46.大惨事になる未来しか見えない
ギリギリ投稿まにあっt……_(:3」∠)パタッ
「そろそろ残り五十%を切るわよ! そろそろパターンが変わるかもしれないから気を付けて!」
「分かった!」ヴィオラの声に、僕は叫び返した。ここ迄ヤテカルのHPを削る間、ヤテカル側の動きに変化は見られなかった。身体は今のパターンに慣れきってしまっていたので、ヴィオラの忠告はとても有り難い。
忠告通り、何度か攻撃を加えたあとヤテカルの動きは突如として変わった。今迄は、枝を叩き付けたり横薙ぎをしてくる程度。前触れなく枝が飛んでくる厄介さはあるものの、注意深く確認さえしていれば避けることが出来る単調な動きだった。
ところがHPが五十%を切ったのだろうタイミングから、突然地面が隆起しヤテカルの根がこちらの足に巻き付こうとしてきた。ヤテカルの高威力の枝攻撃に、こちらの動きを阻害しようとする根の動きが加わった今、まさに鬼に金棒と言った状態。
更に、根の動きは直接こちらの足を狙うだけではなく、地震かと思うほどの揺れ迄起こしてくるのでたまったものではない。
「足下と枝とどちらも気を付けなきゃいけないとは参ったな。攻撃を仕掛けられるタイミングがまるで掴めない」
アインと僕とでヤテカルからの注目を交互に引き付けている為、ヤテカルがアインに注目しているときは今迄通り、枝の攻撃をこちらに仕掛けてくることはない。だけど、地震のような揺れは広範囲に影響する攻撃だし、足下に絡み付いてくる根は完全にランダムといったところ。
それなりに離れているヴィオラをちらりと確認すると、彼女も地面の揺れには苦戦しているらしく、矢を射る迄にかかる時間が明らかに伸びている。
「いっそ出て来た根を燃やしてみる……? いや、すぐに地面に潜られて消火されるかな……魔力の無駄遣いで終わりそう」
でも何度も繰り返せば、一瞬だけとはいえ燃やされることを嫌って、そのうち表に出て来なくなるかな? 地面の揺れだけであれば慣れればどうにかなりそうな気はするし。
「よし、ちょっと試してみよう」
実験なので、最小限の魔力消費で発動出来そうな火球を使うことに。その場に火の玉を出すだけで、直進したり追尾したりと言った機能は一切ないのが特徴。
今迄観察してみた結果、ヤテカルは多分僕達の位置自体は把握出来ているけれど、何をしようとしているのかは直接目で見なければ分からないみたい。だからアインに集中している今、根を燃やされる迄は僕の動きには気付かないと予測。なので、予め火球を掌に出しておいて、根が出て来たタイミングで直接触ればこと足りると考えたのだ。
僕はひとまずヤテカルに向かって走った。自分に向かって急接近していると気付けば、間違い無く根で妨害してくるだろう。妨害されなければされないで太刀で攻撃をしてしまえば良いと考え、左手に火球、右手に太刀、と何とも間抜けな格好で突進する僕。
「おっ、狙い通り! なるべく長く燃えて欲しいな」
目論見通りに僕の足下に這い出てきた根に火球を押し付ける。生木の割によく燃えるヤテカルさん。普段土の中にあって湿気っている筈の根も例外ではないようで、火球で触れただけであっと言う間に燃えました。でも残念、すぐさま異変に気付いたようで、あっと言う間に土中へと戻ってしまった。
「まあ、さすがに燃えっぱなしになる程知能は低くないか」
とはいえ、避けるより燃やしてしまった方が早く決着がつくことが分かったので、これで根に対する打開策が見えたのも事実。あとはまあ、足元に根を目視した段階で手を使わずに速効で燃やせれば更に良いんだけれど。僕はまだ修行が足りなくて、魔法を発動する迄の速度が遅いからなあ。
気を取り直して太刀で攻撃。性懲りもなくときどきヤテカルの根が足を引っ掛けに来るので、燃やしてご退場いただきながら本体を樹液まみれにしていく。むう、なかなかしつこいな。あんまり魔力を使いたくないんだけれど。
それはそうと、王都に戻ったら本格的に魔法の練習をしよう。武器があるから大丈夫、なんて考えていたけれど太刀から遠距離攻撃を繰り出せないとこの先が辛い。スケルトンやゾンビと言った物理攻撃ではどうにもならない敵、ヤテカルと言った近寄るのが難しい敵。やっぱりファンタジー世界の敵は今迄通りの感覚ではどうにもならないときが多々ある。練習をこなせば、最大MPも上がるっぽいし……。まあ、今の所具体的なMP数値は自分では分からないけれど。
十回は燃やしただろうか。いよいよヤテカルは、僕に対して根を使うことを諦めたようだ。だけどアインの方には根が出ていて、避けきれずに何度も躓いている。出会った当初と比べれば格段に早くなったけれど、まだ骨の身体に慣れていないのか、多少動きが遅いもんな、アイン。仕方がない。
うーん、今にも転んでヤテカルの枝の犠牲になってしまいそう。どうにかしたいけれど、僕の魔法は致命的な迄に精度が悪いんだよなあ。僕が介入したらアインごと焼いてしまいそうで怖い。アインも火は苦手みたいだし、大惨事になる未来しか見えない。
かと言って、アインに当てないように燃やすとなると密着しないと厳しいし、それでは自分の身を守れなくなってしまう。アインを助けに行ってアインに守られては、本末転倒だ。
反対に、ヴィオラの方を観察してみると揺れは影響しているものの、根は一度も襲ってきていない様子。もしかして、一定以上の距離には届かないのかな? 根の長さにも限界があるだろうし。……あ、そうだ良いことを思いついた。
「ヴィオラ、十本程矢にエンチャントするから、アインの足下に出てきた根を狙って貰える? 当てたら声もかけて欲しい」
「分かったわ。じゃあ、これにエンチャントをお願い」
渡されたのは木製の矢。根に当てるのであれば鉄製程貫通力は要らないってことか。手早くエンチャントを済ませ、ヴィオラと共に右回りで元々僕が居た側へと移動した。今居る位置だとアインの対角線上だからヤテカルの本体が邪魔で、アインの足下を狙えないんだよね。
「うん、この位迄下がっていれば根は届かないと思うから、あとはよろしく」
そう言って僕は前に戻る。弓と違って太刀じゃ、どうあってもあんな距離から攻撃を当てることが出来ない。
そうやって再びヤテカルに斬撃をお見舞いしていると、ヴィオラからの声。
「当てたわよ!」
それを合図に、僕はすぐさま着火を念じた。自分の魔法で直接根を狙うのではなく、矢にエンチャントした自分の魔力を辿るだけなので、多少距離があろうが、僕の意識が自分の太刀筋に向いていようが、大した苦労もせずに根を燃やすことが出来た。うん、我ながら良いアイディアだ。
三度、四度と繰り返すうちに、明らかにヤテカルはアインに対しても根で妨害を仕掛けることを躊躇うようになった。そうなればアインの独擅場、先程迄の遅れを取り戻すかのように怒濤の刺突を繰り出している。おお、かっこいいよアイン!
「四十%を切るわよ!」
後ろからヴィオラが実況をしてくれる。どうやら足下に余裕がなかったせいで四十五%は聞き逃したみたい。しかしこれ、五十%と言わず、三十%か二十%のタイミングでもまた攻撃パターンに変化がありそうだよね……。辛い。
先のことを考えても仕方がないので、目先のことに集中しよう。一刻も早くヤテカルを倒さないと、そろそろ集中力も尽きそうだし、戦闘中に六時間経とうものなら目も当てられない。
怒濤の刺突ラッシュのお陰で、ヤテカルの視線は完全にアインに集中しているし、また変にパターンが変わる前に、僕も捨て身の戦法でHPをごりごり削ってみようか。
――吽形伍の型、一髪千鈞
隙が多い分、攻撃に特化した上段の構えからの振り下ろし。右上段、左上段と、振り下ろした太刀を再び持ち上げ、連続で仕掛けていく。僕の正面に位置するヤテカルの右半身へ、太刀筋が何度も吸い込まれ、その度に樹液がじわりと滲み出る。
さすがにそう何度も叩き込まれればヤテカルの注意もこちらへ向くだろう。横から枝が発する風切り音が聞こえたタイミングで、僕は急いで後ろへ飛んで離脱する。上段の構えは胴ががら空きなので、防御という意味では下から数えた方が早い型。慌てて太刀を構え直すより、後ろへ下がって避ける方が安全なのである。
だけど僕へ注意を向ける分、アインの猛攻を枝で防ぐことは出来ない。ヤテカルは何故か、複数の枝を同時に多方向へ制御することは出来ないらしいのだ。修行不足だよ、ヤテカル君。
「蓮華くん……ごめんなさい、あと五十本程で矢が尽きるわ」
ヴィオラの声が申し訳なさそうに響く。いや、まあむしろあれだけの数の矢を射っていながら、未だに尽きていなかった方が僕的には驚きなんだよね。どれだけストックがあったんだろう。五十本で深刻そうってことは優に千本はあった感じかな。……え、全部手作りで?
「了解。一応、根っ子の対策の為に十本程度は残しておいて欲しいかも。それから、一旦エンチャントして、内部からヤテカルを燃やしちゃおうか」
ヴィオラの了承の声が聞こえたので、僕は防戦に徹し、再び注目がアインに戻るのを待ってから素速くヴィオラに近付く。
「それじゃあ、ひとまず十本分。アインがヤテカルと近いから、開幕時みたいな火達磨じゃなくて体内だけ燃やす感じにしたいのだけれど」
「それなら一遍に射掛けないで、一本ずついきましょう。なるべく急所を狙いたいところだけれど、木の内部構造なんて分からないから、余り期待しないでね……」
弦から放たれた矢は、ほぼ直線を描いてヤテカルの背中やや上部よりに、刺さり、矢羽根の半ば程迄埋まった。開幕の時も思ったけど、木製の矢がここまで突き刺さるって凄いよね……。
今度は全体的に強い火と言うよりも、鏃近辺だけに強い着火を念じてみた。うん、多分良い感じに内部が燃えているみたい。外からは急にヤテカルが暴れ始めたようにしか見えないのであくまで臆測だけれど。
「凄いわ、HPが凄い勢いで削れてる」
なるほど? 開幕時だってしっかり内部から燃やした筈なんだけど、なんで削れ方に違いがあるのだろう。散々切り刻んだ結果、不燃性の樹液があらかた外に流れ出たから燃えやすくなったのかな? それとも、矢が命中した部分が急所だった?