番外編:ハロウィン料理コンテスト【料理挿絵あり】
本編を投稿するつもりが!全然書けず!昨日突然思いついたハロウィン番外編書きました。
挿絵も描いてたら寝不足で死んだ。
『お待たせしました! それではただいまより、ハロウィン料理コンテストを開催したいと思います! ヒューパチパチパチ』
「あっ、ほら蓮華くん、始まったわよ!」
いつものようにエリュウの涙亭にて食事中、ヴィオラがはしゃいだ声でイベント配信画面を共有してきた。画面上には下から上へと、拍手を模した文字列「88888」が怒濤の勢いで流れている。
『初めての試みにもかかわらずたくさんの投稿、本当にありがとうございました。えー、事前告知通り、「ハロウィン料理」のタグが付いたスクリーンショット画像の中から「いいね」獲得数上位十名の方に本日はお越しいただきました。投稿画像も二万枚を超えていて……皆さん料理が出来て羨まし……ゴホン。
さて、改めまして最終審査のルールを説明させていただきます。このあと十名の方には一人四品ずつ、料理を披露していただきます。それを元に視聴者の皆様には配信画面上から投票していただいて、合計投票数が最も多い人が本コンテストチャンピオンとなります!』
「四品!? 無理ね……そんなにレパートリーがないもの。……あ、ハロウィン料理のよ!? 普通の料理のレパートリーは勿論たくさんあるんだから! ね、蓮華くん?」
「え!? う、うん……? あーそうだね。あるある」
≪いや絶対嘘じゃん≫
≪嘘下手すぎか≫
≪四品はさすがに作れるだろw≫
全然別の事を考えていたせいで——実は次回のコンテスト応募を本気で考えていた——、おかしな回答をしてしまい、視聴者さんに誤解を与えてしまったらしい。ヴィオラの方向から殺気めいたなにかがひしひしと感じられたけど、全力で気付かない振りをしておいた。いやこれは僕が悪い訳じゃない、そもそも視聴者さんから突っ込まれるような発言をしたヴィオラが悪いんだ……、うん。
『披露していただく料理の基準は一次審査の時同様、「ハロウィンをテーマにした料理」である事、この一点のみです。食べられさえすれば、料理の種類は問いません』
「『食べられる』の定義が気になるわね……材料的な意味かしら、それとも味的な意味かしら……? 前者なら次回までにレパートリーさえ増やせばなんとか……」
ぼそぼそと呟くヴィオラ。別に後者の意味でも問題ないと思うけどなあ、とは思ったものの、今はそっとしておいた方が良い気がしたので黙っておく。
『——ご覧ください! このカラフルな料理達を……!』
変なやり取りをしている間にイベントは既にお披露目タイムへと移っていた。数秒間四十品全ての料理が映し出されてから、最初のプレイヤーの料理へと画面が切り替わった。
『まずは「漆黒ノ堕天使」さんの料理四品から見ていきましょう。軽くご説明いただけますか?』
『は、はい……、ええと、まずはオレンジ色のパスタは、トマトクリームベースで作っています。一口フォークで掬うとご覧の通り……中心部に包んでおいた真っ赤なトマトクリームの膜が割れ、一気にパスタを染め上げます。触れてはいけない領域に触れた演出から「灼熱ノ禁断」と名付けました。それから次が——』
淀みない漆黒ノ堕天使さんの説明によると、「灼熱ノ禁断」の隣にある黒いスープ「悪夢ノ深淵」は、巧妙に隠されたドライアイスで霧を表現したという。パスタ、スープと不気味テイストが続いたのでそのまま統一するのかと思いきや、「死者ノ饗宴」と名付けられ豪快に盛られたローストチキンは、周囲を囲む紫のカボチャや白いお化けが野菜で作られており、楽しげな雰囲気が感じられると共に食欲がそそられる一品になっている。そしてオレンジと黒が交互に層になったムース「虚無ノ果実」で締めるという流れ。全体的にバランスが取れた四品で、一人目からコンテストのレベルの高さが窺えた。
「ひええ、凄い……材料的に味にもしっかりこだわってそうで完璧だあ……」
≪クオリティやばw≫
≪名前の破壊力強すぎてなにも入ってこないんだがwwwwww≫
≪名前だけでお腹いっぱいなんだよなあ……≫
≪真顔であの料理名が言えるメンタル見習いたい≫
≪「死者の饗宴」良いなあ、子供に作ったら喜ばれそう≫
『いやあ、初手からとんでもない作品を見てしまいましたね皆さん……! え? 食べてみたい? そうでしょうそうでしょう!! そんな皆様のご希望にお応えして、本コンテストに登場した料理はGoW内の期間限定ショップにて配信終了後から販売も行われます! ワーパチパチパチ』
「おおー、ちょっとあとで漆黒ノ堕天使さんの料理食べてみよう……」
二番目以降もクオリティが高い料理——ただし色んな意味で漆黒の堕天使さんほどのインパクトはない——が続き、ついに大トリ、十番目のプレイヤーの料理が映し出された瞬間、僕は思わず自分の視力を疑ってしまった。骨、骨、骨……そして骨。
「……なんだか既視感があるような……ないような……」
≪これはwwwどうみてもwww≫
≪基準は余裕でクリアしてるんだけど、ここまでくると狂気を感じる≫
『ラストを決めるのは「甘味庵」さんの作品になります。えー……と、ご説明、いただけますか?』
≪もう司会も引いちゃってるじゃんw≫
『はい! えー、実は私、本業がパティシエでして。ですから四作品ともスイーツにしました。あ、まずは一つ、この場を借りて感謝の意を述べさせてください。以前すれ違ったとあるお方……貴方のお陰でこのような素晴らしい作品を作る事が出来ました。この作品のお陰で凝り固まっていた私の発想力が柔軟になりました』
≪柔軟……、うーん?まあ確かに他では見ないけど≫
≪突き抜けすぎたんだよなあ……≫
≪凝り固まったままの方がパティシエとしては正解じゃないか?w≫
≪正気度チェック入りまーす≫
それもそのはず、彼が披露したスイーツ四品には全て「骸骨の腕」がどこかしらにあしらわれているのである。確かに「ハロウィンをテーマにした料理」には間違いないのだけど、この時期にお菓子屋さんでよく見かける可愛らしいカボチャ型のケーキとは真逆を行く本格的な不気味さは、視覚的な意味合いで「食べられる」のか不安になってくるレベルだ。というかこれ、すれ違ったとあるお方って絶対僕とアインだよね? 腕だけって事は僕がまだNPCだったあの頃かな……。
イベント配信のコメント欄も同様にざわついているものの、甘味庵さんからは見えないのか輝くばかりの笑顔で流れるように言葉を紡いでいる。スイーツに対する情熱が凄いのか、それともアインに対する情熱が凄いのか……。
『あ、説明でしたね。まずこのカボチャ型のケーキは「ガトー・オ・ポティロン 〜道行く片腕を添えて〜」と名付けました。ケーキ生地部分はカボチャのピューレを使用し、見た目と味の乖離を防いでおります。そして骨の部分には主にホワイトチョコレートを使用し——』
大きなカボチャ型のケーキ「ガトー・オ・ポティロン」は、カボチャの上部一部分に穴があき、中から骨の腕が空を掴むようなポーズを決めている。「道行く片腕」を「添える」レベルを超えている印象を受けるのは気のせいだろうか。
その次の「ティラミス・グラヴェ 〜道行く片腕を添えて〜」についても、美味しそうなティラミスの上から骨の腕が空を掴むようなポーズを決めており、まるで墓場から蘇ったような不気味さを表している。というよりも、よくよく側面を観察してみれば、下層の白地部分に黒いソースで墓のようなものがいくつも描かれている事に気が付いた。甘味庵さん、完全に狙ってるじゃないですか……。全然添えられてないです、主役級ですよアインが。
三品目、「マカロン・アラクネ 〜道行く片腕を添えて〜」についても言うに及ばず。表面に蜘蛛の巣のデザインをあしらった、コロンと可愛らしいハロウィンカラーのマカロンを、まるで自分の物だと言わんばかりに骸骨の腕ががっつり掴んでいる。これを食べる勇気のある人は居るのだろうか? 僕は……、うーん。
四品目、「千手観音 〜道行く片腕を添えて〜」……突然の日本語名称以上に度肝を抜かれるのはその見た目。チョコレートコーティングされたホールケーキの表面に、まるで万華鏡のように八本の骸骨の腕が描かれている。八等分した際、一ピース一ピースに必ず腕が当たるように、と言う配慮らしいけれど絶対その配慮は要らなかったんじゃないかな……。ちなみに八本の腕から千手観音を連想して名付けたらしいけど、もはやサブタイトル必要ないですよね? 千手観音の段階で腕の存在を全面に出してますよね?
≪頑なに腕を添えてくるじゃん≫
≪添えなくて良いんだよwwwwwwwwww≫
≪一度添えるの意味を調べた方が良い(真顔≫
僕の配信もイベント配信のコメント欄も、甘味庵さんにつっこんでいる人が目立つものの、反応という意味では漆黒ノ堕天使さんと同レベルで盛り上がっている印象だ。確かにハロウィン料理のコンテストというテーマには文句なしで合っている。となると「料理として食べられるか」を投票者がどんなニュアンスで受け取るか、がポイントかもしれない。販売を「イベント配信終了後」と明言している以上、僕的には食欲的な意味だと判断しちゃうけどなあ……。そうでなくとも僕の場合、アインを連想してしまうこのスイーツはとてもじゃないけれど食べられそうにない。いやでも、見た目はハロウィン感満載なんだよ! うーん、どうしよう。
≪悩ましい……甘味庵さん完成度は高いんだけどもはや狂気の域なんだよなあ≫
≪ネタとしてはめちゃくちゃおいしいし俺は入れるぜ!≫
≪俺これ、販売されたら多分買うぞw普通に美味しそう≫
≪千手観音以外は普通にアリだよな≫
≪↑千手観音も行ったれよwww≫
「蓮華くんは誰に投票するか決めた?」
「うーん、まだ悩み中……。皆凄いクオリティだったし、どれも美味しそうだったし、甲乙つけがたくて……」
ヴィオラや視聴者さんの投票完了宣言を横目に、悩みに悩んで漆黒ノ堕天使さんに投票したところで投票時間が終了した。思ったよりも長時間考え込んでしまっていたらしい。
『ただいまを持って投票を締め切らせていただきました! ご協力ありがとうございました。さてさて……さっそく結果の方が出たようです。えー、それでは三位の方から発表します——』
§-§-§
十数票差という僅差で漆黒の堕天使さんが優勝、甘味庵さんは二位という結果でイベントが終了した、その数日後——。
「あっ! あの! 蓮華さんとアインくんですよね!? 初めまして、甘味庵と申します。えっと、突然ですみませんが、これを受け取っていただけないでしょうか!?」
そんな言葉と共に目の前に差し出されたのは、ラッピングに包まれたハロウィン料理コンテストのトロフィーを模したお菓子と、それを握っているアインの腕。よくよく見れば腕はお菓子ではなく、粘土のようなもので作られている。それからもう一つは「温泉の素」と書かれた革袋。
「えっとですね。実は先日公式で実施された料理イベントで二位になりまして……初対面でこんな事を言うと引かれるかもしれませんが、これも全て蓮華さんとアインくんのお陰なんです。ですからこの名誉を一人で甘受するのは違うと思いまして……。この温泉の素、コンテストの賞品なんです。お湯に入れるとランダムな色と香りが発生して、一定時間温泉気分が味わえる上、使用回数も無制限らしいのですが実は私、食材は全て人頼みで滅多に王都から出ないんです。ですからあちこち冒険をする蓮華さんに使っていただければと……」
「ハロウィン料理コンテストですよね? 見てました、骸骨の腕が添えられたスイーツ。クオリティが高くて凄かったです! でも……あの……、ごめんなさい、実際に食べる事を考えた結果甘味庵さんに投票しなかったんです、僕。だからこんな素敵なアイテムを貰う訳には……」
「モデルとなった人物を連想してしまうでしょうからそうなるのは当然だと思います。でも、二位になれたのはお二人のお陰なので、私個人としてはお礼をしたくて……ご迷惑でなければ受け取っていただけないでしょうか」
うるうる、と擬音がつきそうなほど瞳を潤ませながら迫ってくる男性に、僕は小さく頷いて受け取った。正直、温泉気分が味わえる代物と聞いて気にならないはずがない。
「ありがとうございます、それに美味しそうなお菓子ととっても可愛いアインの腕まで……大事にします」
「喜んで貰えたのなら良かったです。あの、それじゃ……えっと……、最後に握手……握手をお願い出来ないでしょうか! ……アインくん!」
「勿論です」と出しかけた手をすぐに引っ込め、何事もなかったかのように二人の握手を見守りましたよ、ええ。分かっていました、彼にとって所詮僕はおまけなのだと。
ちなみにですが、コミカライズ版の吸血鬼作家最新話も、コロナEX公式サイトにて一週間前に更新されております……(今更





