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240.十五人の合議制

「動く死体……」


 洋士から聞いた話が気にかかり、なんだかんだと一日中考え込んでいたせいだろうか。帰宅後、いよいよ我慢出来ないほど体調が悪化したので夕飯も摂らずに自室へと直行。この感覚には覚えがある。多分、記憶が戻る前触れだ。


 そう思った途端、僕の意識は深い沼底にずるずると引き込まれるように沈み込んでいった。


   §-§-§


「……全部、思い出したよ」


 心配そうに顔を覗き込んでいる洋士達を安心させるように僕はそう言った。少なくともこれでもう、記憶関連で倒れて心配をかける事はないはずだ。


 目を閉じれば、まるで昨日の事のように鮮やかに全てが蘇る。そのお陰で、当時は思いつかなかった仮説も立てる事が出来た。そういう意味ではエレナに記憶を封じてもらって良かったかもしれない。


 問題は、あの当時の黒幕、真相、それら全てが今現実に起こっている問題に関係があるのか、という事だ。普通に考えればあり得ないと思う。なにせ九百年近く前の話だ。それでも……なんの根拠もないのに僕の直感は、関係があると感じていた。


 頼朝様は、才ある者はその身分にかかわらず取り立てる考えで、それ故に鎌倉は目を見張るほどの速度で発展した。けれども一方で、その方針故に才しかない者もうちに抱える事となってしまった。その結果があの末路だ。


「十三人の合議制、って知ってるかな。頼朝様亡き後、頼家様が一人で物事をお決めにならないように制定された制度……なんだけど」


「ああ、有名だな。確かドラマの題材になった事もあるだろう」


「私も詳しくは知らないけど、名称だけなら知ってるわ」


「うん。あれね……本当は十五人だったんだ。僕と、朝光の二人を入れて十五人。最も縁起が良いとされた数字にあやかってね」


「それじゃ、今はどうして十三人で伝わってるの?」


「吾妻鏡は当時の日記や手紙を元に後世にまとめられた書物で、特に北条氏に縁が深い人が編纂に関わっているから……、ここだけの話だけど一部の記載は彼らにとって都合が良い内容になっているんだ。それに歴史書に書くのに不向きな部分……それこそ人ならざる者に関連する事は省かれてるから、どうしたって史実に忠実とはいかない。元となった資料は既にほとんど失われているから比較も出来ないしね。僕や朝光、景時は特に北条氏にとって目障りだったから、亡くなった景時はともかく僕ら二人の名前は消されたんだよ。特に、僕が人ならざる者だっていうのは周知の事実だったからその一切の情報が消されてる。僕も自分の痕跡が残らない方が好都合だったから黙認していたし」


「なるほどね。そこまでしてどうして皆天下を取りたがるのかは……私には分からないけど納得したわ」


「そうだね。結局頼朝様の血筋が断絶するに至った全ての元凶の人物も似たような動機を持っていたみたいだから……きっとそういうものなんだろうね、僕にも分からないけど……。それで、ちょっと長くなるけど聞いてくれる? 多分今の話にも繋がると思うから」


「なんだ、のっけから随分と物騒だな……、詳しく聞かせてくれ」


「……うん。実は——」


 事の始まりは、とある一人の陰陽師が頼朝様を訪ねてきた事だった。河原(かわはら) 澄明ちょうめいと名乗った彼は次々と結果を残し、頼朝様はみるみるうちに他の陰陽師よりも澄明を重用するようになったんだ。あ、ちなみに彼も吾妻鏡を始め、どの資料にも名前は出てこないよ。


 澄明は出陣の日取り選定どころか戦での敵の動きも言い当てた。彼の名前も相まって、頼朝様は安倍晴明の再来だと喜んだ。それからますます彼に相談する事が多くなっていった……。


 それとは反対に、僕達は澄明の素性を怪しむようになった。彼の能力は本物だろうか。それとも頼朝様に言い寄る為に、なにか策を弄したのか。だけど彼は既に頼朝様にとって何者にも代えがたい存在になっていて、頼朝様に諌言した者は皆頼朝様の怒りを買うだけだった。


 ここでもう一人、中原広元という重要人物が出てくるんだけど……、え? ああ、そうそう。大江広元の事。広元は朝廷との繋がりが深くて、河原澄明という人物についてそれとなく都に問い合わせてくれていた。その結果、そんな人物は陰陽寮に存在しないという事が分かった。陰陽師は所謂(いわゆる)国家資格でね、都の陰陽寮には全陰陽師の情報が保管されていたんだ。そこに情報がないって事は彼はペテン師以外の何者でもない。


 広元の報告に、さすがの頼朝様も不審に思って、澄明を問い詰めた。それに対して澄明は「私の才を妬んだ者に罪をでっち上げられ、陰陽師の資格を剥奪されると共に都を追い出されたのです。ですから私は都への復讐を誓い、名を変えました。頼朝様へ仕えたいと申したのは、それが叶う可能性が最も高いと感じたからです。もし貴方様に仕える者としてこの感情が危険だと思われるのであれば、どうぞ放逐してください。ですがもし、私の才を惜しんでくれるのであれば、どうかこの想いを汲んではいただけないでしょうか」と、こうだよ。元々頼朝様も都に対してあまり良い感情は持っていない。むしろ「確かにそれだけの力量ならば妬まれても仕方あるまい」ってね。それでこの話は終わってしまった。


 だけどこれで終わりにしちゃいけなかった。なにがなんでも、あの時放逐すべきだった。いや、彼の能力を考えたら、どんなに無理筋だったとしても斬首にすべきだったと、今更だけど僕は思う。そうしたらあんな悲劇は起こらなかったんだから……。

※最近めっちゃルビの記号間違ってましたね、すいません。順次直します。感想読むの遅くなったのがバレてしまう……


最も、かどうかはさておき本当に15という数字は縁起が良いとされていたようです。

十五夜、七五三の合計数、元服の年齢(15才)、元々の成人式の日(1/15)、鬼宿日などなど……。


それはさておき、ようやくここまで来れました。今回は回想描写にしませんでした。役職?あざな?無理だなあ……。


ちなみにですが、本当は五章、六章辺りで出すはずだったエピソード一つ、すっかり忘れておりまして。もしかしたら「番外編」の形をとって次回投稿はそっちになるかもです。何故ならこの続きがすぐに書ける気がしないからです!!


裏で連載中の「国に飼い殺され続けた魔女、余命十年の公爵の養女になる? 〜養女契約のはずが、妻の座を提案されてしまった〜」もよろしくお願いいたします!全然更新出来てないけど!!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] あくまで私が昔読んだ資料の知識ですが。陰陽寮長官イコール陰陽頭で、正式な呼称ではないが陰陽寮のトップを指す呼称が陰陽師です。つまり元陰陽頭が複数人いることはあっても現役の陰陽頭は常に一人なの…
[気になる点] 陰陽師は陰陽寮長官の異名のはず、ゲーム内でなく現実の歴史絡みで表記するならば陰陽家など別の表記が適切でわ。
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