242.何人たりとも
本来であれば頼家様の嫡男である一幡様が継ぐべきだけど、どちらのお子も頼家様の様子がおかしくなってから生まれている。彼らに呪詛の影響がない保証はどこにある……? こうなってしまった以上、頼家様の跡は実弟の実朝様にするべきだろう。それが皆の見解だった。
だけど残念ながら、比企一族はそれをよしとは思わなかった。ここが政治的駆け引きの悲しいところだね。彼ら一族は、自分達の庇護下にある頼家様のお子、一幡様が継ぐと信じていた。突然降って湧いた呪詛のせいで一幡様が継げないなんて納得がいかない。考えてみれば験者や陰陽師を手配したのは北条氏だ……。呪詛云々は口実で、実朝様に継がせたい北条氏の策略に違いない。そう考えて北条氏を討つ事に決めてしまった。結局、北条氏が比企一族の企みを事前に察知して広元に相談した結果、比企一族は一幡様諸共滅ぼされてしまった。
そこからの話は割愛するけれど、結局頼家様の姿をしたなにかは、僕達が討った。一幡様も公暁様も亡くなり、頼家様の血筋が代を継ぐ事はなかった。その過程で実朝様が公暁様に殺害されてしまった件が、北条氏にとっても誤算だったのか、それとも公暁様を討つ為の大義名分として彼らが画策した事なのかは、今となってはもう分からないけど。
「……さて。昔話はこれで終わり。で、なんだけど。死者や生者を操る能力……。もしかして週刊誌の記者やテレビ局の社員の死亡にはその能力が関わってるんじゃないかって思ったんだけど……、さすがに考えすぎかな?」
「確かに死者や生者を操る人物が居たら、彼らの不審な行動も、死亡推定時刻の件も頷ける。だが……澄明だったか? そいつ自体はただの人間だったんだよな? 今も生きてる可能性があるのか? あるいはその後継者か? だとしたらなんの為なのかが分からない。澄明とやらはその後どうなったんだ」
「結局見つからなかった。だから洋士の言う通り、生きてるのか死んでるのかは分からない。だけど人の道に外れた術……人を呪うようなものは破られた際、術をかけた者に跳ね返る。だから頼家様の姿をしたなにかを討った時、術者はどこぞで死んでると判断された。
ただ、頼家様亡き後、御殿を片付けていた際に澄明の日記が見つかって。都に復讐する為に頼家様を手中に収めようとしていた旨が記載されてたんだけど、その記述が途切れた日……頼朝様が亡くなる前日の内容的には、まだ試行錯誤の段階だったんだ。だから僕達は、頼朝様に気付かれてしまったから口封じをして、日記も持たずに着の身着のまま鎌倉を後にしたんだろうって推測した。だけどさ……それが事実なら、遅かれ早かれ僕達の手によって計画が明るみに出ると踏んでいたはずでしょう。そんな人が術の跳ね返りに対策をしなかったとは思えないんだよね。皆は鎌倉に平和が戻った事で満足していたみたいなんだけど、僕はそれが気にかかっていたんだ。……そう言いつつさっきまでまるっと忘れてたんだけどさ。
でも澄明なら、どうにかして生き延びて、都だけじゃなくて僕達の事も復讐対象に追加するんじゃないかなって」
「そうだな……俺も父さんの考えに同意するよ。相当執念深い人物らしいしな」
「でも今更、っていうところは気にかかるわよね。九百年近く経っている訳でしょう? もっと前に行動を起こさなかった理由はなんなのかしら」
「既に復讐相手の大半がこの世に居ないだろうしな……。だがもしそいつが犯人で、復讐相手に父さんを選んだんだとしたら、マイナスの印象を与えながら吸血鬼の存在を表に出そうとしていた動きには納得がいく。相手は父さんの平和をぶち壊したいんだろう」
「現実とファンタジーの区別がついてないって言われたらそれまでなんだけど。たまたま現世で、澄明の記憶を持ったまま生まれ変わったとか……、或いは呪詛の跳ね返りのダメージが想像以上に大きくて、今の今まで行動が出来なかったとかはどうかな?」
「死体が動くだとか呪詛だなんだの段階で十分ファンタジー染みてるから一概に否定は出来ないが、こればっかりは調べようもないな。相手が澄明とやらである可能性を念頭に、向こうの出方を待つしかない。全く、これが本当ならいよいよ妖怪大戦争だな」
「ごめん、僕のせいで……」
「なに言ってるのよ、悪いのはそいつであって蓮華くんじゃないでしょ。逆恨みされてるだけなんだから。冤罪だかなんだか知らないけどね、結局人を呪うような真似をしてるんだから、言い逃れなんて出来ないじゃない」
「るなの言う通りだ。その当時なら同情の余地はあったかもしれないがな、無関係な人物を何人も殺して利用してる段階で、そいつはもうただの犯罪者だ。父さんが気にかけるほどの存在じゃない。今すぐ忘れろ」
無茶な事を、と思いつつも「あとは俺に任せていい加減楽になれ」という洋士なりの言い回しだという事は分かっている。こうして味方になってくれる家族や友人に恵まれて、本当に幸せだなとしみじみ実感すると共に、何人たりともこの幸せを邪魔する者は決して許さない、と心に誓ったのだった。
七章本編はこれにて終了、番外編やら掲示板回(未定)やらを挟んで八章突入予定です。
大丈夫です、ゲームに戻ります。小難しい話はもうないので安心してください笑