表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/316

Side:ナナ編

天長という年号が既にあるとのご指摘をいただきまして……年号大募集です(調べたはずなのにおかしいなあ、ぽんこつか?)

昭和(S)平成(H)令和(R)以外の頭文字でで、感想などでご意見お待ちしております<m(__)m>


年号決まりました!ありがとうございます!


2022/10/28 サブタイトル修正しました。ニナ誰やねん……

 ――愚かだと思うでしょう。


 「え?」隣に居る――姿は見えないけれど、空間が揺らいでいるので居ると思われる――ペトラさんが突然話しかけてきたので、私は間の抜けた声をあげてしまった。


 ――婚約者のいる男性にしつこく迫った挙句、死んで。私を、愚かだと思っているでしょう?


「愚か……まあそうですね。でも、それ以上に色々と思うところはあります。愚かの一言で片付けたくはありません」


 先ほどからずっとペトラさんに感じていたことを、感情的にならないよう努力しながら告げた。


 ――そう。そうよね。さっきあなたのところの分隊長だったかしら? 彼に色々言われて、今更だけど少し考えていたの。私は、お父様と対峙する前に、自分自身の行いと対峙する必要があるのではないかと……。だから、あなたが私に何を思っているのか話してくれないかしら。


「じゃあ……。正直に言いますが怒らないでくださいね。先ほどから見ていて感じたのは……、貴方はマークさんが亡くなったことに対してしか何も感じていないんだな、と言うことです。マークさんが子爵に殺された。それが事実なら、子爵を許せない。それ位しか伝わってきません。他に思うことはないのでしょうか。


 ……私の父は事故で亡くなりました。浮気相手との旅行中にです。母は思うことがたくさんあったと思います。でも、私はまだその時幼かったので、単純に”見知らぬ人に自分の大切な家族を奪われた”という悲しみと憎悪が入り混じった感情をずっと抱えていました。でも、その見知らぬ人も事故で亡くなっていて、責めることすら出来なくて、とても辛かった。


 立場や状況は全然違いますが、ドロシーさんや、マークさんのご家族は同じことを感じたと思います。貴方に突然マークさんを奪われて、でも元凶の貴方は既に亡くなっている。誰を責めれば良いのか分からない。もっと酷いことに、貴方の父親は子爵……貴族です。慰謝料すら貰えないでしょう。むしろ娘をたぶらかしたとか、逆恨みで色々言われた可能性も十分考えられます。……私の母も相手の家族に散々責められましたから。


 貴方は、そんな人たちのことを考えたことはありますか? 少しでも、申し訳ないと思いましたか?


 正直な話、少しでも後悔していれば、今この状況にはなっていないと思います。アンデッドを大量に引き連れて、王都の人たちも巻き込んで。


 今東門で戦っている人たちが全員無傷だと思いますか? アンデッドが出た影響でここしばらく、王都は食糧難でした。餓死した人が一人も居ないと思いますか?


 貴方はきっと、森で誰にも供養されず、苦しんだんだと思います。だから悪霊になったのだと。でも、そうなった原因も少しで良いから考えてみてください。どうして誰も貴方を楽にしてあげなかったのか。どうして森に放置されたままだったのか」


 ゆっくり、丁寧に話すつもりだったのに、話している内に昔のことを思い出して、感情的に一気にまくし立ててしまった。しまったと思って口を閉じるが、ペトラさんは沈黙している。


 どうしよう、怒っただろうか。もしこれが現実であればただの喧嘩で済むけれど、今はゲーム内の大規模イベント中。私の発言が原因でペトラさんが暴れて、クエスト失敗なんてこともありうるのだから気を付けなければ、とわかっていた筈なのにやってしまった。


「あ、えぇと……」とフォローすべく、私が口を開いた直後、ペトラさんはゆっくり話し始めた。


 ――森に居たとき、私は……。どうして私だけ誰にも見向きもされず、祈りを捧げてもらえないのかと、恨みながら他の人の遺体を見ていたわ。森で考える時間なんか山ほどあったのに、私はずっと「悔しい、苦しい、悲しい」と自分自身を憐れむだけだった。


 ――でも、そうなった理由があったのね。自分の行いを考えれば、当然のことだったのよね。私がずっとお父様にされてきたことを、私もまた、他の人にしてしまっていたのね。


 ――皆にどう思われていたのか。私の行いがどういう結末をもたらしたのか。今更、本当に今更だけれど、何が悪かったのか気付けた。あなたと話せて、本当に良かった。


 ――……門の外に戻りましょう。マークのことを知りたいからと入ってきたけれど……今更ご家族に合わせる顔なんてないわ。会って謝罪するのもありだけれど……、かえって刺激してしまう気がするし……。


「そう……そうですね。会うべきなのか、会わない方が良いのかは、どちらが正しいかは分かりません。それなら、そっとしておくのも一つの選択だと思います。……戻りましょうか」


 私とペトラさんは、補給部隊からカモフラージュの為の物資を受け取ってから来た道を引き返し始めた。


 もしかしたらドロシーさんやマークさんのご家族は、ペトラさんと直接会って、責めるなりした方が前を向いて生きていけるのかも。でも、すでに吹っ切れていて、新しい人生を歩んでいる可能性もある。そうなったら、ペトラさんの来訪が混乱を招くだろうな、って。


 もし仮に今、父と一緒に亡くなった女性が私に会いに来たとしても、私はどんな顔をして会えば良いのか分からない。だから、会わないのも一つの選択だと思ってペトラさんの意見に同意した。


   §-§-§


「分隊長、戻りました」


「あれ? お帰り、随分早かったね?」


 ――彼女と話していて、自分がしていることがどれだけ自分勝手なのかが分かった。だから確認せずに戻ってきたの。


「そうですか。それで、結局どうするか答えは出ましたか?」


 ――お父様……マカチュ子爵に関しては、今回のことに限らず、どうしても許すことが出来ない。私なりのけじめをつけたいから、子爵との対面について許可して欲しいわ。マークには……、もともと何もする気がなかった。ただ、私のことを忘れないで欲しくて、勝手だけど私の装身具を渡したかっただけ。マークがもう居ないと分かった今、何も望むことはないわ。それから、アンデッドに関しては私が消えれば元の死体に戻るでしょう。だからもう少しだけ、待っていてちょうだい。


「そうですか。子爵に関しては……、親子喧嘩に私たちの許可は要りませんよ?」


 ――親子喧嘩、ね。ありがとう。ああ……最後に一つだけ。私が今ここにこうしているのは、私の意志ではないわ。……と言うと語弊があるかもしれないけれど……私一人の力でこんな事態は引き起こせない。


 ――私の憎悪感情を肥大化させて悪霊化させ、アンデッドを大量に森に召喚したうえで、私に操る力を授けてくれた人物が居るのよ。多分ネクロマンサーだと思うけれど……その人が何を考えているかは分からない。ただ、この世界にとてつもない恨みを持っているようなことを言っていたわ。だから、この先も似たようなことが起こるかもしれない。それだけは覚えておきなさい。


「ネクロマンサー……真の黒幕、と言うことですね。覚えておきます。ご忠告、ありがとうございます」


 ――じゃあね。少しの間だけど、久々に人と話せて楽しかったわ。それと、これをあげる。


 そう分隊長に告げて、ペトラさんはまた門の方面――子爵の元へと進んでいった。


 分隊長は何を貰ったのかな。聞いてみたい気がしたけど、アンデッドがまだそこかしこに居るせいで、会話もままならない。


「じゃあ皆、ご令嬢と子爵の喧嘩が終わるまで、あとちょっと頑張ろうか」


 にこにこと笑いながら分隊長は言う。喧嘩の結末がどうなるか分かってるだろうに軽く言ってるあたり、爽やかさとは程遠いなあ、と思って、アンデッドに斬りかかりながら私は思わず笑ってしまった。まあ、分かっていて目をつぶっている私たちも同罪なんだけどね。


 だってやっぱり、私は子爵を許せそうにない。一方的にお母さんを責め続けて、多額の慰謝料まで要求してきた不倫相手の夫のように。

「面白い」「続きが気になる!」などございましたら

いいね・評価・ブクマ・レビューなどよろしくおねがいいたします!

皆さんの感想は今後の展開などの参考になり、大変助かっております。

今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2024年4月20日2巻発売!

吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

二巻表紙


1巻はこちら

― 新着の感想 ―
[気になる点] ナナってどこの話で出てきたの…? 読み返したけど自分じゃ分からない
[一言] うわ~ 不倫相手の夫、最低~ 浮気されるようなことをしていた自分のことは棚に上げて~
[良い点] 〉親子喧嘩に私たちの許可は要りませんよ? いい言い回しだ(*´∀`*) 次回! 子爵死す! [一言] 令嬢、母親がどうしてるかは不明なれど、少なくとも父親ガチャは大外しだったか。 その結果…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ