225.暴走植物
「まさかこんなにタイミング良く植物が暴走するなんて……」
「一度も戦った事がないモンスターで練習したい」というアインの注文を叶えるべく、テレポートで向かったのはバルティス共和国の町、フィロティス。
セルヴァリス子爵の問題で立ち寄ったものの、町とは思えぬほど寂れていた場所だ。
ここならシヴェフ王国で見かけなかったモンスターもそれなりに居るし、人目にもつきにくいから丁度良い、と選んだ訳だけど。
幸か不幸か、話に聞いていた暴走植物による、襲撃真っ只中だった。
慌てる僕とは対照的に、アインは「バフを活かせる!」と嬉々として参戦。突然のアンデッド出現に応援に来ていた冒険者達は驚いた様子だったけど、例の救国の英雄という二つ名のお陰でむしろ「バルティス共和国へ移籍するのか!?」と大盛り上がり。クランクエストの為の嘘がどんどん大ごとになっている気がしてならない……。
「本当に植物が二足歩行して襲ってくるのね……」
隣で呟いたのはヴィオラ。テレポートを使う以上、すぐに帰れない可能性を考慮して連絡したら、一緒に来る事になったのだ。
ついでに「っていうか蓮華くん、クランハウスのテレポート機能の事忘れてない?」とお小言までもらってしまった。そういえばそんな機能もある、と前に説明をされたような。完全に忘れてた……。
「セルヴァリス子爵も気にしてたから、なるべく情報を持ち帰れるように頑張りましょうか」
「あんな事があったんだから暫くは外出禁止よ!」とイヴェッタ嬢に言われてしまい、セルヴァリス子爵は邸宅に軟禁されている。暴走植物についてはだいぶ気にしていたものの、当然フィロティスに来る事は出来ていない。
子爵は、この町自体か、或いは住んでいる人々に、この植物たちがフィロティスを襲撃する原因があると疑っていた。町の人口は減る一方、となると場所そのものに原因がある可能性が高いかな?
「一体一体の戦力自体は大した事ないけど、段々回避が上手くなっているような……」
「地中深く、根で繋がっているだけで一つの個体、って可能性もあるかしらね? こちらの攻撃を受ける度に分析して、他の個体に共有してる、とか」
「うわあ、それは厄介だ。……これがいつから起きているのかは分かんないけど、先日話を聞いた限りだと襲撃してきた植物に対処するだけで、抜本的解決の為の調査はしてないみたいだった。町の様子を見る限り納得だけど。だけど執拗にここだけを狙うなら、やっぱり原因は突き止めるべきだよね。……元が一つの個体なら、全植物がフィロティスを狙う理由も納得がいくし」
「ひとまず倒した植物は全部セルヴァリス子爵に調べてもらいましょうか。同じ個体かどうか分かるかもしれないし」
ヴィオラの言葉に頷き、「まずは倒した植物を確保してしまおう」と他の冒険者達と力を合わせ、植物達相手に格闘した。心配になって時々アインの様子を確認しているけど、進化しただけあってこの程度のモンスターであれば囲まれても余裕そうだ。きっと今までなら植物の動きについていけずに転んでいただろう場面でもしっかりと対処が出来ている。身体能力が上がったのか、自己強化魔法のようなもので移動速度を上げているのか。もし後者なら僕も習得したいし、今度アインに教えてもらおうかな。最近あちこち移動してばっかりで全然シモンさんの所へ行けてないし。
大きな波が去ったのか、目に見えて植物の数が減ったところで、先日話をしたギルドの職員さんから声をかけられた。
「シヴェフ王国を拠点とする冒険者、蓮華さんとヴィオラさんですね。折り入ってお話があります」
「はい、なんでしょうか?」
「今我々が行っているのは、あくまでその場しのぎの対処でしかありません。ですが、いつまでもこんな場当たり的な方法を取り続けるのは問題です。……バルティス共和国フィロティス支部から正式に依頼します。暴走植物の原因を解明し、恒久対処を行っていただけないでしょうか。どうか……、シヴェフ王国同様、フィロティスをお救いください」
予想外の言葉に僕とヴィオラは顔を見合わせた。アインのバフが切れるまでの軽い運動のつもりが、長くかかりそうな予感がする。
「どっちにせよ気になってたし、私は良いわよ。蓮華くんは?」
「まあ、この話を聞くのは二回目だし。素知らぬ振りして帰るっていうのも……ね。分かりました、お受けします。それではまず、詳しい話をお聞かせいただけますか? 例えばこの襲撃がいつ頃始まったのか、とか……」
「およそ百五十年前頃からだと聞いていますが、具体的な事は……。見ての通りここは既に町としての機能を失っています。住民の大半も近隣の町へ移っていますし、残っているのは理由があって移住出来ない者か、我々冒険者ギルドの関係者くらいです。我々ギルド職員は数年単位で各地を異動しますから、事情に詳しい者は皆無と思っていただければと。……その代わり、お二人にはこの町で自由に行動していただいて構いません。例えば、今からご案内する領主の館を隅から隅まで調査していただくのも勿論問題ありません。そこなら当時の資料が残っているかもしれませんしね」
「りょ、領主の館ですか? 良いんですか、勝手に決めちゃって」
「はい。数日前、ついに領主一家もここを放棄して逃げ出しました。今は冒険者ギルドフィロティス支部ギルドマスター……私が領主代理ですので問題ありません」
さくっと東行くはずが何故か寄り道しちゃうんだよなあ……。
裏で連載中の「国に飼い殺され続けた魔女、余命十年の公爵の養女になる? 〜養女契約のはずが、妻の座を提案されてしまった〜」もよろしくお願いいたします!