26.何が必要なんだろう
洋士は僕がいつもかける十分の一位の時間でお目当ての情報を引き出してくれました。これが時代の流れに乗っている人物との違いか……。
「えーと、テイマーはプレイヤーにも結構居るらしい。まあアンデッドテイムしてる人は見かけないが……、大半は犬や猫。それから馬だそうだ。馬はテイムすれば楽に乗れるが、そうじゃない人は乗馬の熟練度を上げないと振り落とされるらしいな。
で? 一番知りたかったログアウト時の情報は……と。ああ、これだな。
ログアウト中は契約者のログアウト地点で待機している扱いらしいが、実際には他のプレイヤーやNPCからは見えないらしい。ま、誘拐防止のご都合システムってところじゃないか。
ただし、ログアウト中にも食事・エネルギーなどは平常時同様にインベントリもしくは倉庫より消費される。必要なアイテムがなくなったタイミングから現実時間三日経過で契約が解除扱いとなる」
「必要なアイテム……? あれ、うちのアインって何が必要なんだろう……今迄何かをアインに渡したことないんだけど」
「スケルトンだっけか? 普通に考えたらアンデッドは既に死んでるんだから何も必要じゃなさそうだが……どうだろうな。
まあ、お前のログイン時間的に放置で契約解除、にはならないだろうが。早めに調べておいた方が良いと思うぞ。アンデッドのテイマーは前例がないようだから本人にでも聞け」
「ん、分かった、そうする」
「そう言えばお前、髪切らないのか? 血液摂取し始めて伸びるのが早くなってるだろう? 腰まであったら不便じゃないのか。まあそれはそれで作家みたいで悪かないが」
「そりゃ切りたいですよ。切りたいけど、自分で切ったら変になるし、美容院の営業時間中だとまだ外を出歩けないからさ」
僕の言葉に、洋士がぽかーんとした表情を浮かべている。あれ、僕また変なこと言った?
「お前は重度の日光アレルギーの診断出てるんだから、訪問美容師頼めるんじゃないのか?」
「えっ!? あれって僕も当て嵌まるの!?」
「いや、知らないが……病気もしくはその他の理由により美容院に訪問出来ない……十分当て嵌まると思ったが。今迄はどうしてたんだ?」
「自分で切ってた。ガタガタになるんだけど、日数経てば違和感なくなるし。もしくは天気が凄く悪い日に村の理容室で切ってもらう感じ。でもあんまり村に降りると顔覚えられちゃうからそっちは最終手段。引っ越すのは面倒だしね」
自分で切っている、と言う言葉に哀れみの表情を浮かべる洋士。本当はバリカンを使えば楽そうだなって思ったんだけれど、使いこなせる自信がなくてやめたんだよね。
「はあ……。んじゃ今切っとけ。理容師と言わず美容師を呼んでパーマかけても良いぞ。匂いは気にしなくて良い」
「んー……ずっとパーマは憧れだったけど、今はGoW内でパーマヘア選んだし良いかなあ。現実でパーマにしちゃうと、メンテナンスが大変そう。ここに居る間しか美容師さん呼べないからあとから困るし。
でも美容師さんには興味あるなあ。理容師さんとどう違うのかも体験してみたいし。カットだけでも美容師さん呼んで良い?」
「好きにしろ。なんなら日光アレルギーで呼べないなら和泉経由でどうにかして貰えば良い」
「いや、内閣官房副長官をそんな理由に巻き込まないであげてよ……あと呼び捨てにしないの! 実年齢はともかくお世話になってる人には敬意を払わなくちゃ」
あ、でもこの場合お世話になってるのは僕だけだから良いのか……? いや、でも普段から呼び捨てにしてたら要らぬ反感を周りから買うよね、うん。
「どうせ予約するだけでももたつくだろうから、こっちで勝手に予約しておくぞ。多分すぐ来ると思うからGoWには戻るなよ」
「ん、分かった。とりあえず僕は血液摂取してくるよ……少しでも多く飲めるように練習しておかないと」
§-§-§
「凄いよ洋士、今はやりのモテそうな髪型! ね、ね、似合う!?」
「はいはい、似合ってる似合ってる」
「ちょっと! せめてこっち見てから言ってくれない!? おざなりどころの騒ぎじゃないよ」
「ほら、美容師さんに引かれてるぞ。落ち着けって」
洋士の言葉に僕は我に返った。確かにちょっとはしゃぎすぎちゃったかも……、片付けもすっかり済んでいる美容師さんがにこにこ笑顔でこちらを見ている。わあ、早く金払って帰らせろよって顔に見えてきたよ。
「……すみません、はしゃいでしまって。あ、こちらが代金です」
「いえいえ、喜んで頂けて何よりです。はい、確かにちょうだいしました。では、またのご利用をお待ちしております」
そう言って美容師さんは帰っていった。うう、せっかく綺麗にして貰ったのに、恥ずかしくてもう同じ人を指名出来ない……!
さて、どうしようか。人の家に居ると、ぶっ通しでGoWをプレイするのもなんとなく気が引けるし、かと言って掃除をしようにもお手伝いさん?みたいな人が来て全部やってるし、持って来た本もあっと言う間に読み終わってしまったし。とにかく手持ち無沙汰。
一緒に住んでいた頃は微塵も気にならなかったのに、今更そう感じるのは、やっぱり離れて暮らしてる間に他人の家って感じになったからなんだろうなあ。昔は何をして過ごしていただろうか?
なんてことをぼーっと考えていると、洋士から話しかけてきた。
「そう言えば昔、他の種族を探す旅に出たよな? あのとき本当に一人も見つからなかったのか? エルフも?」
「え、うん。全く見つからなかった。存在自体は確実にしてると思うんだけれど……聞き込みして回ってたから、僕が吸血鬼だって気付かれて避けられてるって可能性も否定は出来ないし。
でもどうしたの、急に? あのときは全然興味なさそうだったのに」
「いや、別に。ちょっと気になっただけだ。本当にエルフが存在しているとしたら、噂通り魔法が使えるのかとか、弓の名手なのか、とかな。
良くあるだろ? 噂だけが一人歩きしているパターンが。案外魔法だと思われていたものは高度に発達した科学か、或いは子供騙しのマジックだったりとかな」
「ああ、高度に発達した科学は魔法と遜色ないって昔から言うもんね、うんうん……。
あ、実はエルフは科学的に強い種族だって設定で物語を作るのも面白いかもしれないね。科学者集団のトップが実はエルフで~とか」
「……お前はお気楽で良いな」
「えっそれどういう意味? 今絶対馬鹿にしたよね!?」
「さあな。そんなことより、変に気使わないで自由に行動しろって言ったよな? 図書館行くなりGoWに戻るなり好きにしろよ。そんなにじーっと見られたら顔に穴が開いちまう」
「う、うん。なんだ、ばれてたのかあ。じゃあお言葉に甘えてGoWに戻るよ……また六時間後にね」
うーん、鳶が鷹を生むってこういうことを言うのかなあ。僕が産んだ訳じゃないけれど。察しが良すぎて本当に僕が育てたのか疑いたくなっちゃうよ。
§-§-§
蓮華に与えた部屋からコクーン音が聞こえた少しあと。俺はひそかに溜息をついた。
「いや、どう考えてもあの女エルフだろ……あの弓は人間業じゃない。なんでそんなことにもあいつは気付かないんだ? 今もヒントを与えてやったつもりが微塵も気付きもしないし。何が「物語を作るのも面白いかもしれないね」、だ。脳味噌お花畑か?
それよりも、あの女はあいつの正体を知ってて近付いてきてるとしか思えないが……考えすぎか? 全く、本当にエルフと会っていないのか、本人が気付いていないだけか疑わしいもんだな」
はあ、心配せずには居られない父親だよ全く。まあ、最近は少し生気を取り戻してきている分マシか……。
少し前迄は本当にただ動いてるだけって感じだったからな。あれだけ長く生きりゃそうなるのかもしれないが。ソーネ社には感謝の印に投資でもしてやるかな。