50.なんで人気になったの?
事前に報告がなくて申し訳ありませんが、しばらく適当に日中帯に投稿します。
※昨日、アクセス数が急に上がったので実験的に
20時の投稿はありませんので、悪しからず。
さて……お説教の時間がやってまいりました。
いや、お説教って言うと語弊があるか。洋士くんへの質問タイムと言ったところですね、はい。
計測したデータに太鼓判を押して貰ったので、あのあとすぐ洋士の自宅へと試作機を搬入、洋士が購入した正式なコクーンを搬出した。
そうそう、ソーネ社を出る前にダンジョンの仕様についてもちょっと聞いてみた結果、色々分かった。
一、ログアウト時、一週間は維持される。ただし、今後ダンジョン攻略者が増えたタイミングでこの期間は調整が入るかもしれないとのこと。
二、ダンジョン攻略後にダンジョンを退出した場合は閉鎖されるので同じ空間には戻れない。素材の取り忘れには注意ってことだね。
三、ログイン後六時間経過したタイミングで戦闘中だった場合、戦闘が終了される迄強制排出は猶予される。
四、ダンジョンに限らず、発見することで解放されるコンテンツはヘルプページに記載はない。解放されたタイミングで掲載される。要するに公式側からのネタバレは極力防止していると言うことか。
ヴィオラへの手土産が出来た訳だ。まあ彼女のことだから、公式サイトのヘルプにダンジョンについての記載が増えたことに気付いて既に読んでそうだけれど……。
話は戻って洋士への質問。
「で、なんで僕に教えてくれなかったの、配信のこと」
反省をアピールする為なのかなんなのか、洋士はリビングの床に正座している。いや、そこは貴方の家なんだからソファに座って貰って良いんですが。
「なんだよ……配信に関して怒ってないんじゃないのかよ」
おっと……僕が小林さんに対して紳士的に対応したから案外いけると思ってたのか。さては馬鹿だな?
「怒ってない訳ないだろ。でもそもそもNPC扱いになってしまったのは僕が血液を飲めないせいだから、小林さん……と言うよりもソーネ社のことは責められない。むしろこれだけ親身になってコクーンを改造してくれている訳だし。小林さんからの話を聞いたから、他のプレイヤーに対しても同じ。そりゃ僕に忠告したらあとで他の視聴者に怒られるなんて、僕が同じ立場でも忠告はしないよ」
ここで僕は一呼吸置いた。このまま話し続けたら声を荒げそうだからちょっと落ち着きたいな、と思って。
「でも洋士だけは違ったよね。唯一誰にも責められずに僕に配信のことを伝えられる立場だった訳。何で気付いた段階で言ってくれなかったの。って言うかいつから気付いていたの」
「……あんたから電話が来たあとすぐ」
はあ??? それってコクーンの修理をする必要があるかもしれないってGMに言われて、洋士に相談する為に電話したときってこと? 凄く前なんだけれど、噓でしょ……。
「そんな前から気付いててなんで言ってくれなかったのさ……」
怒りを通り越して呆れてしまった。こいつのことだから絶対全配信確認してる筈。それだけ長い間配信を見ておきながら、僕に一言も言わなかったのは一体何故なのだろう。挙げ句の果てに『独り言には気を付けろ』? 本当に何を考えているのかさっぱり分からない。
「あんたが……楽しそうだったから。あんなに生き生きとしているあんたを見たのは久々だった。それをずっと見ていたかったんだ」
いや、ストーカーかよ。思わず心の中で突っ込んでしまったけれど、そんなことよりも。
「そんなに最近の僕はつまらなさそうに生きていた?」
自分で心当たりあるとは言え、数十年顔を合わせていなかった洋士がお見通しだったことに僕は驚いた。
「生きる屍って言葉は、あのときのあんたの為にあるんじゃないかと思った程度には。そのくせに仕事だけはきっちりこなすし、正直不気味以外の何物でもなかった。あんな状態になるくらいなら、エルフを捜しに旅に出るなんて阿呆な発言をしてくれていたときの方が何百倍もましだった」
ひどい言われようである。しかし、そこまで心配をかけていたとなると怒りづらい……いやいや、でも今回のことは僕だけの問題じゃないからきっちりと言っておかないと。
「洋士の気持ちは分かった。心配をかけて悪かったよ。でも、僕が怒っているのは別に僕のプライベートが無断で晒されていたからだとか、そう言う理由じゃない。僕の発言一つで、他の仲間も巻き込んでいたかもしれないって言うところだよ。分かるでしょう?」
僕の発言で吸血鬼が存在しているとばれていたら。恐ろしすぎて、想像すらしたくない状況だ。僕が迂闊な発言をしたところで、その配信を見た大半の人は信じないかもしれない。けれど、ごく一部の人だけでもそれを信じてしまったら。その結果、僕達の存在を捜し当ててしまったら。
「一応ゲーム内であって自宅な訳でもないし、最初から発言には気を付けていたつもりではあるけれど……全部が全部問題ないかと言えば、正直自信がない。それに、仕事のことだってある。僕は最初から洋士に、『GoWは仕事の為に始めた』と伝えた筈。配信を見ていたなら、僕が篠原さんとGoW内で待ち合わせをしていたのも知っていたでしょう。それなのに配信のことを僕に言わなかった。もしシステム側でオフィス街の配信がオフになっていなかったら? とんでもないことになっていたよね」
「オフィス街で自動オフになるのは知っていたから……」もごもごと答える洋士。そう言うことじゃないんだよ。
「だとしても、だよ。僕の状態が運営側でも意図していないものなのは分かっていた筈だし、オフィス街での配信も切れなかったらどうするつもりだったの。それにオフィス街だけってことは、篠原さんの顔と名前は配信に映ってしまった。謝罪案件だよ、分かってる?」
他にも色々と言いたいことはなくもないけれど、元々僕の不手際から始まったことだから、これ以上洋士を責め続けるのも違うだろう。ただ、最後に一つだけ言いたいことはある。
「コクーンとか、ソーネ社への投資とか、洋士が僕の為に色々としたいってことは分かった。分かったけれど、本当に僕の為を思うのなら、僕に関することは包み隠さず報告して欲しい。それが一番僕の為になることだよ。あと、うん。洋士に関することも色々教えて貰えたらとても嬉しい。僕にとって君は息子だからね、息子に関して色々知りたいと思うのは当たり前だろう?」
最後にぎゅっと洋士を抱き締める。『心配かけてごめんね。これからは自暴自棄にならずにちゃんと生きるから。』そんな思いを込めて。
「さて……黎明社には早々に菓子折を持って謝罪に赴かないといけないけれど……現実のオフィスに出社ってしているのかな。まずはそこから確認しないと。さすがにこんな時間じゃ無理だから朝になってから電話だな。あとは、菓子折の準備と、謝罪用のちゃんとした服……」
「スーツならスリーピースがクローゼットに入ってる」
「ああ、そう言えばそうだったか……じゃあ服は良いとして……?」そう言えば妙にジャストサイズだし、僕好みのスーツが何着か入ってたな。和装と洋装じゃサイズ感ってだいぶ違うと思うのだけれど……色々怖いわ。
「ちょっと待って、謝罪するにしても、何て説明すれば良いんだろう。NPC扱いなのに配信していましたって言ったらコクーンの話になっちゃうけれど、あの筐体が悪い訳じゃないし、そもそも黎明社からの借り物だから色々面倒臭いことになりそう。」
「デフォルトで配信がオンだってことに気付かなかったことにするか?」
「いや、それだと万が一配信を確認されたときにコメントかなにかで色々バレるでしょう。だからそこは噓をつかずに、不具合でNPC扱いになっていたことは伝えた方が良いと思う。でもじゃあなんでNPC扱いになってるのって言う話が……」
「お前が病弱なのは知っているんだったか? それなら素直に測定したデータが基準値に到達してなくてプレイヤーだと判断されていなかった。データを誤魔化す為にコクーンを改造する必要があったから自分で購入した、借りていた分は返却します、で良いんじゃないか?」
「一応日光アレルギーと味覚障害だって伝えてる。まあ、田舎に暮らしてる辺り病弱だと思われてそうだから、その辺りは勝手に誤解してくれるかな? データが基準値に到達していない云々は噓でもないし。そうと決まれば菓子折の選定……、いや、まず今日の天気からだな。雨なら最高なんだけれど」
「今日は良い感じに雨だな。交通機関が止まったりしない程度の」
端末を操作し、すぐさま教えてくれる洋士。じゃああとは篠原さんが出社しているのかどうかを確かめれば良いか。まだ明け方四時ってところだから、九時過ぎに電話するとして……、ヴィオラには朝一で謝らないといけないな。
この時間に購入出来る様な店はない、と思ったら洋士が力業でなんとかしたので、早速菓子折を購入に外へ。未だ薄暗いので僕の身体的にもセーフ。それで思い出したけれど、僕プレイ開始初期って日光の下歩けるだけでテンションあがってなんか恥ずかしいこと口走ってなかったっけ……。あと六時間ひたすら日なたぼっことかしてた気がするんだけど。いや、なんで人気になったの?