243.在りし日の栄光
だいぶ日があいた上に現実パートや番外編が続き、忘れてる方も多いのではないでしょうか。はい、僕です。すっかり忘れていて読み直しました。すみません。
内容的には「233.水底にのこした記憶」の続きになります。
水中で巨大タコ倒したあとのお話ですね。現実のいざこざを処理して、ようやくゲームに戻ってきたぞー!という感じです。シオンは幻の華です。
「うわー。近くで見ると本当に大きい! 水中にこんな立派な建造物があるなんて、本当に凄いね」
「ええ、現実にも似たような施設はあるけど、こんなに近付ける事なんてないものね」
現実にもそんな技術力あったのか、と思ったものの、口にはしないで頷いておいた。てっきりファンタジー特有なんだと思ってたよ……。
「それにしても広いね。『一度目に来た時は探索しきれなかった』ってガンライズさん達が言ったのも納得だよ」
細長く「へ」の字型に曲がった二棟の建物と、それら二つの間にある大きな円形の建物。見下ろすとカモメのように見えなくもない三棟の建物は、それぞれ十階くらいあるように見える。
「研究棟と居住区、彼らの生活関連施設の他に、カジノを含めた娯楽施設もいくつかあるらしいわよ」
「研究施設なのにカジノ!? ……まあずっと研究してたら気が滅入っちゃうし、気分転換に必要か」
「というより、表向きは富裕層向けのカジノリゾートとして経営してたみたい。公に研究資金を集めれば情報が漏洩する恐れがあるから、カジノリゾートを使って秘密裏に研究資金を集めてたんですって。ちなみにカジノルームだけは別空間扱いになっていて、中のテレポートを解放すれば以降いつでもどこからでも出入り出来るみたいよ。カジノルームから出られないから研究施設への移動手段としては使えないらしいけど、日夜プレイヤーで大賑わいらしいわ」
「へえ……」
博打なんて久しくしていないかも。昔は丁半とか花札なんかをやっていたけど、禁止令が出たり出なかったり、従うのも馬鹿馬鹿しくなって結局賭け事自体をいつの間にかやめちゃったんだよね。
それにしてもGoW内にカジノなんて、政府からの印象は悪くならないのかな? ……いや、確か何十年か前に政府公認のカジノ施設が大阪に出来たんだっけ。むしろ現実世界で借金をこさえない分、こちらの方が健全かもしれないなあ。
頭を振ってどうでもいい思考を頭から閉め出し、まずは中央棟の最上階の入り口から館内へと歩を進めた。だだっ広い空間はいかにもラウンジと言った風情で、ソファやローテーブルが適度な間隔に並んでいる。ただ残念な事に、全て埃や劣化により色あせ、在りし日の面影は既になくなっている。
中央には、元は受付だったのだろうカウンタースペース。そしてそのすぐ側には「館内見取り図」と書かれた大きな看板が置かれていた。
「えーと、どれどれ?」
今居るのは「十階エントランス・カフェ」。中央棟は全て娯楽施設のようで、九階がVIP専用のカジノやラウンジ、八階と七階がスイートルームと、富裕層向けのサービスが続いている。どうやら下層に行くほどグレードが落ちるらしく、五階にはハイクラスカジノ、三階には一般カジノの文字があった。
ふと横を見れば大きく取られた窓からは外の景色がよく見える。ここからの眺めもこのリゾートの醸し出す特別感に一役買っていたに違いない。下層に行くほど水底に近くなる事を考えれば、グレードが落ちるのも納得だ。
残念な事にそれらは全て過去の栄光で、今はもう見る影もない。海だけが変わらず綺麗なのがかえってもの悲しい雰囲気を漂わせている。
「さて、それじゃあどこをどう回ろうか。と言っても、どちらにせよ一階まで降りないと他の棟には行けない感じだったよね?」
先ほど外から見た限りでは左右の塔に入り口らしきものは見当たらなかった。その代わり、中央棟からの連絡通路が一階付近から伸びていたのだ。
「ええ、そのはずよ。だけど情報によるとエレベーターは故障してる上に防御システムが中途半端に残っているせいで、東西南北に設置された階段を駆使して迂回しながら降りる必要があるみたい。だから中央棟はカジノのテレポート解放程度に留めて、今日のメインは研究棟探索にしましょうか」
方針も決まり、僕達は階段を見つけ次第どんどん降りていった。といっても半透明の障壁が階段のあちこちに張られているせいで進めず、別の階段まで移動……を九回も繰り返したので、ようやく一階に辿り着いた時にはヘトヘトだった。
ちなみに九階と五階ではカジノルームのテレポートは条件を満たさないと入室出来ないらしく、三階の一般カジノのみを解放した。視聴者さん曰く、カジノで一定金額以上稼ぐと上階——ハイリスクハイリターン——の部屋への入室が出来るようになるとの事。うーん、むしろ条件を満たしてはいけないような。
「ふう……エレベーターが使えないのが痛かったわね」
休憩がてら一階ショッピングフロアに併設されていた元カフェのソファに腰掛け、ヴィオラが珍しく深い溜息をついた。
「そうだね……古代技術系の熟練度を上げたらいずれは修理も出来るのかな? もしくは防御システムの解除か……。この広さは何度も通う事前提だろうし、移動手段は早めにどうにかしたいよね」
「そうねえ……。中央棟をくまなく探したプレイヤー曰く、防御システムは研究棟で制御してるんじゃないかって。だけど研究棟でもそれらしいものの発見報告はないのよね。どうしてもインクシアがネックで皆来られないから、ここの情報自体まだ全然なくて」
「ああー、そうか。来る度にインクシアを相手する必要があるんだもんね……」
インクシアの話題に釣られて窓の外へと視線を移す途中、遠目に「倉庫」と「従業員居住区」のプレートがついた扉が目に飛び込んできた。きっとあれが研究棟への連絡通路だろう。「どっちに行く?」とヴィオラに問うと、返事は意外なところから聞こえてきた。シオンだ。
——あっち……、懐かしい感じがする。
「ん……倉庫の方? あっちになにがあるの?」
——分かんない。だけど僕が住んでいた所と同じ臭いがする。
アイシクルピークとこの研究所に共通点があるのだろうか? 本人もよく分かってはいないみたいだけど、なにかを感じると言うのなら行かない理由はない。
「それじゃ、倉庫に行ってみようか」
本日コロナEX様にて漫画版吸血鬼作家の最新話更新されておりますのでよければそちらも読んでみてください。
ちなみに若干の遅れはあるものの、各種電子書籍配信サイト様でも配信されている?っぽい?です。どこで配信されてるのかはよく分からない。
ちなみに明日も更新予定&告知情報あります!





