31.要らぬ苦労をしているのでは?
世界観調査の回ということで、少し込み入った話になります。ご了承ください。
へー、そうなんだーくらいで良いと思います。
2022/11/16 中間→中立へ変更。
僕は今、ヴィオラとは別行動をとっていて、王都にある図書館に一人で居る。
一緒に調べ物をしても良いけれど、とりあえずは別々に行動した方がより色々な観点からの情報が手に入りそうだと判断した。ある程度調べたら合流して分かったことを共有する予定。
ちなみに防具については、あのあと鍛冶屋の店主さんに相談したのだけれど、動きやすくて防御力もそこそこ必要ならば、金属や革ではなくて布のが良いと言われた。
どうやらこの世界には、糸のように細くした金属を、魔力を使って織った布というものがあるらしい。金属が一緒に織り込まれているので、防御力も期待出来る。ただし全てを金属で織ってしまえば加工費用がとんでもなくかかってしまうので、大抵の人は金属割合を全体の二割としているらしく、防御力に関しては革や金属には劣るという。
金属の割合は依頼主次第なので、基本的には既製品の類いは出回っておらず、布の段階からオーダーメイドらしい。その代わり、最終的に仕立てる服装のデザインも自由に選べると言う。
ちなみに僕もひとまず金属二割でオーダーメイドしていて、今は仕立て上がるのを待っている段階。
デザインは袴。このゲームをプレイし始めてからずっと、洋服で戦うことに対する違和感が拭えなくて、なんとなく調子が出なかったんだよね。それが解消出来るのであればと一も二もなく飛びつきました。ちなみに袴は特殊なデザインと判断され、割増料金。お財布が一気に軽くなったのは言うまでもない……。
まあでも、それだけの価値があると思う。布の特性により軽さ、動きやすさは断トツ。基本的には、やられる前にやるの精神で生きてきた僕とはまさに相性抜群。頭装備に関しては予算が足りなかったので、余った布から鉢巻きを作って貰うようにお願いしておきました。
さてさて。
図書館に関しては、やっぱり王都にあるだけあって、広さが尋常じゃなかった。とてもじゃないけれど自分で目当ての場所には辿り着くのは無理!と早々に判断し、手っ取り早く受付の人に「この世界の起源」の類いが書かれた書籍の場所を教えて貰ったところ。
「『本当にわかる、世界のはじまり』。まずは軽く、この辺りから読むのが正解かな?」
近くの椅子に腰掛けて、ここまでの道すがら購入した筆記用具を机に出し、準備は万端。早速書籍の目次に目を通す。いくらファンタジーと言っても言語についてはしっかり日本語で書かれているので、読むこと自体に支障はない。
「世界は混沌より生まれ出でた……」
よくありそうな書き出しと共に、分かりやすく図が掲載されている。うっかり読み上げてしまったけれど、図書館で音読はご法度なんだった。
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混沌は、自分の一部が分裂し自分の元を去ったことに気付き、嘆き悲しんだ。百年泣き続けた混沌を見兼ねた中立と秩序は、再び混沌と共に歩むこととした。けれど、一度分かれたものが再び一つになることはない。
故に、この世界は混沌、中立、秩序の三つから成り立っている。また、中立が最も大きく、混沌の特徴も引き継いだ。
しばらく後、中立に生物が生まれ始めた。混沌、中立、秩序はそれぞれ興味深くその生物を見守り、ときおり介入した。
秩序は彼らに規律を与えた。混沌は彼らに自由を与えた。中立は彼らに感情を与えた。
なかでも中立は、彼らがときどき見せる非論理的な行動を面白いと感じ、ますます興味深く見守った。けれども、生物には終わり――寿命――が来る。中立は、いずれ生物が寿命によりこの世から一人残らず消えることを恐れた。
そこで中立は、彼らが再び中立に生まれ出ずるまでの魂の休息所として、自身の身体から地獄と天国を作り出し、輪廻転生の仕組みを作りあげた。
自身の身体を削った中立は途端に力の大半を失った。けれども、中立は愛すべき彼らの為に、なおも手を貸そうとした。
そこで混沌と秩序が中立の代わりに世界を整えた。混沌と秩序は力を合わせて自身の身体から、四季を作り上げた。
四季が毎年決まって巡るのは秩序の影響であり、反対に季節の到来が遅れたり、同じ季節でも毎年温暖差があるのは、混沌の影響によるものである。
混沌も秩序も中立も、すっかり弱ってしまった為、自分たちに代わり彼らを見守る者を何人か生み出し、役目を授けた。それが今の神々である。
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うーん。世界の始まりについてはさておき、神々に関しては各国見解がありそうだからなあ。あとでそっち方向についても調べないと……。
日本人的な感覚からいくと国によって神が違うって、宗教的概念が強くて本当に”存在している”イメージがないんだけれども、ここはファンタジー世界だから本当に神様は”居る”という解釈で良いのだろうか?
もし本当に存在していて、かつ神が各国で違うのなら、この国はこの神が担当する、的な感じで……神の間で仕事みたいに割り振られているのだろうか。
大前提として、混沌、中立、秩序については各国共通の概念なのかな?
とにかく、この世界はちょっと特殊だってことは分かった。ふつうは地上……今居る場所のほかに、言い方はいろいろあるけれど、とにかく死後の世界として天国と地獄が存在してる位だけど、ここではその他に、混沌と秩序がある、と。
天国と地獄は中立にあって、混沌と秩序はあくまでその外側、ってところがことをややこしくしてる感じかな?
まあどちらにせよ、力の大半を失っているのであれば、あまり直接的に干渉はしてこないのだろうけれど。
とりあえずざっくりとは世界と神の立ち位置について理解が出来たけれど、肝心の各国の神についての書籍はどうやらここにはない模様。ここに来る途中の書架でテイマーについての書籍を見つけた為、神については保留とし、先に読むことに。
「『古代から続く神秘、テイム』か。契約について書いてあるかもしれないし、とりあえずこれを読んでみようかな」
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はじめに……テイマーは比較的口伝により受け継がれ、テイミング契約の成功に関しても契約対象との意思の疎通によるところが大きい為、文献としてまとまっている情報は少ない。本書は、改めて古代から伝わる希少な資料を元にテイマーについてをまとめるものである。
テイマーとは、動物や魔獣といった生物とテイミング契約を行う人のことである。
テイミング契約とは、衣食住を保証する代わりに依頼を行ってもらう、一種の相互協力関係である。
ゆえに一方的に契約を行うことは出来ず、必ず双方の同意をもって契約が成立する。
契約の方法については、古今東西いろいろな方法が用いられてきたが、近年ではお互いの血液を交換し、お互いの名前に契約を結びつける方法を用いる。なお、動物や魔獣側に名前がない場合は、テイマーが名付けることで契約を成立させる。
基本的には双方の同意をもって契約を行う為、実力行使を持って相対した相手との契約は難しい。そういった点から、気性の荒い種族とのテイミング契約実例は多くはない。
なお、契約の成立判断については、各国の契約の神が関係しているとの説もあるが定かではない。「秩序」の影響で、ルールに則った契約は自動で成立するとの見方もある。
テイミング出来る契約数についてはテイマーの技量による。新人テイマーは素質の有無に関係なく、契約数は一体に限られる。なお、実力の向上につれて、契約数は多くなる。最大契約数に関しては今現在も不明である。
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契約については謎のままだけど、契約数について分かったのはありがたいな。現状はアインと契約しているからしばらくは他の子との契約は出来ない、と。実力の向上って言うのは熟練度が目安かな? そもそもテイマーの熟練度ってどうすれば上がるんだろう。アインを連れて依頼を受けてれば勝手に上がるものなのかなあ……。
とりあえず、契約方法について、今の主流はアリオナさんの言う通りだったけれど、他にもいろんな方法があるらしいし、ひとまず僕とアインの契約については深く考えなくても大丈夫そう?
「あと調べたいことは、と。保留していた各国の神々についてかな」
再び受付の人に尋ねた結果、教えられた場所には海外全般の情報がまとまっていた。なるほど、ジャンルではなくて国別で管理している模様。
とりあえず今はざっくり分かれば良いので、各国別の書架ではなく、海外全般の書架から『世界の神々』をチョイス。
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世界各国に様々な神が存在している。その中でも、四強と呼ばれる国では、周辺国家でも同様の神を奉るほど影響力が強い。※四強とは、シヴェフ王国・アルディ公国・レガート帝国・カラヌイ帝国を指す。
その他一部の国では、神の存在は宗教的観点からの創作との解釈がなされているが、四強の国では神の存在の確認、影響が観測されており、顕現頻度こそ少ないが、確実に存在しているとの解釈がなされている。
シヴェフ国は国教としてシヴェラ教を指定しており、女神シヴェラが絶対的な力によって全ての民を見守っているとの考えを持つ。典型的な絶対的一神教である。
アルディ公国はイルミュ王国の公爵であるエーリヒ・フォン・アルディが、イルミュ王の命により建国した為、イルミュ王国の国教であるイルモナ教を支持する者が多い。アルディ公国内で指定された国教は存在せず、宗教観は比較的自由な国である。なお、四強としてイルミュ王国ではなくアルディ公国が数えられるのは、近年イルミュ王国が衰退の一途を辿っており、実質権力はアルディ公国が持っている為。
レガート帝国は数々の小国を征服してきた背景から、国教であるレガート教を唯一無二の宗教として指定。吸収合併した小国の神の存在自体は認めているものの、信徒の数が神の力に影響するとの考えから、国教以外の信仰は禁止している。シヴェフ王国とは違った意味での絶対的一神教である。
カラヌイ帝国も同様に小国を征服してきた背景を持つが、基本的に全ての神の存在を認め、八百万の神を信仰する多神教である。なお、更に独自の価値観を持ち、古い道具には命が宿るとの考えや、怨霊を神として祀るなど、一風変わった風習も存在する。
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カラヌイはほぼ日本と価値観が一緒と判断しても良さそうな雰囲気かな。
本当に今更だけれど、刀といい世界観といい、もしやカラヌイ帝国から始めた方が要らない苦労をする必要がなかったのでは……? あ、でもカラヌイから始めたらヴィオラやナナ、ガンライズさんと会えなかったのか。
それはさておき、シヴェフの教会の腐敗が目につくのは、どうも絶対的一神教だという点も関係がありそう。主神として女神シヴェラが君臨するのではなく、全知全能の神として唯一無二の神と考えられている辺り、教会の影響力はかなり大きいと思われる。
うん、メモもとったし、知りたいことはざっくりと理解は出来たので、今日はここまでにしよう。
ゲーム内時間が午前になったこともあり、僕はそのまま師匠の元へ行くことに。それにしても、店舗といい、ギルドといい、図書館といい、年中無休で営業しているって凄いなあ。日本もこうだったら僕も気軽に出掛けられるのだけれど……。ああ、交通機関が止まっているのか。僕の性格上、タクシーは高いからやっぱり出歩かなそうだなあ。