45.試してみようか、アイン?
戦闘描写が書けなさすぎて……御手柔らかにお願いします(震え声
「最初のドライアドには度肝を抜かれたけど、それ以降はツリーマン位しか出て来ない。案外平和だね?」
「もしかしたら最初のダンジョンだから? いえ、見つかっていないだけで他にダンジョンはあるかもしれないわね。そもそも森のフィールドランクがCなら、ここのダンジョンランクもC相当でおかしくない……もしかしてボスが相当強いとかかしら?」
「Cランクかあ……実際のところドライアドとツリーマンって何ランクなんだろう。ボスが極端に強いのか、道中のツリーマンも実はそこそこのランクで、ボスもそう大差ないのか」
視線の先に現れた巨大な扉を前に、僕ら三人は顔を見合わせた。
「この扉の先で答えが分かりそうね?」
「準備は大丈夫?」
「そうね……。あ、一応これを渡しておくわね、MPポーション」
「え、MPポーションって凄く高いんじゃなかったっけ?」
そもそも、魔法を使わないヴィオラが何故持っているのだろうか。
「そうなんだけど、この間ポーションを納品しにお店に行ったときにね。何でも納品期日ギリギリにキャンセルされたんですって。でもキャンセル料を取れる相手じゃないとかなんとか……とにかく、期限が切れる前に材料費だけでも回収したいからって原価ぎりぎりの値段で売ってくれたの。どうせ私には使えないものだから、蓮華くんにあげようと思って」
「いやいや、さすがにそんな高価なもの貰えないよ、いくら?」
「駄目、お金は貰えないわ。イベント前から色々迷惑かけたから、迷惑料だと思って受け取って頂戴」
「でも……」
「それじゃあ、もしこの先のボスが凄く強くて魔法を使わない限りどうにもならなかったときにでも、私を助けると思って使って?」
それでも結局僕が貰うことに変わりはないんだけど。まあ確かに魔法が使えないヴィオラには無用の長物だろう。それなら僕が、ヴィオラを死なせない為に使った方が有意義、かな?
「分かった。それじゃあ預かっておくよ。ヴィオラがピンチになったら使う。それでおーけー?」
僕の言葉にヴィオラは笑顔で頷いた。滅多に笑わない彼女の笑顔が見れたし、良いんだけどね。どうもヴィオラに何かをお願いされると、断れない節があるんだよなあ。この先が不安。しっかりしろ、僕。
「それじゃあ、開けるわよ」
僕とアインが荷物を下ろしたのを確認し、ヴィオラが言った。僕は頷き、ヴィオラと共に扉に触れた。重厚な扉なので、かなりの力が必要なのかと思っていたけれど、予想に反して軽く触れただけで自動で開き始めた。
「凄い腐臭だ」
「まさかアンデッド……ではないわね。『食人木ヤテカル』って表記が見えるわ」
「食人……つまりこれは人の肉片が腐った匂いか」
「食事位綺麗にして欲しいわね、全く」
そう言うことではないとは思うのだが、まあ食べ残しのせいでひどい匂いなのだからそれであってるのか? うん?
「木ってことはやっぱり燃やすのが手っ取り早いのかなあ。近付いたら食べられそうだし」
「それじゃ、私の矢をエンチャントして発火させる? 内側から燃やせるならそれに越したことはないわよね」
ヴィオラの案に乗っかることにし、ヴィオラが差し出した四本の矢に手早くエンチャントを施した。アインはやる気満々のようだけど……炎上に巻き込まれたら困るので、ひとまず待機を指示。やめて、そんな悲しそうな表情でこっちを見つめないで!
ヴィオラの矢が命中したのを確認し、僕は着火をイメージして魔法を発動。ボスのサイズが大きすぎるので、前回のアンデッド戦よりもかなり強めの火をイメージしてみた。これの難点は火が消えるまでは熱くて僕らも近寄れないところだよね……。追撃するにしても、燃え盛る木に矢を放っても、命中する前に燃え尽きちゃうしなあ。
「ねえ、今更なんだけど僕モンスターのHPバーって見えないんだよね。今の攻撃でどれ位削れてるの?」
「うん、まあ……まだ燃え続けているしじわじわ減ってはいるけれど、五%ってところかしら」
「なるほどなあ、長期戦になりそう。今更だけど、これ絶対三人で来るべきところじゃないね」
「ま、まあこの戦法だとアインが参加出来ないから実質二人として。このHP総量からして、もっと大人数を想定している気がするわね」
「で、どうする? そろそろ火が消えそうだけど……僕とアインで突撃するか、このまま遠距離作戦を続けるか」
「選ばせてくれるつもりはなさそうだけどね?」
確かにヴィオラの言うとおり、突然燃やされたヤテカルはお怒りモードみたい。最初は黒かった目が真っ赤になってるし、火がついたままこっちに向かってきてる。木という事もあって移動速度はそれなりに遅いけれど、サイズがサイズだけに結構な速度で距離を詰めてきている。
「走って距離を保ちながら魔法でも良いけど……ひとまず接近戦でどれだけのダメージが出るのか試してみようか、アイン?」
待ってました!と言わんばかりに盾と槍を構えるアイン。「怪我しそうになったらちゃんと逃げるんだよ?」なんて言ってみたり、息子を初陣に送る父親の気分かもしれない。
こちらに向かってくるヤテカルをヴィオラから引き離す為、僕達は右回りで反対側へと回る。アインは自分の役割をしっかり理解しているらしく、槍の石突で盾をガンガン叩き、ヤテカルへと猛アピール。おお、凄い。スキルのないゲームでどうやって敵の注目を集めるのかと思っていたけれど、こうするのか。戦い慣れているなあ。
「っ! 危ない!」
視線はともかく、ヤテカルの身体はまだこちらを向ききっていない状態だった。単純に動きが鈍いだけだと油断していたけれど、ヤテカルにとって姿勢はさして問題ではなかったらしい。横を向いたまま、こちら側に生えていた枝を、猛烈な勢いでアインに向かって叩きつけてきたのである。
――ガンッ!
凄まじい音を響かせながら、アインは盾を上に向かってかざし、どうやら攻撃を受けきった様子。足が地面に軽くめり込んではいるものの、骨が折れたりひびが入っている雰囲気はない。
「アイン! 盾が燃えてる!」
ヤテカルはまだ魔法の影響で燃えており、攻撃を受けた盾の一部が燃えている。完全な金属製ではないので、木材部分に火が移ってしまったようだ。
慌てて声をかける僕とは対照的に、アインは実に落ち着いた様子で盾の表面を地面へと擦り付けた。森の中という性質上、地面は土だらけ。擦ることによって、あっと言う間に消火してしまった。
「あ、うん……僕が口を出す必要はなさそうだね」
どうもアインは、生前の記憶こそないものの、戦闘能力に関してはそのまま引き継いでいる様子。悩むことなく盾と槍を選んだのだし、やっぱり戦闘慣れしてるんだよね。なんか勝手に保護者面してごめんよ。
「アインが引き付けてくれているんだし、僕も良いところ見せないと」
アインの方に集中しているとは言え、いつこちらを向くか分からない。これまで人型を相手に筋肉の動きから動作を読んでいた僕からしてみると、ヤテカルのような敵は動きが読みにくく、苦手な部類と言える。
とは言っても、いくらでもやりようはある。例えば、敵の動きが読めないのであれば、こちらの気配を察知されなければ良い。
明鏡止水のように心にさざ波を立てず、穏やかな境地でごくごく静かに回り込む。背面迄回ってしまえばヴィオラの元へと戻ってしまう為、二人の丁度中間程度で位置取りをした。
――金剛止水流抜刀術、構太刀
ぎりぎり迄接近し、抜刀の速度を活かした鋭い一閃。続けて反す刀で更に一閃。構太刀は二撃一対の技。ツリーマンとは比較にならないほど大きな音を立て、枝が複数落下した。
突然身を切られたヤテカルはと言えば、アインから視線を外し、こちらをぎろりと睨みつけてくる。さすがに騒音だけでアインを狙い続ける程、知能は低くはないようだ。
気付かれてしまった以上、同じ手は使えない。そもそも、腕が届く範囲の低い位置にある枝は、今の二撃であらかた切り落としてしまった。あとはもう、遠距離でいくか、ヤテカルが叩き付けてきた枝を片っ端から狙うよりないだろう。
ヤテカルがこちらを向いたタイミングで、アインは防御から攻撃に転じたらしい。槍を何度も差し込んでいる姿がこちらからも見えた。槍傷部分からは、樹液なのか、橙色の粘性の高い液体が滴っている。枝よりも本体を攻撃した方がHPは削れそうだな……。
「ヴィオラ、今のヤテカルのHPは?」
「今ので最大値の十%ね」
「ん、了解。何かあったときの為に、魔力は温存しておきたいし、ひとまずこのまま接近戦で行きたいな。なるべく僕らはこっち側で攻撃をするから、ヴィオラは後ろから矢で攻撃をお願い。あとごめん、余裕があったら僕のHPも見ておいて欲しい……自分じゃ肌感覚でしか分からないから」
「分かったわ。とりあえず、ヤテカルのHPが五%減る毎に報告する。気を付けてね、HPが一定数を割ると形態が変わったり、動きが変ったりする敵はざらだから」
ヴィオラの言葉に頷きながら、僕はヤテカルを観察する。残HP九十%では特に変化がないようだ。
どうやら僕がヴィオラと話しながらヤテカルの攻撃を受け流している最中、アインはずっと攻撃を続けてくれていたらしい。脇からちくりちくりと刺され続けるのはたまったものではないだろう。ヤテカルの敵愾心は再びアインへと戻っていた。
しばしヤテカルを観察してみたが、アインに全集中をしているらしく、こちらの動向は一切気にかけていない様子。アインはと言うと、器用にヤテカルの攻撃は捌いているけれど、反撃頻度は格段に落ちている。
盾役であればそれでも良いけれど、今回の場合はより深く突き刺さる分、槍の方がヤテカルに対しては有効な気がする。アインと僕と、二人でヤテカルの敵愾心を交互に向けられた方が、こちらのダメージも抑えられ、かつ、アインも攻撃に集中出来るタイミングが出来る。先程は様子見も兼ねて早さを追求した抜刀術を用いたけれど、次は攻めを重視した吽形の型でアインからこちらへ意識を向けさせるのが良いだろう。
――吽形弐の型、獅子奮迅
先程同様、止水の心境でぎりぎり迄気取らせないように近付いたところで、八相の構えからすっと振り下ろした。こちらに対して右半身を向けているヤテカルに対し、首筋から背中にかけて袈裟斬りを仕掛けた形である。もっとも、身長が高すぎて首と言うよりは腹から尻にかけて切ったようなものだけど。
人相手で、かつ相対していればこの袈裟斬りで一刀両断、まさに一撃必殺といったところだけれど、ヤテカル相手ではそうもいかない。すぐにでも枝を使って反撃を仕掛けてくるのは目に見えていたので、振り抜いた刀をすぐさま右から左へ水平に薙ぎ、脇構えの型へと戻った。脇構えは、攻撃にも防御にも転じやすく、相手の出方を窺うときに丁度良い。
予想通り、こちらを見ずに枝を頭上から振り下ろすヤテカル。図体こそでかいものの、知能は大してないのかもしれない。一歩後退り、枝が地面に叩き付けられるそのタイミングで、右脇に構えた太刀を、右斜め下から左斜め上へと逆袈裟斬りの要領で振り上げる。
すぱっと小気味良い感触と共に、また一つ、太い枝がヤテカルの身体から離れ、宙を舞う。
「五%削ったわ、残り八十五%よ」
ヴィオラは僕に声をかけながら、背後から矢を射掛けている。どうやらいつもの四本まとめての攻撃ではなく、限界まで弓を引き絞り、貫通力を高めた一本で本体を射抜いているらしい。よくよく見たら矢は木製ではなく、例の鉄製。おお、貫通させる気満々だなあ。
三人からの攻撃に、ヤテカルの身体からは止め処なく樹液があふれ出ている。ヤテカル、見るからに広葉樹の類いだよなあ。針葉樹であれば、樹液をベースに更によく燃えただろうに……、残念。