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235.緊急事態

 なにそれが好きだとか、ヴィオラが凄く目を引く美人で姿勢も良いから黎明社の雑誌部門の人が見たら絶対スカウトをしそうだとか、篠原さんと二人、他愛もない話をしている最中、携帯が震えた。洋士からの着信だ。


 篠原さんに操作をサポートしてもらいつつ電話に出ると、切羽詰まった声が耳に飛び込んできた。


「父さん、るなが襲われた! 海外勢だ! 実行犯は処理したが仲間に逃げられた」


「ふ、二人とも怪我は!? 今すぐ合流……いや、巡回……でも素手じゃ厳しいか……。どうすれば良い? 篠原さんも居るんだけど」


「二人がかりで一人を殺ったから怪我はしていない。が、どうやらるなが狙いのようだ。移動していたずらに被害者を増やすよりは、ここで迎え撃った方が良いだろう。直に自衛隊が到着するから、篠原さんと旦那さんは保護してもらうつもりだ」


「了解。場所は? すぐに行く」


「座標を送った」


 言うや否や、通話は一方的に切れた。僕の様子からなにかを感じ取ったらしい篠原さん。不安げな表情でこちらを窺っていた。店員さんと篠原さんに断りを入れてから、持参した血液パウチを追加注文したケーキと共に流し込んだ。その間にもなるべく篠原さんが不安にならないよう落ち着いた声音を意識しながら状況を説明。もっともそれは杞憂だった。今にも吐き出しそうな僕の様子に、恐怖よりも心配の度合いが上回ったみたいで。


 洋士が送ったという座標の見方がよく分からなかったので、道案内は篠原さんへ任せ、僕は周囲を警戒しながら合流地点へ。身体能力が向上しているとはいえ、武器もない状態で人一人守りながら歩くというのはなかなかに骨が折れる作業で、さして距離が離れている訳でもないのに、合流する頃には精神的にだいぶ消耗をしていた。


「来たか。とりあえず武器はこれを使ってくれ、許可は取ってある」と洋士に手渡されたのは、自室に飾っていた刀のうちの一つ、太刀だった。


「出掛ける前に念の為と思って持ち出してきたんだが……問題ないか? なるべくGoWで使い慣れてる種類の方が良いかと思ったんだが」


「うわあ、ありがとう! 良かった、丸腰じゃ不安で不安で。……それで、相手についてなにか情報は?」


「少なくとも二人。それから真っ昼間でも平気なところをみると、原初の人々ではなさそうだ」


「新手って事か……。厄介だな」


 単に拠点を日本に移すつもりで来たのか、それともエルフの集団が移住したと噂を聞きつけてやってきたのか。原初の人々だけでも手に負えないというのに、その上別の吸血鬼まで現れたとなるとかなり厳しい。それでも、ヴィオラを襲った以上人間やエルフといった種族と共存する意思がない事は明白、放置は論外だ。


「いずれにせよ、やる事は一つだ」


「うん。……でも既に僕達の存在は公表されてる。今までみたいに秘密裏に片付ける訳にはいかないよね? 生きたまま無力化するのってなかなか難しいけど……」


「昨日、『種族間危害防止及び共生推進に関する国際条約』……通称『種族共生条約』が発効されたのは知ってるな。たった今、日本でもその条約の内容に則った法律が可決された。異例ではあるが、可決、公布、施行日全てが今日付になっている。るなを襲った吸血鬼は既に公敵判定され、国民の生命を第一に一級危険生物として排除許可が出ている」


「え、本当に……? こう言ったら失礼だけど、随分と動きが早いね? 国際条約の方でだいぶ議論が巻き起こってたからもっとかかると思ってたよ」


 テレビを見た限りでは、いくつか記載されていた条約のうち「他種族に対する危険行為の明確化と排除規定」と「社会復帰プログラム」が矛盾するんじゃないか、という議論が一番大きかったはずだ。


「現行法と平均的な判決結果を鑑みた場合、殺人に対してもよほどの残虐性でもない限りは懲役刑。にもかかわらず吸血鬼が人を襲った場合、問答無用で排除をするのか? それなら社会復帰プログラムはなんの為に定めたのか」という意見や、逆に「人間を食料としてしか見ていない人物に社会復帰の機会が与えられるなんておかしい」という意見が大きなところだったはず。後者の意見に対して「豚や牛を自分達の都合で殺して食べる人間となにが違うんだ? この世は弱肉強食だ」という発言をした有名人は「じゃあお前も食料にされてみろ」と切り捨てられていたっけ。


 そんな状態で国内法が可決、それどころか施行までされるとは思っていなくて、正直聞き間違いかと思ったくらい。


「なに、とっくの昔に水面下で各国の代表が話し合って、国際条約の発効も国内法の内容も決まってたんだ。勿論、今巻き起こっている議論も織り込み済みだ。だが結局、弱肉強食発言が炎上した事で分かる通り、皆我が身が可愛いに決まってる。危険を野放しにするならともかく、守る為の条約なんだから沈静化も早いだろうっていうのが上の人間の考えだ。国民の危機感を煽る為にあえて他種族の存在公表タイミングも人狼吸血鬼の出現に合わせた側面もあるからな。今日の国内法施行についてもそう。さすがに昨日の今日で発表する予定はなかったが、良くも悪くも、条約に当てはまる事態が起こったから無理やり施行した。多分今日の戦闘はマスコミがこぞって報道するぞ」

戦闘シーン終わったと思ったらまた戦闘シーン始まりそうで泣いてる()

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