表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/316

54.フレンドになりたいのだけど

「やあヴィオラ、アイン」


 僕はつとめて何ごともないような声で挨拶をした。朝は特に何の問題もなく事情を説明してログオフしただけなのに、夕方にぎこちなければ、それこそ不自然だと思って。


「こんにちは、蓮華くん」


 僕の意図したことが分かったのか、先にログインして待っていたヴィオラも普段通りの挨拶を返してくれた。さて、想定外のトラブルが続いたせいで、何をしていたのか忘れかけている訳ですが……。


「朝はバタバタしていたから言い損ねてしまったけれど、改めてプレイヤーデビューおめでとう」


 そうだった、僕はついにプレイヤーになったのだった。


「ありがとう、ヴィオラ。それで、朝はちょっとしか聞けなかったから改めていくつか聞きたいことがあって……、外に出る前に、配信についての設定メニューだけは全部把握しておきたいのだけど」


「そうね、それが良いと思う。それじゃあ『配信』メニューを上から順番に説明していくわね。まずは『自動配信』のオンとオフ。これは文字通り、ログイン時に自動で配信を開始するか否かの設定。デフォルトではオンになっているわ。

 ちなみに普通、チュートリアルでデフォルト配信がオンになっていることの説明があるのよ。それにプラスして、最近では自動配信がオンになっていることについての警告UIが定期的に表示されるようになったの。警告UIは、同意しない限り消えないから、この二つで誤配信は普通防げるんだけど……蓮華くんはNPCだったせいでどちらもなかったんでしょうね」


「なるほど、仮にチュートリアルを読み飛ばしても警告UIが頻繁に表示されれば気付くって仕組みな訳だね。まあさすがにデフォルト配信がオンじゃクレームの一つや二つ……結構な数上がってただろうしね」


「でしょうね。掲示板でもその話はよく出てたわ。でもそれとは同じ位、デフォルト配信がオンのお陰で配信者デビューが出来たって意見もあったのよね。だから警告UIは折衷案だったんじゃないかしら。

 それから次が、『音声コメント』のオンとオフ。これもデフォルトではオンになっているけれど、人気配信者は大抵オフにしているわ。視聴者が増えればその分音声でコメント……つまり話しかけてくる視聴者も多くなって、ほとんど聞き取れない状態になる。次の『コメント』がチャット形式でのコメントだから、これだけをオンにしている人が多いの」


「なるほど……いきなり誰も居ないところで声が聞こえたらちょっと怖いから、僕も『音声コメント』はオフにしておこう。それで、この二つに対する許可リスト、不許可リストと言うのは?」


「許可リストがコメントを許可するプレイヤーリスト、不許可リストがコメントをブロックするプレイヤーリストよ。許可リストにのみプレイヤー名を記載すれば、許可した人達だけがコメント出来る環境、その逆に、不許可リストにのみプレイヤー名を記載すれば、その人達以外がコメント出来る環境になるわ」


「なるほど、知り合いのみがコメント出来る配信にしたり、迷惑なプレイヤーをブロックしたり出来るってことだね。今のところはまあ……特に設定する必要はなさそうかな」


「それから『手動配信』。これは文字通り、自動配信をオフにしている人が自分で配信したいときに使うボタンよ。それと『動画の録画』。これはリアルタイムの配信はせず、動画だけを撮っておいて、あとから任意のタイミングでアップロード出来る方法。あと重要そうなのは『アーカイブ』のオンとオフかしら。これは、配信した内容をあとから視聴出来るように過去の配信も動画としてアップロードしておく設定よ」


「『動画の録画』はしばらく無視するとして、『アーカイブ』はこのままオンにしておこうかな。あとは配信を自動にするか手動にするかだけど……うーん、正直これだけずっと配信されてたら、今更気にするのもなあ。あと、そもそも『手動配信』ボタンを押すのを忘れて配信せずに終わりそう。配信に関してはこのままで良いか。どうせオフィス街での仕事中は自動でオフになるみたいだし」


「あとはそうねえ、カメラコントロールなんかの設定もあるけれど……蓮華くんの場合はひとまずAI自動のままで良いんじゃないかしら。戦闘や探索をしつつ、カメラコントロールもするって無理そうよね。それから、『自動配信』がオンの場合はどこかに停止出来る箇所があった筈……」


 わあ、さすがヴィオラさん。よく分かってる。カメラの調整なんてしてたら何も出来ない自信しかない。


「オフってこれかな、うん。設定の一番上に分かりやすく存在してる。配信についてはこんなものかな……、あとは、そうだ! システムメニューの出し方なんだけど、右手を使って起動する方法をどうにかしたいんだけど出来たりする? いちいち武器を持ち替えたりするのが面倒臭いのだけど」


「それなら『設定』の『ジェスチャー』にあるわ。左手操作にすることも可能だし、音声起動や脳内起動も可能よ。色々試してみると良いわね。あとは、ポーション類のショートカットかしら。いちいち『インベントリ』を開いて選択しなくても、ポーションなどの一部消耗品は、別途ジェスチャーとかを設定して、瞬時に出すことが出来るわ。勿論自分が忘れたら意味がないけど」


「じゃあシステムメニューは左手で左から右にスライドすることにして……あ、複数選べるなら同時に音声起動も設定しておこう。あとはポーションのショートカット……ごめん、そもそもポーションの効果が分かってなくて」


「私がポーションを渡したのいつの話だと……いえ、説明をしなかった私が悪かったわね。インベントリが存在しないならポーションの説明だって読めないのよね、失念していたわ。ひとまず……そのリュックに入ってるものを全てインベントリに移動するところから始めましょうか」


 そうそう、これは午前中のうちに聞いていた話だけれど、プレイヤーもインベントリの他にリュックとかポーチに入れてアイテムを持ち歩けるらしい。なので僕が今迄持っていたリュックの中身も、プレイヤーになったからといって自動的にインベントリに入ったりはしなかった。


「アイテムをインベントリに入れる方法もまあ色々あるけれど、入れたいアイテムを視認した状態で脳内で『インベントリへ』と念じるのが一番早いわ。そうすれば個別でも一括でも収納出来るから。それじゃあ、リュックに対して念じてみて。多分自動的に中に入っている全てのアイテムがインベントリに入る筈よ」


 ヴィオラの説明に従って、リュックを視認した状態で『インベントリへ』と念じてみる。一瞬のち、リュックは跡形もなく消え去った。インベントリを開くと、確かにリュックの中身と思しきアイテムと、リュック本体が表示されている。


「ヴィオラ、一部だけ枠の色が赤いアイテムがあるんだけど」


「それは所有者が別に居るアイテムね。インベントリにしまおうとしたタイミングで所有者側に確認のUIが出るの。そこで許可されればしまえるし、許可されなければしまえない。要は盗難防止措置ね。許可する際、所有者側は期日を設けることも出来る。期日が経てば、自動的にインベントリから消失して、所有者のインベントリへと戻る仕組みよ」


「ふうん……エリュウの涙亭の鍵だから、所有者がジョンさんの扱いになってるってことか」


「ジョンさんはNPCだから、貴方に渡した段階で、許可した扱いになっている筈。だから確認のUIが表示されずにそのままインベントリに格納されたのでしょうね」


 奥が深いなあ。タップしてみても期日らしい期日が表示されないってことは、ジョンさん的には明確な期日はないのかな?


「ポーションに関しては……長くなるわね」


 そう言ってヴィオラが説明してくれた内容は以下の通り。

 『愛の目覚めHPポーション』一瞬で回復するタイプのHPポーション。通称赤ポーション。

 『命の灯火HPポーション』徐々に回復するタイプのHPポーション。通称緑ポーション。

 『知識の泉MPポーション』一瞬で回復するタイプのMPポーション。通称青ポーション。

 『禁忌の戒めMPポーション』徐々に回復するタイプのMPポーション。通称紫ポーション。


 名前が長く、ややこしい為NPC含め皆ポーションの色で判断しているらしい。なんでこんな名前にしたのだろう……。運営はもしかして厨二病と言う病にかかっているのだろうか。今のところ、回復量によって他にも色々な名称のポーションが存在していたりはせず、各ポーション、ランクによって回復量が違うだけとのこと。なお、ヤテカル戦でも聞いたように、緑・紫ポーションは、赤・青ポーションに比べて総回復量が低いものの、クールタイムが短いと言った利点があるらしい。


「あ、ごめん。最後に一つだけ。ヴィオラとフレンドになりたいのだけど」


「ああ、そうだったわね。プレイヤーを検索する方法は色々あるけれど、今なら『近くのプレイヤー』に私だけが表示されている筈。選択して『申請』を押してみて。このゲームのフレンドは許可制だから、申請に対して許可を得られなければフレンドにはなれないの。その代わり、フレンドになると色々便利な機能があるわ。まあ、それはあとから説明するわ」


「申請してみたけれど、どう?」


「今許可したわ。これでフレンド一覧に私の名前とログイン状態が表示されている筈よ」


「本当だ。『オンライン』になってる」


「それじゃあ、そろそろ森に戻りましょうか」


 ヴィオラの言葉に僕は頷いた。いよいよ視聴者さんと対面する訳か……ちょっと緊張するなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2024年4月20日2巻発売!

吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

二巻表紙


1巻はこちら

― 新着の感想 ―
[気になる点] 「でしょうね。掲示板でもその話はよく出てたわ。でもそれとは同じ位、デフォルト配信がオンのお陰で配信者デビューが出来たって意見もあったのよね。だから警告UIは折衷案だったんじゃないかしら…
[一言] 配信が開始されたのを見た視聴者 あ、配信されてる……………え?NPC卒業? ガタッ ガタガタガタガタ……………どたっ いてて 脱兎←どうもフレンド申請をお願い…
[一言] あれ…投げ銭……。 いつ確認するのでしょうか? 過去ログでの確認の時なんでしょうかね?確認のタイミングは。 もちろん、6時間耐久(視聴者が(笑))日光浴の際の投げ銭も確認するんでしょうね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ