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226.逃亡の理由

 領主の館を見た僕は、やけに立派だな、という印象を受けた。城壁も石畳もなにもかもボロボロなこの町の中で、明らかにこの建物だけが浮いている。有事の際の住民の避難場所にする為に頑丈な作りにした……とかだろうか。


 ギルド職員さんもとい、ギルドマスターの案内で領主の館の中を一通り案内してもらった。直近まで人が住んでいたので、状態が悪かったりかび臭かったりという事はない。ただ、慌てて出て行ったのが分かる程度には物が散乱している。


「昨日ざっと確認した限りでは、宝石類などの金目の物や必要最低限の日用品だけを持ち出したようで、図書室の書籍は手付かずに見えました。きっと書籍はかさばるので断念したんでしょうね。量が量ですから、どれが値打ちの物か判断出来なかった可能性があります」


「そこまでして慌てて出て行く必要はあったんですか? 今回の襲撃から身を守れそうになかった、という訳ではないですよね?」


「執務室の机の上に、王室の署名が入った手紙がありました。法外な税額を住民から取り立てている事が調査で発覚した為、近々裁判を開くと。その為に法務官が領主を迎えに来る段取りになっていたようですが……」


「ああ、逃げたんですね」


「ええ。元々ギルドがフィロティスから撤退しなかったのは、領主の強い要望故です。ですがゲート使用料もタダではありません。ギルドへの支払いが嵩む一方で住民は減り続けていた訳ですから、税金をどんどん跳ね上げたみたいですね。恐らく逃げ出した住民から漏れたのでしょう。諸々全ての責任から逃れる為に着の身着のまま逃げ出したんだと思います。まあ、逃げ切れるとは思えませんが……」


 ギルドマスターはどこか他人事のような口調で——事実、ギルドは自治権を持った独自機関なので他人事ではある——、フィロティスの状況と領主の逃亡についてを説明してくれている。


「領主が逃亡した旨を王都のギルド経由で報告したところ、次の領主を任命するまでの期間限定で、と王室直々に私へと依頼があった為、領主代理を引き受けた感じです。ですが調べれば調べるほど酷い有様で……。現状をまとめた資料がなにもないものですから、次の領主に引き継ぐべき資料作りに追われている感じですね。その腹いせに……じゃなくて、先日の襲撃対応時の報酬も貰っていませんでしたし、今回の分も合わせてこの館をギルドが押収した、という感じです。

 ギルドとしては、次の領主相手に館を売却したのちに撤退、が目標ですが最近は襲撃頻度も上がっていますし、解決しない事には撤退出来ない恐れもあるので、今回ご依頼した次第です。いつまでも近隣ギルドに頼りっぱなしという訳にもいかないので、私からも再三、襲撃理由の解明や町の復興計画を立ててほしいと、領主には伝えていたのですが、それらしい資料も全く見当たりませんでした」


「ギルドの方で調査はしていなかったんですか?」


「ギルド側へは襲撃があった時の対応依頼だけで、調査依頼はなかったので……。ここの支部にもっと人が居れば依頼がなくとも調査したんですが、そもそもが所属冒険者ゼロですからね……。さすがに私がギルドを離れる訳にもいかず。ご存じの通り、先日研究者がやってきた際も、領主には進言したんですよ? 無視されてしまいましたが。ちなみに、襲撃自体は百五十年前から続いていますが、フィロティスがここまで酷い状況に陥ったのは今の領主に代替わりしたここ十年くらいの話みたいです。それまでは近隣の町へ助けを求める事もなく、フィロティスの兵士と冒険者だけで解決出来ていた……、とギルドの先達からは聞いています」


「なるほど、お話はよく分かりました。ここ最近以外はきちんと対処出来ていたとの事ですし、過去の記録などは残っていそうですね。……早速図書室を調べてみます」


「ありがとうございます! 私は現場に戻りますので、なにかあればお知らせください」


 ギルドマスターの後ろ姿を見送ったあと。改めて図書室に戻り、上階まで吹き抜けの天井にもびっしり収まった書籍の数にめまいを覚えそうになった。


「それじゃあサクッと解決……したいところだけど、こんなに広い図書室から該当の書物を見つけるのは大変だなあ」


「ぱっと見た感じはジャンル毎に並んでいるみたいね。領主の日記やこの土地に関する記録……、あと、国に押収されてなければ帳簿の類いかしら。とにかく手分けして探しましょうか」


「うん。あと……重要書類はこっちじゃなくて執務室とかにあるかも。アイン、探してもらっても良い?」


「分かった!」


 僕の言葉に嬉しそうにバタバタと駆けていくアイン。生前同様走れるようになったのが嬉しくてしょうがないみたい。




「……歴代領主の日記を見つけたから読んでる。そっちはどう?」


 僕の問いかけに、ヴィオラは書籍から目を離す事なく返答を返してきた。


「領地内の事業記録を見つけたわ。異変が起き始めたという百五十年前辺りを中心に目を通しているところよ」


「こっちは子供達が賢いとか可愛いとか、関係ない事が多すぎて大変。まあ日記だし当然と言えば当然だけど……」


「今のところ関連がありそうな事業で気になるのは、下水工事かしらね……。うーん、この工事で大事な根を傷つけられたから恨んでるとか……?」


「最近襲撃頻度が上がったって言ってたよね? となると、根を傷つけられただけ……って訳でもなさそう。現在進行形で根が傷つけられてるのかな? ……それっていつ頃の話?」


「ええと、帝国歴256年11月26日着工らしいわ。……完成は……翌年1月24日になってる」


「帝国歴256年……、ああ、この年に先代領主が急死して息子が跡を継いでるみたい。で、その人の初事業が下水工事っぽいね……。うん? 257年2月4日に、突然植物が襲撃してきたって書いてある。書きっぷりからして、多分これが初めての襲撃じゃないかな……」


「それじゃ、やっぱりこの工事が襲撃に関係してそうね? もう少し詳しく調べてみましょうか」

裏で連載中の「国に飼い殺され続けた魔女、余命十年の公爵の養女になる? 〜養女契約のはずが、妻の座を提案されてしまった〜」もよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 下水工事とは意外とインフラしっかりしとりますな しかしダウジングはなかった模様 水道管に穴あけちゃうような業者さんだったんだなー><
[一言] 更新有難う御座います。 ……全力疾走する骨かぁ……。
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