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37.さすが篠原さん

告知遅くなりましたが、明日の回は12時と20時の2回に分けます!

 日曜日は念の為にGoWにログインをしなかった。万が一まだ血液が体内に残っていて、NPCじゃなくなってしまったら面倒なことになってしまうと思って。


 今日は月曜日、篠原さんとの合流の日。と言うことは、GoWをプレイし始めてひと月が経ったと言うこと。篠原さんから合流の日程を聞いた当初こそ、「ひと月なんて絶対持て余すだろうなあ」なんて思っていた。にもかかわらず、今日の僕は「明日から東の森に行って来るので何日か留守にします」を伝えるつもりで居る。


 人生って何が起こるか本当に分からないんだなあ、なんて千年近く生きてて、まだ感じるとは思わなかった。


 待ち合わせ場所である王都の噴水広場には、既に篠原さんが待っていた。周りの雰囲気に溶け込まない、現代的な服装と、現実と全く大差ない外見。良かった、やっぱり僕だけ変にキャラメイクしてたら浮いてたよ、これ。


「先生、お久しぶりです」僕の姿に気付いた篠原さんが、にこやかに挨拶をしてくれた。


「うん、久しぶりだね」対して僕。とりあえず返答をしてみたものの……ちょっと待って、篠原さんに対してどういう感じで接してしていたのか思い出す時間が欲しい。若干キャラ作りしていたことがそもそも若気の(?)いたりではあるのだけれど、それを今更なかったことにするのは恥ずかしいので無理です。


 ここ最近、洋士やヴィオラやナナやガンライズさんに、なんでもかんでも聞いて頼って甘えてしまっていたので、こう、ちょっと精神年齢が若干退化している自覚があると言うか……あれ、本当にどういう感じで話していただろうか? 何も考えずに最近の話し方で接したら、篠原さんに何ごとかと心配されてしまう。なんならキャラ作りがばれて引かれてしまうかもしれない。それは避けたい。


 ああ、ヴィオラに「仕事の準備があるのではないか」と聞かれたときに、もっとよく考えれば良かった。作家モードへの切り替えと言う一番大事な準備を失念していたなんて……。


「このゲームの操作性には慣れましたか?」と篠原さん。うーん、操作性も何も、NPCから脱却出来ていないので最低限のことしか出来ていないんですよね、これが。


 あれ、今思ったけれどこれ、篠原さんからは僕はどういう風に見えているのだろう? プレイヤーアイコンがついていないことに対して疑問はないのかな? いや、そもそも篠原さんのアカウントは企業のアカウントで、ゲーム用ではない。どこまで同じように見えているのだろうか。


「ああ、うん。最初は全然ゲームをするつもりはなかったんだけどね。とりあえずここまで来なければならないし、と思ってやってみたらこれが面白くて。このひと月、随分と年甲斐もなくはしゃいでしまってね。篠原さんが言っていた通り、このままいくと家まで買ってしまうのではなかろうかと思っているよ」


 こ、こんな感じだっただろうか……? 「包容力のありそうな大人の作家」のイメージでお届けしております。


「私はプライベートではGoWを遊んでいませんので詳しくはないのですが……、袴をザ・西洋!といったこの国で再現している辺り、だいぶ楽しんでいただけているようで嬉しく思いました。少し残念だったのは、普段は見られない先生の洋服姿が見られなかったことですね……正直、ちょっと期待をしていたのですが」


「ちょっと前迄は洋服だったのだけれどね。やはり洋服は違和感が拭い去れないというか……イベントで手に入った報酬で、奮発して袴を揃えてしまったよ」


「イベントまで参加されたんですか? 意外ですね。正直、先生のことだからクエストなんてそっちのけで日向ぼっこやお食事を堪能しているかと思ったんですが」


「それも大正解だよ、さすが篠原さんだね」


 軽く世間話をしている間にも妖しげなゲートを潜り、あっと言う間にオフィス街へと到着してしまった。


 どうやらオフィス街へはどの国からもゲートで通じているらしい。最初に篠原さんが「どこの国でプレイしても良い」と言っていた理由はそこにあったようだ。


「ここがオフィス街……高層ビルなんかもたくさんあって、本当に現実とあまり変わらない風景なんだね」


「はい、現実世界での都心部へのオフィス集中や土地不足を改善する為に作られた環境ですから、やはり現実同様の外観で、仮想空間への移転の違和感を軽減する方針のようです。弊社のビル自体はもう少し先にありますが、基本的には先生にはこちらの建物で執筆を行っていただければと」


 そう言って篠原さんが立ち止まった建物は、アパートと言った雰囲気。そう言えば他の地方在住の作家さんにもGoW内でのやりとりを依頼していると言っていた。と言うことは、このアパート全体、もしくは何室かが出版社が契約をしている作家用執筆部屋ということだろうか。


「部屋は二階の二〇五号室です。先生のキャラクターにも入出権限をつけておくので、ご自由にお使いください。将来的に利用する方が増えた場合は考えますが、基本的には昼夜問わず占有していただいて問題ありません」


 階段を上りながら、篠原さんが説明する。確かに今後、ほとんどの作家さんがGoW内で執筆を開始するなんてことになれば、このアパートだけでは足りないだろう。そうなる前に僕も本格的に住むところを考えて探さないと駄目かもしれない。


「なるほど。ちなみにこれはただの興味本位だけど、あくまでも電子データだろう? こういった土地や建物に所有者が居たり、使用料が発生したりはするのかい?」


「基本的に現実と同様ですね。企業による買い取りも可能のようですが、こちらの土地と建物に関してはソーネ社が所有しており、賃料はソーネ社に払っています。日本円から交換して支払っておりますので、勿論全て経費となっています。あとはそうですね、政府が所有している土地と建物があるとの話も聞いたことがあります」


「買い取りに賃料……本当に現実世界と大差ないんだね。仮想的な空間にある、仮想的な土地と建物に現実の通貨が使われるってなんだか不思議な感覚だけれど……もうずっと前から仮想通貨なんてものも当たり前に存在しているし、何も不思議な事じゃないのか」


「私もその辺りは疎いので不思議な感覚はありますが、いよいよSFの世界が現実味を帯びてきた感じがしますよね」


 部屋の中はとても広い、と言うほどではないけれど、本棚がひとつと執務机がひとつ、それにソファとローテーブルが揃っていて十分すぎる環境。立ち話もなんなので、ソファへと対面で腰掛けてから話を再開した。


「勿論、今迄通りのペースで執筆いただいて問題ありません。それで、次回作についてですが、前回単巻で書いていただいたお話の反響が凄かったので、出来たらシリーズ化していただけないでしょうか。それから、弊社で出している文芸月刊誌への短編連載とエッセイもご検討いただければと思っております。勿論、他のお仕事との兼ね合いもあると思いますので無理にとは言えませんが……」


「既に出版されている前回って言うと……、確か妖怪ものだったかな? あれは完全に僕の趣味で書いてしまったから読者ウケはしないかと思ったのだけれど、反響が来たとはね……。勿論、博打を打って出版してくれた黎明社の為なら、喜んでシリーズ化するよ。月刊誌の方も勿論受けるよ。ただ、諸々の詳しい話は出来れば書面で出して欲しいかな。最近妙に忘れっぽくて駄目なんだ」


 有り体に言ってしまえば、他の仕事は今は受けていないのでスケジュールに余裕はある。単発でごくたまに依頼があった際に受けることはあるけれど、長く定期的に仕事を受けているのは篠原さんのところの黎明社だけだ。と言うのも、あまり接する人間が多いと、年を取らないことを誤魔化す為にフェードアウトする際の労力がその分増えてしまうから。それに、黎明社は今の僕の身分で作家デビューした出版社ということもあり、思い入れが強いというのもある。


「分かりました、では後ほど書面にて詳細はお送りいたします。毎月テーマが決まっているので、書きたいテーマのときだけ執筆する形でも構いません。ただ、書くか書かないかの判断だけはすぐにお願いいたします。また、作家さんの人数が集まらないテーマのときは、こちらからお願いすることも考えられます……」


 遠い目をしながら篠原さんは呟いた。どうやら過去に余程参加する作家が集まらなかったテーマがあるようだ。一体どんなテーマだというのだろう。僕も受けたくはない気がするけれど……。


「それから私の後任ですが、今日はちょっと連れてこられなかったので後日改めて挨拶させていただければと思うのですが、先生のご都合はいかがでしょうか?」


「うーん……実は明日からちょっとゲーム内で遠出する予定で……何日かはかかる予定だから、週明けになってしまうかもしれないけれど、大丈夫かい?」


「それは勿論です。あっ、忘れるところでした。こちらをお渡ししておきますね。簡易ポータルと言って、各地のセーフティエリアと呼ばれる場所からこの部屋に来られる道具です。ちなみに戻る際は使用した場所に戻るようですのでお気をつけください。この部屋の様子は外部からは分かりませんが、在否は弊社の方で確認が出来る仕様になっています。今度先生がこの部屋にいるときに後任を連れて、挨拶に伺いますね」


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【個スレ】名前も呼べないあの人【UIどこぉ】


 名前を呼びたくても呼べない、あの人に関する話題です。

 なんでNPCすら名前呼ばないの?怖いんだけど。

 ※運営側も確認してあげてください。何だかおかしいです。


874【闇の魔術を防衛する一般視聴者】

自分がトッププレイヤー層であることを知らずに居るトッププレイヤー……尊い


875【闇の魔術を防衛する一般視聴者】

あれでトッププレイヤーじゃなかったら俺等なんだよ、道端のみじんこか?って感じだよな。


876【闇の魔術を防衛する一般視聴者】

せめて道端の石ころにして?道端のみじんこは踏まれる未来しか見えなくて辛いんよ。


881【闇の魔術を防衛する一般視聴者】

>HPがゼロになった段階で問答無用で拠点に戻される。そこに気合でどうにかなる要素はない。

当たり前の事説明されてるのに「はっ!」って顔してんのね。


882【闇の魔術を防衛する一般視聴者】

そのあとそっか……(´・ω・`)みたいな顔してるの笑う

カメラワーク本人いじってないはずなのにちゃんと仕事してるのが面白いんだよなあ。

AI自動ってここまで優秀だったっけwww


883【闇の魔術を防衛する一般視聴者】

もうそれって現実での実戦経験豊富なこと前提じゃん。

いよいよ蓮華くんヤのつくお仕事説……

>>882 カメラワークは意外とAI自動が優秀。

だけどたまに仕事しない。判定は謎。森で目つぶってるとき顔映してくれなかったりな。

多分本人が動いてるときは手元とか視線の先、動きがないときは表情優先とか、そういう感じ?


884【闇の魔術を防衛する一般視聴者】

もはや数々の発言からちょっと運動神経あるだけ説は消滅したな。

かと言って剣道は……絶対違うよなあ。


885【闇の魔術を防衛する一般視聴者】

あの動きは絶対剣道のそれじゃないな。剣術の方がしっくりくる。どこで学べるのかは知らんが……。


886【闇の魔術を防衛する一般視聴者】

アンデッドでも八百比丘尼(やおびくに)でもなんでも良いけど、戦国時代生き抜いてきましたとか言われたほうが納得するわw


887【闇の魔術を防衛する一般視聴者】

戦国時代からのタイムトラベラー説。

俺はこれを押すぜ!!!不老不死より現実的だろ!

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2024年4月20日2巻発売!

吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

二巻表紙


1巻はこちら

― 新着の感想 ―
[一言] 運営資金稼ぐためのオフィス街はファンタジーじゃなくて現代風にしてありましたか、そして配信バグ大丈夫なのかね?
[良い点] 最近読み始めました。 吸血鬼やエルフが存在する世界線の日本。 しかもメインの舞台はゲームの中。 なろう作品が好きな読者層の好みが沢山詰まった設定で、ワクワクしながら読ませていただいてます…
[一言] 吸血鬼、タイムトラベラー認定される(笑)
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