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253.緋色の宝石

 限定称号入手に賭けてレッドコアへ向かうメンバーをクランチャットで募った結果、奇跡的に全員が集まった。


 そして今。スーツ越しでも分かる熱気の中、僕達は現地で言葉を失っていた。


「これはまた……」


 僕の呟きを引き継ぐように、ヴィオラが溜息をつきながら頷いた。


「どれが本物の入り口か全く分からないわね」


「なるほど。この中の一つがダミーで、ダンジョンの入り口になっている、と……」


 途方に暮れたような表情で呟いたのはマッキーさん。こう言うときに一番頼りになりそうな彼ですらこの表情。その原因は、僕達の目の前にある大きな山、そのそのあちこちから滝のように流れているマグマだった。いつぞや、ナナの卒業試験の為に向かった西のダンジョンと同様、プロジェクションマッピング?のような古代技術でダンジョンの入り口は隠されているようだ。唯一違う点は、今回の対象がマグマの滝だというところ。本物に触れれば即リスポーン、もあり得るわけで。


「一つ一つ滝の中覗いてみるか? スーツがあるんだし大丈夫だろ」


 ガンライズさんの言葉にマッキーさんは難しい顔で唸った。


「それが一番手っ取り早いかもしれないね……。でもスーツの耐久度は未知数だし、現状それを直せる職人が居るのかという話になってくるから……」


「ごり押しは推奨されないという事ですね」


 しょんぼりと猫耳を垂れながら呟いたのはナナだった。


「まあ、フェイクと言うからには本物と違う違和感があるだろうし、まずはじっくり観察してみようか。……とはいえ、あんまり時間もかけられないだろうけど」


 マッキーさんの発言に皆頷いた。あまり時間をかけすぎれば、他のプレイヤー達に先を越されかねないのだ。


「そういうのなら得意なので頑張りますね!」


 胸を張って宣言したナナは獣人姿から完全な猫の姿に戻ると、素早くマグマの川を飛び越え数多ある滝のうちの一つへと近付いていった。


 それを契機に残りのメンバーも各々別の滝へと近付いていく。


 スーツのお陰か、マグマに近付いてもダメージを受ける事も、デバフを喰らう事もなく観察に集中する事が出来た。これなら多少の無茶は大丈夫かもと、後ろに広い空間がありそうな滝については意を決して中を覗き込んでみる事にした。恐る恐る一つ目の滝を潜ったところで経過観察。スーツに異常は見られなかった。


 ところがそれから十分ほど経った頃だろうか。視界中央に警告表示が現れた。


------------------------------


警告:環境適応スーツVer2

環境ストレス蓄積:25%

自己修復システム:異常なし

性能低下:なし


------------------------------


 それを読んだ僕は慌てて皆に聞こえるように声を張り上げた。


「スーツから環境ストレス蓄積二十五%って警告が出た!」


「私も出たわ。『自己修復システム』があるなら誰かに修理を頼む必要なさそうだけど……このシステムに異常が出た時が怖いわね。『性能低下』って項目も気になるし」


「それならやっぱりむやみに歩き回るより、他の作戦を考えるべきかな」


 そうマッキーさんが呟いた時だった。


「見つけた! まだ確認してないけど多分ここが正解!」


 ナナの叫びに「えっ!?」と驚きつつも、彼女の元へと駆け寄った。


 全員が揃ったのを確認したナナが前足で指し示した滝は、他の滝となにも違いがないように見えた。ところが彼女が前足を滝の中へと突っ込んだ瞬間、不自然な動きを見せた。映像が乱れている……とでも言えばいいのだろうか。そんな感じだ。


 その様子に「本当に見た目は大差ないんだな……俺じゃ一生気付けそうにない」とガンライズさんが溜息をついた。


 皆揃って滝の裏へ進む事暫し。視界に【告知:限定称号『終末の火の継承者』を獲得しました。装備効果及び設定はキャラクター画面より行うことが出来ます】の文字がポップアップした。念の為システムメニューから確認すると、しっかり『マグマフォージ研究所ダンジョンの発見者限定称号』と書かれている。


「やっ……、やったー!!!! それにしてもナナ、凄いよ! ……どうして分かったの!?」


「えへへ……記憶力には自信があるんです! よく見てみるとこの滝だけ他の滝と違って、およそ三十秒に一回、滝の流れがループしてました」


 獣人姿に戻りながら、ナナは照れたように説明し始めた。


 そんな彼女の様子にガンライズさんは「それは……記憶力の次元を超えてるんじゃないか……?」と呆然とした様子で呟いている。内心で僕もガンライズさんに同意した。もしかしたらその記憶力のせいで余計に夢の内容を忘れる事が出来ず、苦労してきたのかもしれないな、とも。


「あ、他にも違和感はあって。例えばこの滝の右奥にあった滝の中には、フレイムリザードが這ってたの。それにちょっと左に歩いたところではマグマスイマーが滝を登ってるのを見た。……でもこの滝だけは生物が来る様子がなくて」


「ああ、あくまで映像であって本物のマグマじゃないから……」


「うん。本能でそういうのがちゃんと分かってるんだろうね、きっと」


 ナナの考察に舌を巻いていると「折角だし、中に入れるか確かめてみますね」と彼女が言った。


 進めば進むほど、自然に出来たのであろうものから人工的に石を積んだ通路へと、周囲の様子が変わっていく。やがて目の前に漆黒の扉が現れた。扉の中央には、微かに赤く光る文様が刻まれている。


「……この文様が生体認証なのかな……?」


「……ちょっと試しに手の平をかざしてみます。あ、なにかあった時の為に、皆さんは離れていた方が……」


「いや……、気になるから見ていても良いかな。なにかあっても協力し合えば対処出来るだろうし」


 そう言う僕にナナは頷き、文様に手の平をかざした。すると文様が激しく点滅し始め、ピィィィィと甲高い音が鳴り響いた。突然の大きい音に驚いたのか、ナナの猫耳がぺたりと伏せられているのが目に入った。


「……っ来る!」


 ヴィオラの叫び声とほぼ同時に、滝の方から凄い勢いでなにかが向かってくる音が聞こえた。


「おいおい、随分物騒な認証だな! 読み込みエラーも登録漏れも考慮しないで問答無用で排除かよ」


「うわあああああ! 俺虫は駄目なんすよ!」


 そう叫んだオーレくんの前方では、無数の虫が壁や天井を這っていた。脳内で「鑑定」と呟くと、丸く甲虫っぽいモンスターは「マグマスカーラ」、細長く足が無数に生えたムカデのようなモンスターは「カグツチムカデ」と表示された。どちらも現実世界に存在するそれよりもずっと大きく、マグマに生息しているからか全体的に赤い色をしている。


「……あ、でもマグマスカーラの甲殻は素材として高く売れるって書いてあるよ。確かに緋色の宝石って感じできらきらしてて綺麗だもんね」


「いや、高かろうが恐怖心は薄れないですよ!? むしろ傷つけないで倒さないといけないとか無理ゲーっす」


 怖いからだろう、オーレくんは必要以上に大きな声で話している。だけどどうやら虫達は音に反応する質のようで、彼が話せば話すほど、彼の逃げ場はあっと言う間になくなっていった。


「ぎゃー! なんで俺の方ばっかり来るんですか!」


「音に反応してるのよ、怖がるのはいいけど口は閉じてなさい」


 ぴしゃりと言うヴィオラに素直に従うオーレくん。その間に僕とマッキーさんは魔法の生成を完了させていた。


「よし。皆泳ぐ準備を!」


 放たれた大量の水は、漆黒の扉へとぶつかり、そのまま僕達を滝の方へと押し戻してくれた。巻き添えを食って一緒に流される虫に、声にならない悲鳴を上げたオーレくんが猛スピードで駆け抜けていく。


「ぶはあっ! ……はあ……、死ぬかと思った……」


 一足先に外へと出た彼はよほど怖かったらしく、だいぶげっそりとしているように見えた。


「……ありゃ、水が弱点なんだろうとは思ってたけど……これじゃ高値は見込めないかな」


 一緒に外へと流れ着いたマグマスカーラやカグツチムカデは皆の近くに転がっていた。マグマスカーラの宝石の如く輝いていた甲殻は鈍い褐色に変わり、先ほどまでの美しさは見る影もない。よくよく見れば表面には細かなひびが幾筋も走っており、剥ぎ取ろうとすれば割れてしまいそうだ。


「素材として手に入れるなら倒し方を考慮しなきゃいけないって事ね」


 ヴィオラも残念そうに呟いている。


「……さて。ひとまずダンジョン発見称号は手に入れた。スーツの耐久性も本格的に調査するには少し頼りない事が分かった。となれば次はしっかり準備、かな?」


「……その前に、まずは皆でホワイトスポットに行ってみない?」


 ヴィオラの提案に、僕は水中研究所での調査結果を思い出した。そうだった、だいぶ曖昧ではあったけれど、ホワイトスポットに関しても重要そうな情報が書かれていたんだ。特に神が関わっているなら、僕達の能力もなにか取り戻せるかもしれない。


「そうですね、そうしましょう」


「良いと思う。ついでだから、道中ディープブルー……アビスフロント研究所から引っこ抜いてきたデータをもっと詳しく解析してみるよ。生体認証情報や館内で使用するIDカードが偽造出来るならそれに越した事はなさそうだし」


「確かに、さっきの様子じゃ裏口から入っても面倒な事になりそうだものね……。正規の手続きを経て入れるならそれに越したことはないかも」


 意見がまとまったところで僕達は、アイシクルピークにほど近いホワイトブレイズキャッスルへとテレポートしたのだった。

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