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239.作為と帰還

「ねえ洋士、今ちょっと良い?」


 僕達が連れ帰った男性との会話も一段落し、仲間の帰還を待っている間。ふと先ほど思った事について、洋士の意見を聞いてみたくなった。


「どうした」


「うん、あのさ。前に週刊誌とかテレビで吸血鬼の事、取り沙汰されたでしょ。それに横浜での戦闘映像もネットで広まったみたいだし。なんというか……、政府がなるべく穏便に他種族の存在を公表しようとしている傍らで、それとは逆の作為が働いている。……そんな気がしたんだけど、どう思う?」


「……ああ、そうだな。裏で誰かが動いているのは確実だろう。このご時世、ネットに流出しないなんて事はまず有り得ない。だが横浜の件については特殊だった。率先して動画を拡散したインフルエンサーの大半が、『情報を拡散した覚えがない』と後に声明を出している。自作自演だとか嘘だとか言われているが、誰かが意図的にアカウントを乗っ取ったと考えた方が自然だ」


「そうなんだ……知らなかった」


 多分洋士は意図的に教えてくれなかったんだろう。あの時はなるべく僕を戦いに巻き込まないようにしているみたいだったし。もしくは単に、ネット関連の話をしても通じないと思ったのかもしれない。


「それともう一つ。週刊誌の記事を書いた人物と、報道内容を差し替えたテレビ局員。どちらも既に死んでいる」


「……自殺……じゃないよね、きっと」


「だろうな。ただ、妙なのは死亡推定時刻だ。逆算すると記事を書いたり報道内容を差し替えたりした日には既に死んでいた、らしい。まあどちらも発見が遅れた事によるズレだと判断されたがな」


「……死体が動く……」


 何故だか、僕にはそれが偶然だとは思えなかった。取り戻した記憶。その中で、既に死んでいる人間があたかも生きているかの如く動いている事象を、この目で見たからかもしれない。


 他人を利用して状況を意のままに操る。その目的は一体なんなのか。吸血鬼に恨みがある者の仕業なのだろうか。それとも。


 今回の原因とあの当時の原因がもしも同じなら、僕に対する恨み、なのかもしれない。ただそもそも、未だ記憶を取り戻せていないせいで何故既に死んでいた者達が動けたのかは謎のまま。思い出そうとして思い出せるものでもないけれど、早急に思い出す必要はありそうだ。




 記憶の中で見た動く死体の話をするか否か悩んでいると、仲間が帰還したとの報告が入ってきた。洋士との話を切り上げてそちらへ行くと、見知らぬ人物も二人居る。


「腕に覚えがありそうなのが複数居たもんで手加減は出来なかったんですけど。なんとか二人、捕まえてきましたよ。おっ、蓮華さんとるなさんも無事でしたか」


「はい、おかげさまで。そちらに行くか行かないか迷ったんですけど、こちらも一人取り押さえていたので一足先に戻って来ました」


「なにか聞けましたか」


「ここに来た理由などは一通り」


「なるほど。それじゃ、尋問はお願いして良いですかね。さすがに無傷とはいかなかったんで」


「勿論、では後ほど」


 ぺこり、と僕達に頭を下げながら、六人は自衛隊員の元へと向かっていく。その背中を見送ってから改めて二人組の方へと視線を戻す。男女一人ずつ、年齢は二十歳くらいだろうか。一般的に西洋人の方が大人っぽく見えるようだし、もしかすると十代で吸血鬼になった可能性もある。


「あの二人は?」


 こちらがなにかを言うよりも前に口を開いたのは、女性の方だった。


「一人死亡、一人はここに居ます。今は失った両腕を癒着中です」


「うっわ、エグい真似するねえ」


 ニヤニヤと笑うその姿は、とても反省しているようには見えない。


「そうでもしないと無力化出来ないのですから仕方がありません。それに、見ず知らずの人をいきなり襲う人達に言われたくもありません」


 この女性には僕の片言英語がちゃんと通じるらしい。明らかに気分を害した様子ではあるものの、特に返答をしてくる事はなかった。


 僕は女性を、洋士とヴィオラが男性を尋問をして聞き出した情報は、先の男性の話を多少補足する程度だった。それどころか「日本に居る仲間」とは一度も会った事がなく、本名も性別も知らないと言うのだから驚きだ。きっかけはネットの……SNS?らしい。他種族の存在を語るコミュニティのようなものがあって、大半は「もし居たら」という妄想で会話をしているのが一目瞭然だけど、中には会話の内容から本物だろうな、というユーザもちらほら居るのだという。


「で、『貴方吸血鬼ですよね』ってある日突然個チャが飛んできて。え? 個チャ? 個別チャットの事だよ、おっさんそんな事も知らないの?」


 終始こんな調子なので——半分は僕のネットに対する知識のなさが原因だけど——、なかなか話が進まなかったけれど、要するにこういう事だ。


 突然連絡を取ってきた誰かは自分を日本人だと名乗り、もし日本に来る事があれば衣食住を保証する、と言ってきた。当然そんな怪しい提案に乗るつもりはなかったけれど、相手は構わず話を続けたらしい。


「エルフの集団がさー、日本に来たんだって? 結局のところさ、頻繁に食事をすると足が付いちゃう訳でしょ。私だって別に好きこのんで引っ越しを繰り返してた訳じゃないし。どうせもう家族なんてものはとっくに居ないんだから、試しに来てみようかなって。まあエルフに興味がないと言えば嘘になるけど、本当に衣食住を保証してくれるならもう引っ越ししなくて済むじゃん?」


 「まあでも、我慢の効かない馬鹿一人のせいでこのザマだけどさ」と彼女は締めくくった。更に聞いたところによると、その「馬鹿」含め今回一緒に来た四人プラス二人とは一切の面識がないと言う。なんでも五人は日本人吸血鬼からSNSで個別に連絡をもらっただけの繋がりのようだ。


「そんな妖しげな話に乗っかったのか……」


「だからさ、怪しいのは分かってるんだって。それでも、今の生活を脱却出来る可能性に賭けたかったんだよ。住む場所も名前も交友関係も仕事も頻繁に変えるなんて、だるいでしょ。仮に騙されてたとして、失うものなんてない。元の国に逃げ帰るか、殺されて楽になるかの二択」


 日本語で呟いた僕の独り言に対し、女性は日本語(・・・)で返答をしてきた。してやったり、という表情だ。なるほど、日本語に不自由しないのも決め手だったのだろう。


「話は分かりました。それでも海外に来て人を襲ったのは事実ですから、然るべき処分は受けてもらう事にはなると思いますよ」


「ま、そりゃそーだろうね。でもちょっと希望が出てきたよ。あんたら、人間と連携取ってるじゃん。私もそうやって堂々と生きるのが目標でさ。良いな、日本。知ってたらあんな馬鹿達とつるまないで、もっと早くに一人で来たのに」


 僕はその言葉に、なんと答えるのが正解だったのだろうか。こういう時、やっぱり僕は人との関わり合いが下手くそなままだな、と感じるのだった。

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