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番外編:罰ゲーム

「あ、そうだ洋士。今日はヴィオラと買い物行ってくるね」


「お、丁度良いな。実は俺も今日は一日空いてるんだ」


 いつもなら手放しで喜んだであろう息子の発言。だけど今日ばかりはちょっと都合が悪い。


「え、あー……そうなんだ。洋士も一緒に行く……?」


 動揺し過ぎてしまい、あからさまに嫌がっているような回答になってしまった。僕の反応に、うっすら上がっていた洋士の口角は急降下した。


「なんだ、駄目な理由があるのか? ……ああ、なるほど。父さんにも春が……」


 意味深な視線を向けてくる洋士。


「いやいや! 全然違うから! か、考えてみれば人数が多い方が楽しいよね! 皆で行こう、うん」


「隠さなくても良いんだぞ、前はともかく今はあいつが良いやつだって分かってる」


「いやもう、お願い、その話題から離れて」


 本音を言えば今日ばかりは洋士と言葉を交わしたくなかったけれど、あらぬ誤解を生むくらいなら一緒に過ごした方が幾分マシだ。別にヴィオラが嫌とか、そういう訳じゃない。ただどう考えても、ヴィオラには年齢的にこんなおじいさんよりも相応しい相手が居ると思うし、僕も恋愛に一喜一憂する年齢ではないというだけで。


 それより、僕としては洋士の恋愛の方が気になるんだけどなあ……。浮いた話の一つも聞いた事がないけれど、実際のところどうなんだろうか。


 聞いてみたい気もしたけれど、ヴィオラとの話を蒸し返されては困るので黙っておく事にした。


   §-§-§


「あ、この服良いかも。えっと、お、俺に似合う?」


 自分でも違和感を感じる一人称に、ヴィオラは笑いを堪えて肩が震えているし、洋士に至ってはポカーンという擬音がしっくり来るほど、彼らしくない表情で呆けている。


「……どうした……、熱でもあるのか……?」


 おでこに手を当てられたところで、そんなものはない。というかいくら似合わぬ一人称を使ったからって、熱だと決めつけるのは酷くはないだろうか。


「やだなあ、熱なんてないよ。洋士だって『俺』って言ってるじゃない。ぼ……いや、俺が使ったって別に良いでしょ?」


「それは勿論……。だけど父さんが使うとなんか……、なんだろうな、背筋がぞわぞわする。正直言って、一人称だけが浮いている感じがして違和感しかない」


「背筋がぞわぞわする」の辺りでいよいよもってヴィオラが堪えきれずに笑い始めた。全ての事情を知っているのに、洋士に説明をする気は微塵もないらしい。完全に面白がっていますね、ヴィオラさん?


 事の始まりは昨日。GoW内で皆でゲームをしている時だった。負け続きだったガンライズさんが「こんなに勝負に集中出来ないのはなにも賭けていないからに違いない!」と言いだしたので「じゃあ負けた人が罰ゲームをするって事で」と決まった。ところがその途端、それまで勝ち続けていた僕がボロ負けしてしまったのだ。


 皆の配信視聴者さんからリクエストされた罰ゲームが「一日中一人称を『俺』にする」だった。決まった当初は「なんだ、そんなものか」と拍子抜けしたのだけれど、いざ口にしてみると自分でも違和感があってむずむずしてしまった。それが声音に反映されているから、洋士も違和感を抱いているのかも。そう思い、洋士の話方を意識してみるも余計に浮いてしまっている感じが……。


 はあ、一日中GoW内で視聴者さん相手に「俺」と言い続ける自信がなくてヴィオラと外出する事にしたのに、まさか四六時中多忙の洋士が、今日に限って空いているなんてなあ……。申し訳ないけれど今日だけは仕事であってほしかったよ。


 実は、「罰ゲームである事は翌日まで種明かしをしてはならない」というルールも科されている。だけどそれは罰ゲームを受けている僕だけで、ヴィオラには当てはまらない。彼女は昨日、一緒にゲームをしていた。だから洋士にもそれとなく説明してくれるだろう、と期待していたのに、ここにきてまさか裏切られるとは思ってもいなかったよ!


 恨みを込めた視線を向けても、ヴィオラは素知らぬ振り……どころか、「きっと蓮華くんもそういうお年頃なのよ」なんて適当な事を言っている。ちょっと、変なイメージを植え付けるのはやめてください!!!




 いきつけの喫茶店に入ったのは失敗だった。いや、それよりも注文時に一人称をつけないように細心に注意を払えば良かったのに、うっかりつけてしまったのが悪かった。「僕」と言いかけて「俺」と言い直した僕に、店主さんは一瞬怪訝そうな表情を浮かべてから去って行った。うう、どうか次回来る時には忘れていますように……。


 洋士が咳払いで笑いを誤魔化している中、ヴィオラは小さく「惜しい」と呟いている。全く、使命に忠実すぎる。


 実はヴィオラは、GoWにログインしていない間のお目付役に任命されているのだ。僕がうっかり「僕」と言ってしまった回数をカウントして、次回ログイン時にガンライズさん達や視聴者さんへ報告する役目。その回数に応じて、視聴者さんから募集した「きわどい質問」を用意しているとかなんとか……。ヴィオラ曰く「返答は無理強いしないから大丈夫」らしいけれど、なるべくならノーミスで明日まで過ごしたい。


 結局。一人称を間違えないようにと精神的に張り詰めていた事もあり、いつもの二、三倍近い疲労感を抱えて帰宅。視聴者さんからはそれなりにお小言をもらったものの、GoWにログイン後は声を出さずに過ごせるよう、図書館に逃げ込んだのだった。

一人称突然変えるのって勇気要りません???


昨日、コロナEXにて、漫画版吸血鬼作家の2話が更新されているようなので是非ごらんくださいー。

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― 新着の感想 ―
[一言] コミカライズからWeb連載を読みに来ました(^^) 最新話まで追いつきました(^_^)ゞ
[良い点] TRPGでGMやってれば慣れます いや嘘です きっついクズやメスガキのロールとか一生慣れないかも 慣れたら新しい性癖が獲得できるか?
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