245.限定報酬
大量のシェルフと、そこに収められた無数の箱。箱一つ一つには番号が振られており、しっかりと管理していた印象を受ける。場所的に、これら全て強度試験に合格したアイテムなのかもしれない。
「ここにシオンの言ってたなにかがあるんだよね? どれだろう」
髪を引っ張って誘導するシオンに素直に従い奥へ向かうと、防護服のような変わった形の衣服を発見。他のアイテムとは違い、これだけ大きなガラスケースに収められている辺り、特別な物のようだ。
——これから懐かしい臭いがするよ。
「この防護服から? ……アイシクルピークで採れる素材でも使ってるのかな。ちょっと鑑定してみようか」
脳内で「鑑定」と唱えた瞬間、防護服がすっとガラスケースをすり抜け、そのまま僕の身体の中に入ってきたではないか! 一瞬慌てたものの、視界に表示された鑑定結果を読んで納得。なるほど、僕達への特別報酬という事らしい。
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【環境適応スーツVer.2】
効果:装備の上から着用可能な、耐熱/耐寒スーツ。
※効果の切り替え後、十二時間は切り替え不可。
説明:ディープブルーとレッドコアによる共同開発品。Ver.1はレッドコアが所蔵。
溶岩煮えたぎる灼熱の地でも、吹雪荒れ狂う極寒の地でも対応可能な優れもの。
切り替えに時間がかかる為、改良の余地あり。
※【狂気の理解者】保持者への限定報酬。
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≪シオンが居なかったら気付かなかったんじゃ……≫
≪どうりで俺の時にはそんな空間なかったはずだ≫
≪十名以下でインクシア討伐とか無理過ぎ≫
「あー……なるほど、そういう事か。それじゃあ皆にも教えておかないと!」
視聴者さん達に一言断りを入れてから、この部屋の情報を伝えようとクランチャットを開く。と、よくよく見れば少し前にマッキーさんが同じ事を書き込んでいた。
「あ、皆もう知ってたみたい。さすがマッキーさん……、ヒントなしでこの場所を見つけるなんて凄いな。……あれ? 僕と違ってヴィオラが見逃すはずがないし、もしかして知ってた?」
「勿論。でも言う前に蓮華くんとシオンが見つけちゃったんだもの。それにしても、結局シオンの言う『懐かしい臭い』がなにを指してたのかは分からず仕舞いだったわね。やっぱり素材の事かしら?」
「かなあ。耐寒性能だし、アイシクルピーク近郊の素材を使っててもおかしくはないよね」
≪それはそうと、響き的にディープブルーが今居る研究所だよね?レッドコアは?≫
≪近々灼熱/極寒の地に行くクエストでもあるんかな≫
≪溶岩にも耐えられる素材が気になるww≫
≪↑マジレスすると、溶岩の温度より融点が高い金属は結構ある≫
「ディープブルーが水中を表してるなら、レッドコアは『溶岩煮えたぎる灼熱の地』にありそうだよね」
「西にデウストラーの研究施設、東がここ。それなら北と南にも研究施設があってもおかしくないわよね。蓮華くんの言うとおり、南にちょうど火山があるし。北は……やっぱりアイシクルピークかしら?」
「それなら次の目的地は火山と……アイシクルピーク? このスーツが大活躍しそうだ。……でもさ、普通共同開発するなら灼熱の地と極寒の地……北と南でやるべきじゃない? どうしてここが開発したんだろうね」
「そう、ね……。それに私達、北には一度行ってるじゃない? あの時は別の目的があったから見逃した可能性もあるけど、シオンを見つける為にアイシクルピークはくまなく探したでしょう。……でも怪しいところは見つからなかった。……となると残りは山頂くらいしか思いつかないんだけど……」
「山頂って、ドラゴンが住んでるんだよね? 確か……」
「ドラゴンが守護者って事かしらね、やっぱり」
≪無理ゲーw≫
≪北は諦めよう、うん≫
「……よし、一旦この先の事は忘れて、ここの探索に集中しよう」
≪……現実逃避したなw≫
≪蓮華くんすら現実逃避って俺達無理だよもうw≫
≪いやまあ百人くらいいればワンチャン≫
「で、だけど。アイン、この階でも魔法に似てる技術が使われてるよね?」
「うん。……この施設全体で使われてるみたい。色々観察してたんだけど多分これ、魔法の元になった技術なんじゃないかな。前に錬金術は神の能力を模倣する為に生まれた技術って話を聞いたよね? 魔法もそうなんだと思う」
「なるほど……。じゃあこの研究施設に使われてるのは神の能力かもしれないね。インクシアを渡すくらい、この研究施設に協力してたみたいだし。どんな効果か分かったりする? 残念ながら僕には『なにかあるなあ』くらいしか分からなくて」
そもそもアインに言われるまで魔法っぽい技術の痕跡にすら気付いていなかったくらいだ。次に顔を出した時シモンさんに怒られないようにと、最近はアインに色々教わっているけどもしかしたらとっくに破門扱いだったりして……。
「見た事がない術が多いから推測になっちゃうけど、多分水圧とか、外敵から建物を保護する能力だと思う。あとは内部空間の環境維持系かな? 数千年経ってもほとんど浸水してないのはそのお陰だと思う」
「……神様って凄い能力を持ってるんだね。そんな人達に睨まれたら、そりゃ人間なんて滅んじゃうよ……」
大量の人間が居る密室空間で空気が枯渇しなかったのも、神様の能力の一つと考えれば納得がいくしね。
「それじゃあ、中央棟で見た防御システムもその能力の一つ? 解除は難しいって事かな」
「いや、あれは多分人間の技術。この能力はあくまで建物全体にかかってるだけで、階段とか扉みたいな細かい部分の制御は一切してない……と思う」
「なるほど……、それじゃあやっぱりどこかに制御室みたいなものがあるって事か。怪しいのは九階の……『コアシステムフロア』かな。探索がてら探してみよう、もしかしたらエレベーターも使えるようになるかもしれないし」
重ねての告知になりますが、『吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。』が「次にくるライトノベル大賞2024」にノミネートされております。
投票期間中の為、書籍版を読んでる方が居ましたら是非投票の方よろしくお願いいたします。
ノミネートNo.36になります!選択式なので、お手すきの時に是非……!
※昨日はエラーで吸血鬼作家に投票出来ない時間がありましたが、現在は解消されております!
https://static.kadokawa.co.jp/promo/tsugirano/
まだ読んでないよー!という方もこの機会に読んでいただけると幸いです。
素敵な挿絵が世界観を補強してくださっておりますゆえ……!
ちなみに、漫画の方も絶賛連載中となります。