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29.本当に神様が居るとして

実験的に台詞の中の空行を詰めました。どちらが読みやすいか感想いただければと思います。


2022/11/09 長すぎる台詞を途中で区切りました。その影響で心理描写が若干増えましたが、内容に影響はありません。

「えっと、久し振り……って言っても二日位?」


「え、ええ、そうね……。貴方イベントのあとずっとログアウトしたままだったものね」


 なんだろう、やっぱりちょっとヴィオラの様子がぎこちない気がする。僕が気付かないうちに何かやらかしたのかなあ……。


「あ、うん。ちょっと一時的に引っ越してて」


「え、引っ越し? むしろもうログインしてて良いのかしら?」


「えっと、うん。コクーンがちょっと特殊な壊れ方をしてて、修理するのにソーネ社の人と会う必要があったから、一時的に東京に住んでる知人の家に居候してる感じ。家の中全部荷造りして完全引っ越し!って感じではないから、全然大ごとじゃないんだ」


「ああ、そうなのね……。前から思っていたのだけれど、そこまで大変ならどうして新品のコクーンと交換ってことにならないのかしら……?」


 しまった、気まずさを払拭する為にちょっとぼかして本当のことを言った結果、やぶ蛇をしてしまった……。これはまずい、本当は修理じゃなくて改造ですなんて言えないし……。


 沈黙は不自然! でも普段から紙とインクで構築された、長考ありきの世界に生きているせいですぐには良い答えが出て来ない!


「ん、人気すぎてコクーンの在庫がないとか……? どうだろう、気にしたことがなかったから全然分からないなあ……ははは」


 早川さん、小林さん、本当にすみません、何も思い付かなかった結果、ソーネ社に丸投げしてしまいました……。


「ふーん……まあ確かにGoWはゲームとしても、第二の生活空間としても人気だし……そもそもソーネ社が出しているVR機器自体は他社製のゲームとも互換性がある分、新型機種に乗り換える人もざらよね。品薄かあ、みんなこんな高い買い物をぽんって出来るなんて金持ちなのねえ……」


「ヴィオラだってこのゲームしてるじゃないか」


「私はコクーンじゃなくてヘッドギアの方よ。さすがに百万は手なんか出せないわ……。ヘッドギアの五十万だって、清水の舞台から飛び降りる心境でどうにか捻出したのよ。多分、動作保証されてない他社製のギアでプレイしてる人もたくさん居る筈」


「そっかー、そう考えると仕事で使うからって無償貸与されてる僕は幸せ者だなあ」


「無償貸与……貴方のじゃないのね。じゃあ新品と交換出来ないのはそっちが理由かしら? 会社側の管理している機器を違うものに交換するのって、手続きがややこしくなりそうよね。勝手なイメージだけれども」


 ああ、なるほどそっちの方向で言い訳しておけば良かったのか。社会人経験がないから全然思い付きもしなかった。でもヴィオラが勝手に解釈して納得してくれたので、セーフ。


「ところで、さっきから気になっているんだけれど、貴方の後ろに居るそのスケルトン……武器代わりにしてたあの子かしら?」


 おっと、ヴィオラと話すのについ夢中でアインを紹介するのを忘れていた。ごめんね、アイン。ああ、次から気を付けるからそんな哀しげな表情で見つめてくるのはやめておくれ……。


「えっと、ヴィオラ、こちらアイン。アイン、こちらヴィオラ。えーと、ご存じの通りアインは僕がずっと右腕を借りていた骸骨さんで……」


「テイミング契約してたのね」


「あ、うん。森で生け捕りにしたときに何かの拍子でそうなってたみたい。この間のイベントで昇天しなかったのもそれが要因だろうって、テイマーの人にギルドで言われた」


「私の記憶が正しければ、テイミング契約には血と血を交わす必要があった筈だけれど?」


「うーん、そこはテイマーの人も分からないって。実は僕、森でアインと出会ったときに眼窩に指突っ込んで頭を吹き飛ばしたんだよね。で、そのときに指でも怪我してたのかなあ、とか思ってる。アインの方に血はないから、なんで契約が成立した理由は分からないけれど……」


「じゃあ血と血じゃなくても成立する可能性があるってこと? だとしても契約には双方の合意が必要よね? ……アインくんも同意していたから契約出来たのかしら? 同意がなくても契約が出来るとなると、無理やりテイミングする人が出て来そうで怖いわよね」


「た、確かに……。ねえアイン。契約したときのことって覚えてる? いつどこでしたとか、ちゃんと同意の上だったのかとか」


 僕の言葉に少し首を傾げ……こくん、と一度頷くアイン。えっ!? 覚えてるの!? さ、最初からアインに直接聞けば良かったのか……。


「あ、細かい話は紙と筆記用具が必要だよね。えーとちょっと待ってね、ジョンさんに借りてくるから」


「紙も筆記用具も私が持ってるわよ。はいこれを使って。そうか、元々は人間だから筆談出来るのねえ……」とヴィオラ。


 貰った筆記用具でアインが器用に……とはいかず、みみずが這ったような文字で色々と書いている。そうか、肉がなくなったからペンが持ちにくいんだね。うーん、筆記用具を太くしてみるとか? 今度色々試してみよう。


「なになに、えっと? ”僕の目玉に指を突っ込んだときに契約が成立しました”……ああ、あのときはごめん。”僕はあのとき、とにかく殺さないでと祈っていました。命さえ助けてくれたら何でもしますって。そしたらご主人様が、『王都に情報だけでも持ち帰れるように、協力お願いしますよ骸骨さん』と言ったので、契約が成立しました”?」


 なるほど、双方の合意というのは口に出さなくても思っただけで成立するのか。僕の感心をよそに、続いてアインが衝撃の事実を書き連ねた。


「”頭が弾けたのはご主人様が僕に命令をしたからです”……うわあああ本当にごめんよアイン! 頭がない状態でずっと辛かったよね!?」


 そう言えば「なんか良い感じに弾けろ」とかなんとか言った記憶が……。完全に僕のせいじゃないか!


「つまり、蓮華くんが協力お願いしますと言った言葉と、命さえ助けてくれたら何でもするって言うアインくんの望みが一致したからってこと? こう言ってはなんだけれど、これで契約が成立するってどうなの? がばがば過ぎない? そもそもこの成立・不成立って誰が判断してるのかしら? やっぱり神様的な……?」


「んー……本当に神様が居るとして。アンデッドってどう言う存在なんだろう? ほら、現実世界の世界各国の神様にもさ、地上の神様と、冥府の神様って分かれているよね? もしもこの世界にも冥府の神様が居るとして、天界に行けずに苦しんだ挙げ句にアンデッドとして復活するって、神様的にどうなんだろう? テイミング契約の成立・不成立に関して神様が判断しているなら、僕とアインの契約って成立しちゃって良いの? アインを冥府に連れて行ったりしないの?って思ったんだけれど……」


「そうね。確かに。……契約にも色々あって、双方の合意だけで第三者の仲介がなくても良いものもあるじゃない? テイミング契約についてもそうかもしれないし一度この世界の神様やテイミングについてもっと深く学んでみたいわね」


「うん。アインのことがなくてもずっと気になってたし、この機会に調べてみようかな。ほら、このゲームのタイトルがGod of Worldでしょ? 世界の神って意味だから、物語の主軸は神様な気がしてて。しかも、GodsじゃなくてGodだから、主神が居るのかなあ、とか。まあ、僕はクエストが受けられてないから知らないだけで、もしかしたら神様についてメインストーリーとかで何か語られているのかも知れないけれど」


「私はここまで一通りクエストを受けてきたけれど、特に神様に触れることはなかったわね……と言うより、私たちプレイヤーは記憶喪失で、自分のことどころかこの世界のことも全然分からないって言う設定から始まったの。メインストーリーと言っても当然の如く生きる為には金が必要だから稼ぎましょう、的なお使いクエストで、記憶に繋がる話も今の所全然出てないのよね。冒険者ギルドに入ったのもそう言う理由だし。まあゲームの世界のことを知らないのも当然だから、矛盾が出ない様にそう言う設定にしたのかしら、って今の今迄流していたけれど、その辺りも実は関係しているのかしら」


「王都クエストの発生背景もしっかり存在していたし、単純に都合が良くて記憶喪失にしたって言うのはちょっと不自然だよね。何となく今後のクエストは記憶に関係しそうな気がするけれど。ゲームタイトルに引っ掛けるなら実はプレイヤーが神様でしたーとか? まあそれはさすがにないかな……」


 気付けばヴィオラと普通に話せていて、僕は安堵した。このまま世間話で終わらせたいところだけれど、元々の約束だしパーティの今後については話さないといけないよなあ。


「ところでヴィオラ、パーティの件なんだけど……「あ、う、うん! そうよね、約束は王都クエスト迄だったし当然解散よね」その……パーティ継続って出来るかな?」


「えっ!?……ええ!?」


「え、なんでそんなに驚いてるの? や、やっぱり嫌だった?」


「いや、そうじゃなくて……なんで? だって私が提示した当初の条件だって、私ばっかりメリットがあって、蓮華くんにとっては全然良い条件じゃなかったのに……」


 うん? ああ、ポーション使い放題を提示したのに僕が全然使わなかったことを気に病んでいるのかな。


「最初にパーティを組みたいって話してたとき、ヴィオラは色々と理由をこねくり回してたけど、実はあれって噓でしょ? いや、全部が全部噓だとは思わない。面白そうだからって言うのはある意味的を射ていたと思うし。でも、少なくとも君の弓の実力があれば前衛がすぐさま必要とは思えなかった」


 僕は一呼吸置いてから、続きを口にした。


「じゃあなんでわざわざ僕にそんな話を持ちかけたのかな?って考えたら、魔術師プレイヤーが僕だけだったからかなって。組んだ当日からゲームのシステムについて色々教えてくれたし、ああ、きっとヴィオラは俗に言うトッププレイヤーって言う人なんだろうなって薄々思ってたよ。で、色々と説明を聞いているうちに、王都クエストは本来こんな形で発生する筈じゃなかったんだろうなってことが僕にもはっきりと理解が出来た」


 多分、本来は冒険者ギルドからの依頼が達成出来ないとか、そういう方向から徐々に調査が入ったのかもしれないなって僕は考えていたり。


「僕が勝手に森に行ってアンデッドと遭遇して、アインを連れて帰ってきたから本来とは違う形で発生してしまった。そうなると、本来はもう少し余裕があった筈のイベントまでの期間がなくなってしまったので、どうしてもイベントで成果を出す為には情報と魔術師に対するコネが必要。違う? だから僕が師匠の元で魔法の修行をしているときに、エンチャントが出来ないか聞いたんだよね」


 僕がここまで話した段階で、ヴィオラはすっかり身を固くしていた。多分、下心を持って僕に近付いたと言う罪悪感をずっと持っていたのだろう。


「あのねヴィオラ。もしかしたら僕に対して罪悪感があるのかもしれないけれど。本当言うと、僕が勝手に行動して時期がずれたんだから、僕に対して文句を言うことも出来たと思うんだ。まあ、文句を言われたからって僕は自分が悪いことをしたとも思わないけれど。だってMMORPGってそう言うものなんでしょう? 誰もが自由に行動して、その結果が毎日色んなことに影響している。それなら、僕の行動だって別に責められるものではないと思う」


 まあ、勿論なんでもかんでも自分勝手に行動して、他人に対する配慮をしないのもどうかとは思うけれど。ただ、あの時点で僕は森にアンデッドが居て、それを発見することでイベントが前倒しになるなんてことは微塵も想像していなかった訳で。それを予測して森に行かないようにする、という選択をするのはエスパーでもない限り無理です。


「とは言え、トッププレイヤーの人から見たら腹が立つのも事実だと思う。でも君は僕に文句を言うこともなく、僕に責任を取れと迫ってパーティを組むのでもなく、ちゃんと交換条件として僕が怪我をしたときの為のポーションを提供すると言ってくれた。だからね、君の真意を探る為に王都クエスト迄、って期限を設けたのだけれど。今は君に下心があろうがなかろうが、僕は君の誠実な態度に好意を抱いたから、正式にパーティを継続したいと思っている」


 僕の正式な継続の意向に、ヴィオラは少し泣きそうな顔でこちらを黙ってみている。この際だから、感謝の気持ちも全て伝えてしまった方が彼女の罪悪感も薄れるだろうと判断し、僕は更に言葉を続けた。


「それにねえ、正直あのときヴィオラが突撃してきてくれなかったら、僕間違いなく王都クエストの仕組みも何も全然理解してなくて右往左往してる間に終わっただろうし、よしんばアンデッドの殲滅を出来ていたとしても、エンチャントなんて思い付きもしなかったから一人で貢献度稼ぎすぎて反感を買っていたよ。分隊員の人たちと仲良くなることが出来たのも、全部ヴィオラのお陰。むしろ僕の方が君から色んなものを受け取りすぎて、本当に良いのかなって思ってる位」


 ちょっと長くなってしまったけれど、これが僕の素直な気持ち。正直、誰しも下心は抱くと思う。僕だって勿論、こうなれば良いなあ、って思って行動するときはある。僕としては下心と悪意は違うと思っているから、ヴィオラが罪悪感を抱く必要なんて一切ないと思っている。


「正直貴方の近くに居れば予想外の情報が飛び出てくるんじゃないかって言う下心があって近付いた。あの……本当にごめんなさい。でも今は、純粋に貴方と一緒に居て楽しかったから、パーティを継続したいと思っている。だから、これからもよろしくおねがいします……!」


 ばっと手を出すヴィオラ。どうやら握手がしたいらしい。僕はそっと握り返して改めてよろしく、と呟いた。


「でもごめん、僕あと一週間もしないうちに仕事が再開するから、今迄のペースではゲームが出来なくなるんだ。それでも大丈夫……?」


「それは勿論。と言うより今迄のペースがおかしかったのよ。貴方、自覚はないかもしれないけれど、十分トッププレイヤーだからね。それもぶっちぎりの。少しはペースを落として貰わないと、私の方が追いつけないわよ……」


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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの、テイム後の自爆コード入力で頭吹っ飛んでたのか…
[良い点] 蓮華さん、長生きしてるせいで諭すの上手いな。 彼からすれば地上の殆どは子供だろうから、そういう意味では落ち着いて話せるのかもな。 [一言] レイアウトは今のほうがずっと読みやすいです。 た…
[一言] 今のレイアウトのほうが私は読みやすいです。 文字を読み慣れてない人に長文台詞は苦手かもしれません。首を傾げる等の仕草描写で仕切りを入れてみてはどうでしょうか。
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