこくこくと頷く。


「なるほど、確かに一部の罠はアインには効かないかもしれないけれど……」


「怪我をしても自己再生機能はあるでしょうけど、不愉快な思いをすることには変わりないわよね。本当にそれで良いの?」


 ヴィオラの問いかけに、アインはサムズアップをする。まあ、本人がここまで言っているなら止める理由はないけれど。


「それじゃアイン、お願い出来る? 僕達は……一応下がっておこうか」


 僕達がある程度離れたことを確認したアインが、宝箱に向き直り、静かに開ける。二秒、三秒、四秒――、何も起こらないみたい?


 ヴィオラと頷き合い、そっとアインへと近寄る。アインが宝箱から取り出したのはアクセサリが二つ。


「『未鑑定の指輪』が二つ。それに若干のお金ね」


 銅貨が大量にあるけど、銅だからなあ。一銀あるかどうかと言ったところ。日本円換算すればおよそ千円、本当におまけ程度だろう。


「ってことは、その指輪がメイン報酬ってことかな」


「そうみたいね、でも未鑑定……私が持っている鑑定熟練度では全く情報が見られないから、これは王都で頼まないと駄目ね」


 丁度二つあるので、僕とヴィオラで分けるにしても、情報が分からなければ選びようがない。と言うことで、一旦ヴィオラのインベントリに格納。お金に関しては、丁度二等分しました。一人当たり五百円。エリュウの涙亭でデザートがつけられそうです。


「で……、この渦はなんだろう」


「普通に考えたらこれが出口よね。テレポートゲートと言ったところかしら」


「なるほど、この渦に飛び込めば森に戻れるってことか。それじゃあ……僕から先に出るよ。変なところに出て、いきなり襲われても困るし」


「分かったわ。それじゃ、蓮華くんの次はアインくんね。可能性は低いと思うけれど、テイムされてる子はゲートをくぐれないなんて制約があっても困るし」


 ヴィオラの言葉に僕は頷く。ゲームシステムであろうゲートにここ迄過剰に慎重になる必要はないのだろうけれど、先人達の情報も無い、完全に初めましてのものはちょっと警戒してしまう心理。


 ヴィオラとアインに見送られ、僕は青く光る渦――テレポートゲート――をくぐった。視界が暗転し、数瞬のちには見慣れた森の中に居た。


「お、戻って来られた」


 そのあとに続くように、アインの姿が。良かった、無事にゲートを使えたんだね。


 続けてヴィオラも登場。なるほど、ダンジョンは最奥に報酬とゲートがあるのか……覚えておこう。他も一緒とは限らないのだろうけれど。


「ちょ……待って待って待って、視界が奪われてるんだけど」


 プレイヤーになっても画面はシンプルなままだなって安心してたのに! 何この文字の弾幕は!


『えっ』

『待って待って待って』

『プレイヤーじゃん』

『デビューおめっとおおおおおおおおおお』

『祝・NPC卒業』

『ダンジョン内で何があったというのかwww』


「ああ……コメント?」


「うん。これいっつもこんな感じで流れるの?」


「非表示にしたり、表示領域を小さくしたり、レイアウトを変更したり出来るわ。私は、戦闘用に非表示と、通常用に端に表示するパターンでプリセットを切り替えてる」


「切り替えるとかそう言う上級技術は出来る気がしないな……」


『知ってた』

『安定の不器用』

『蓮華くんなら常時表示で戦闘出来る』

『いや待て、配信についてはノータッチなのか?』


 あ、意外と慣れると速度的には全然目で追えるかも。多分血液摂取の効果でゲーム内でも若干動体視力が上がってる感じ……これっていわゆるチートにならないのかな。


「実はねー、配信については運営さんから報告があって今日の夜中に知った感じです。で、ついでにコクーンの修理も完了したので、晴れてプレイヤーデビューしました! と言う訳で、一応今後もこのまま自動配信をしていきたいと思います」


『まじかw』

『手動配信にすらしないとか強い』

『いや、今更配信止めても手遅れじゃねって言う境地に一票』

『ねえ、それより誰も突っ込まないの?アインくん』

『俺も気になってた』

『何 で 紫 な の』


 視聴者と会話をしながらもマップ踏破率を上げる為にひたすら移動。ヤテカルを倒したからか、例の方向感覚を妨害する何かは綺麗さっぱり消え失せていて、移動に支障はなくなっている。良かった良かった。


「あー……ダンジョンで色々あった感じで……言うとネタバレになっちゃうからなあ」


『確かにダンジョン内に居るとき自動で配信止まってたね』

『難しかった?』

『ネタバレされても理由が気になる』

『ボスの正体とか言われなければネタバレ拒否勢も大丈夫でしょ』


「じゃあ軽く説明するけれど、アインがね、毒食らいまくった結果紫に染まっちゃいました。本人はいたってぴんぴんしてるんだけれど、僕も迂闊に触れないから治し方はこれから考えるところ……。治る迄スキンシップお預けなんだ」


『アインくん涙目案件』

『王都歩くの大変そうw』

『人混み歩いたら一発でお縄になるやつ』


「そうなんだよね、治す為に王都で薬剤師とかテイマーさんとかに話聞きたいけれど、王都に行ったら色んな人を巻き込みそうって言う恐怖」


『犬テイムしてるけど、この間道端でなんか犬の身体に悪い草食べたときは普通に医者の世話になったな』

『アインくんは絶対医者じゃ無理だと思うw』

『既に死んでるんだよなあ』


「医者……は無理そうだね、確かに」


『浄化的な感じで教会は?』

『アンデッドの段階で滅せられそう』

『やめて!アインくんがタヒんでしまう!』

『いや、だからもう死んでるのよ』

『第二の生も強制終了されそうだから教会はやめとこうぜ』


「教会も駄目そうだね、うん」


 アインの選択肢がどんどん狭められていく……大丈夫なのだろうか、これ。


「やっぱり薬剤師位しかどうにか出来そうにないかしらね……」


『待って、これはどっちの配信でコメントすれば良いんだ』

『いや、別に教会に限らず魔術師は神聖魔法使えるんじゃなかったっけ?』

『ああ、じゃあNPC冒険者に頼めばワンチャン行けるかも』

『コメント欄共同の配信とか実装してくれないと俺ら困るんだがwww』


「あー、そっか魔術師! 待って、それって頑張れば僕でもどうにか出来るのでは???」


『出来るやろな』

『頑張れ魔術師プレイヤーw』

『武器の恨みで神聖力発動しとこ』

『神聖力って字面と一番遠そうな力の源で草』


「うわ、そんなこともあったね、恥ずかしい……。それにしても確かに、コメント欄が別だと一緒に行動しているときには不便だね。でも全部のコメントが全員宛てじゃないだろうし、案外需要がなさそうな」


『確かに』

『まー二人宛のコメントは皆で協力してどっちの配信でもコメントしとけば良いんだよ』

『掲示板とおんなじことで悩んでて草』


「掲示板? あー、そう言えば運営から僕の個人スレッドが立ってるとか聞いた気がするな。ヴィオラのスレッドもあって、行動一緒にしてるからどっちに書き込めば良いか悩んでるってことか」


『そこまでばれてるとは!』

『察しが良い』

『個スレの存在ばれたってことは今度からは迂闊なことは書けないな』

『いや、今までも書いちゃだめだろ』

『そう言えば蓮華さん、良いタイミングでプレイヤーになったね』


「うん? 何かあるの?」


『明日から課金アイテムに期間限定で季節にあった食材追加されるらしい』

『チョコレートとかクラッカーとかクリームチーズとか』

『あと数の子、昆布、黒豆、栗、田作りなど』


「それは……どう考えてもクリスマス料理とおせち料理を作れと言う運営からの命令ですね」


『命令ではないw』

『しかも期間中は作った料理の消費期限がカウントされないらしい(バフ料理を除く)』

『要するにゲーム内でクリスマスと正月を過ごせと』

『マジレスすると一人暮らしだと家でおせち料理とかわざわざ食べないし、ゲーム内で食べれるなら良いよな』

『売ってるのは材料だからな。誰かが作ってくれない限り食べられないんやで』


「ふむふむ……つまり、明日以降、クリスマス料理とかお正月料理をいつ作ろうが、当日迄は絶対腐らないってことか。これはもしかして、稼ぎどきでは?」


『突然の銭ゲバ』

『稼ぐ気満々でワロタ』

『ちょ、どっかで売ってくれるならまじで金払うぞ!どうせ一人身だし絶対GoW内で過ごすだろうから、おせち食えるなら食いたい』

『俺も』

『上に同じ』


「ほら、やっぱり需要あるのでは? ジョンさんのお店……一角貸して貰えたりしないかな? どうせなら皆でパーティとかやってみたいよね」


『場所代払ったら貸して貰えたりするかな……』

『いやーでも店の常連も店で年越したりとかしそう』

『料理材料提供してくれるくらいだから、運営側でなんか場所提供してくんないかね』

『それが一番良いよな』

『なんならオフィス街にレンタルスペースとかないんかな』

『場所代超高そう』


 うん? さっきから物凄くヴィオラの視線が痛い気がするな……。


「ヴィオラ? どうかした?」


「お金は払うから私の分も用意して下さい」


「あっ、はい」


『ヴィオラちゃんwww』

『クリスマスぼっち確定やんけ』

『やっぱり恋人いな(ゲフンゲフン』

『おせち代』【3銀】


 ん、なんだろう、コメントの最後についてる【3銀】って。


「何これ?」


『あ』

『あーあ』

『やっちまったな』

『どうすんだよ』


「え、何なに、説明して欲しいんだけど」


 ちらり、とヴィオラを見るも、そっと目をそらされた。おっと、この期におよんで皆さんまだ隠し事がある感じですか?

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  「33.配信なんてあるんですね」で配信見ながら投げ銭について一度説明受けているのに忘れてること。  遠い世界だと思って聞き流したのかな?
[気になる点]  確かエリュウの涙亭の2階には台所があったはず。
[一言] 投銭全部使って年越しパーティ開催しそう
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