22.なんて呼べば良いですか?
「「「終わったあああああああああああああああああああああああ!!!!!」」」
あちこちで歓声が響く中、僕はとても気になることがある。
「なんか……骸骨も一緒に喜んでるよね……。え、なんで動いてるの? もしかして君はアンデッドではない……?」
正直、ここ最近ヴィオラと三人?で依頼を受けたりしていたこともあり、完全に仲間意識が芽生えてしまって別れるのが辛いとは思っていた。思っていたけれども、彼?もアンデッドなので、子爵令嬢が消えるタイミングで一緒に逝ってしまうのは仕方がないことなのだと受け入れていた。
「ぶ、分隊長……なんでまだそのスケルトン動いてるんです?」とちょっと引き気味にナナ。いや、こっちが聞きたいんですよ。
「いや、全然分からない……一緒に喜んでることだけが凄い伝わってくる……振動で……」
こっちは真面目に話してるのに、何故か分隊員たちが吹き出してくるんですが?
「ヴィ、ヴィオラに心当たりは?」
すがる思いでヴィオラに聞いてみるも、無言で首を横に振られました。と言うか、肩が震えてるあたり絶対ヴィオラも笑い堪えてるよね?
「仕方がない、どこかのタイミングでギルドマスターとかに聞いてみるよ……評価云々とか報酬受け取りとかで近々顔を合わせるだろうしね」
それが良いとばかりに頷く分隊員たち。まだ肩が震えているけれど。
それはさておき、この後はどうすれば良いだろうか? 片付ければ良いのか、一旦休憩をとれば良いのか。本来なら部隊長辺りが指示してきそうなものだけれど……中央の部隊長は多分もうこの世に居ないのだろうし、左右の部隊長はアンデッドに打ち勝ったことによりお祭り騒ぎ。……総隊長はまだお忙しいのかな?
「とりあえず……皆疲れたでしょう。指示があるまで休憩にしよう。あ、怪我した人は居る? ナナがさっき中からポーションを持って来てくれたみたいだから、それを飲んで」
僕の言葉に分隊員は、誰ともなしに円を描くように座った。確かに、改めて言葉を交わす丁度良い機会だもんね。
「皆、本当にお疲れ様! とくに分隊長とヴィオラさんはずっと動いてたし、ゾンビをあっと言う間に一掃しちゃうし、凄かったですね!」最初に口を開いたのはナナ。この軽快なトーク力で子爵令嬢を改心させたのかな? 彼女が居て本当に良かったなあ。
「いや、正直これ以上長引いていたら僕はMPが危なかったし、子爵令嬢が想定より早く戻ってきてくれたのは本当に助かったよ。ありがとう、ナナ」
「そう言えば、子爵令嬢が出て来たとき皆一斉にデバフ掛かったよな? ヴィオラさん、あの状況でどうして一発でアンデッドを仕留められたんですか? めちゃくちゃ凄くないですか!?」と興奮しているのがプレイヤー名、「ガンライズ帝国様ご一行」。彼一人で何百万人分ってことかな? いや、帝国に「様」がついてるのも……色々凄いな。
「いえ、別に……ちょっとした修行の成果よ」とクールに答えたのがヴィオラ。表情こそ変わらないけれど、ちょっと照れている気がする。
ふむ……こうして改めて遺物で表示されるプレイヤー情報を見ていると、ナナとヴィオラみたいに名前らしい名前の方が珍しいみたい。僕がNPCなせいで分隊員とのやりとりはヴィオラに一任していたけれど、これ多分僕だったら呼び方に困って声がけ一つ出来ずに終わっていた気がするなあ。「末期症状」さんとか。何の末期なのか……。
「そう言えば、令嬢が子爵のところへ行く前に、変なこと言ってませんでしたか?」と「たかしの父です」さん。たかしくん一体何者なんだ……!?
駄目だ、プレイヤー名が濃すぎて会話の内容が全然頭に入ってこない……。
「あ、確かネクロマンサーが自分を悪霊に変えてアンデッドを召喚した上で操る能力を授けてくれたとかなんとか……? でしたよね、分隊長」
「え、あ、うん。そう言ってた筈。確かに森の中の遺体にしては数が多すぎるし、その大半は供養されていた筈だから、おかしいなとは薄々感じていたんだ。謎が解けて良かったけれど、ネクロマンサーがどこの誰かは全く分からず仕舞いで終わっちゃったね。この先明らかになっていくのかもしれないけれど……」
「アルディ公国も似たような状況だし、もしかして四国全部のイベントの黒幕がそのネクロマンサーかもしれないな」
ガンライズ帝国様ご一行の声に僕らは全員頷いた。多分、世界を憎んでいると言うネクロマンサーが同時多発的に主要四カ国に災厄の種を植えたとみて間違いないだろう。
「まーとりあえずこれでシヴェリー内の食料難は徐々に解消されていく、のか? いい加減肉が食べたいんだよな」
「ガンライズさんよくこの状況で肉食べる食欲ありますね……?」
たかしの父ですさんが苦笑しながらガンライズ帝国様ご一行に返答する。なるほど、ああやってナチュラルにあだ名をつければ良いのか。参考になるなあ。
「とっつぁんの年齢じゃ肉はきついか?」笑いながら言うガンライズさんに対して、「いや、違うそうじゃない」「私たちも今は無理だよ」「歳じゃない、ゾンビの腐臭のせいや」と皆から一斉に突っ込みが入る。どうやらガンライズさんはボケ担当だったらしい。
「ところで……せっかく共闘したことだし、フレンド登録とか良いかな?」とナナ。
うんうん、と頷いて皆空中で腕を振ったりなにかをタッチしたりと大忙し。だけど残念ながら僕はそこに参加が出来ないのである。
「あ、その分隊長……は無理ですよね?」と遠慮がちにナナ。この場合の無理って言うのは僕が拒否してるって意味で聞いてきてるの? それともNPCだから無理だよね?って単純に確認してるだけなの? 普段から人と話しをしないとこう言う大人になりますよ、皆さん。やっぱり紙の上以外のコミュニケーションは難しい。
「フレンド登録したいけど、僕はまだNPCだからなあ。システムメニュー開けないし、フレンドは難しそう」
そう言うと、ナナはしょんぼりした様子を見せた。うう、ごめんね。僕がもっと血液さえ飲めればこんなことには……。
「あ、えっと、その、まだしばらくはエリュウの涙亭に滞在する予定だから。何かあったら直接訪ねて貰えれば、その……」そこまで言ってから、僕は急に恥ずかしくなった。どうしよう。世間話の一環でとりあえずフレンド登録~なんて軽い流れの中で、突然滞在先に訪ねてくれ、なんて言うのは、ちょっと重かったかもしれない。
「あ、いや、無理にとかじゃなくて、良ければって言うか、……ごめん」
焦ってしまって更に余計な発言をしてしまったり。羞恥心で顔が赤くなっているような気がして、僕は俯いた。本当、今ここに穴があったら入りたい……。
あれだけ会話が弾んでいたのに、僕の発言一つでしん、と静まり返ってしまって、余計にいたたまれない。気のせいか、ちょっと鼻の奥がつんとして涙が出て来た気がする。あ、ゲームなのにこんなリアリティあるの凄いな……。でも今じゃない。僕のメンタルに追い打ちを掛けてくるシステムが憎い。
「え、え!? ほ、本当に良いんですか!?」
静寂を打ち破ったナナの言葉に、僕は思わず顔を上げた。はて、彼女は僕が拒否すると思って聞いてきたのだろうか?
「う、うん……。勿論。僕が断ると思ってた……?」
と言うか、なんでナナは僕に対してだけ敬語なんだろう? 他の人もかな……いや、そもそも全然面と向かって話しかけられた記憶なかったな。あれ、もしかして僕嫌われてる……? あ、確かガンライズさんだけは最初っからフランクに話しかけてくれてたか。勝手に心の友と呼ぶことにしよう。
「だって分隊長なんか近寄りがたいと言うか、NPCとしかかかわらない主義なのかなってずっと思ってたので……」
「えっ……。だってほら……逆に皆どうやって他のプレイヤーと仲良くなるの……?」
「えー、だって最初のクエストで……あっ」
「クエスト……そうか、クエストで他のプレイヤーと強制的に顔合わせとかするのかな。僕クエストなんてものが一つも発生してないからかかわるタイミングが全くなかった……」
あとなんか、気のせいかどこ行ってもひそひそされるし誰かと仲良くなれる気がしなかったと言うのも一つ。正直、ヴィオラが話しかけてくれなかったら僕は今回のイベントでも独りで浮いてた気がするレベル。
「あの、じゃあ本当に遊びに行っちゃいますよ! それで、分隊長がちゃんとプレイヤーになった暁には、絶対フレンド登録してください!」
「俺も勝手に遊びに行くから、仲良くしてくれよな、分隊長!」とガンライズさん。大丈夫、君はもう勝手に僕の心の友に認定されている……。
と、遺物の起動特有の音が聞こえた瞬間、一瞬にして皆指示待ちの顔になる。すごい、訓練された兵士みたいだ……。
『すまない、連絡が遅くなった。皆ご苦労さま。ゆっくり休んで欲しい……と言いたいところだけど、さすがに門の前にこれだけの遺体が散らばってるのはよろしくないから、片付けまでは手分けして行って欲しい。
特にゾンビ。大半は魔術師が焼いてくれてる筈だけど、もしまだ残っていたら引き続き対応を頼む。
スケルトンに関しては、残念ながら身元を特定するのは不可能だ。のちのち教会の方で身元不明のご遺体として一斉供養を行うから、門の前に集めておいて欲しい。
あー、中央部隊については部隊長不在の為、分隊長がそれぞれ指示してくれ。
それから評価については各部隊長・分隊長からの聞き取り調査も行ってから決定する。各隊長格はこの後遺物の返却の際に個別に会話の場を設けるので、スケジュールの調整しておくように。以上』
「ふう……それじゃあ、総隊長からの指示も出たことだし、片付け始めようか。僕はゾンビの火葬をするから、皆はスケルトンを運んで欲しい」
僕の言葉に分隊員は一斉に頷いて立ち上がった。僕の方も休んでる間にMPが多少回復したことだし、ゾンビの火葬位であればどうにかなるだろう。あと一踏ん張り、頑張ろう。
……この後のギルドとの会話を考えると背筋が冷えるけれど。