223.骨密度上昇
「僕は蓮華さんと一緒に冒険を続けたい」
ログイン直後、目が合った途端にアインはそう言った。
いきなりの事に色んな意味で驚いたのは言うまでもない。いつから喋れるようになったの? 本当にドロシーさんを置いて冒険に出て良いの? いや、それ以前にちょっと見た目が変わってない……?などなど。
「えっと……、勿論アインが居れば心強いけど……。僕のテイム契約枠を気にして言ってるなら、気にしなくて良いんだよ?」
アインがドロシーさんと二人で過ごしていく事を選んでも、僕とのテイム契約は解除出来ない。何故なら野良スケルトンは討伐対象だから。だけどアインの性格上、なんの見返りもなくテイム枠を消費するのをヨシとは思わないはず。それで冒険を続ける、と決断したのかなと思ったのだ。
僕の言葉にアインはふるふると首を横に振った。
「勿論ドロシーの事は今でも大切に思っている。だけど目覚めてから今まで、スケルトンになってしまったんだと否が応でも自覚する場面はたくさんあった。すっかり変わり果てた僕が彼女の人生を奪うなんて、許されないよ。それに正直……今は蓮華さんともっと一緒に冒険してみたいなって、わくわくした気持ちの方が強いんだ」
「本当に良いの? 後悔しない?」
「うん……、ドロシーにもありのままの気持ちを打ち明けたんだ。戻って来てくれただけで嬉しい、冒険者という職業も含めて貴方を愛したんだから、私には遠慮しないで、って言ってくれた……。あ、王都に戻ってきた時は彼女の家で過ごしたいんだけど、許可してくれるかな、蓮華さん」
スケルトンの顔色が変わるはずないんだけど、なんとなく耳まで真っ赤にしているように見えて僕は笑ってしまった。まさかここでこんな特大の惚気話が返ってくるとは思わなかったのだ。あれだ、これ以上確認してももっと凄い惚気話が出てくるだけな気がするし、彼らの選択を尊重しよう、うん。
「勿論だよ。……ところでアイン、なんで急に喋れるようになったの? 声帯は……ないよね。それに見た目もだいぶ変わったみたいだし」
今までは普通によく見る白骨死体という感じだったけど、今のアインはなんというか……、体型こそ変わってないけど、全身の骨にうっすら文字が刻まれているし、質感も滑らかでとてもただの骨には見えない。
「僕も詳しい事は分からない。だけど記憶を取り戻したタイミングで多分進化……したんじゃないかな。今はスケルトンじゃないと思う。風魔法で空気を振動させて発音してる、って感じかな? 人間だった時にも魔法は使ってたんだけど才能がないのか、呪文が必須で。スケルトンに生まれ変わって以降もそれが理由で使えなかったんだけど……今は無詠唱で使える。魔力量も増えてる感じがするし、人間の時よりも強くなったんじゃないかな」
アインの言葉に僕は軽く頷いてシステムメニューを呼び出した。『キャラクター』>『テイム』と階層をくだり、『アイン』の項目を選択する。
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盾派生
└大盾:29204 盾装備時のヘイト上昇(小)
近接派生
└槍:25389 槍装備時の貫通力上昇(小)
魔法
└魔法:15454 魔法発動時の消費MP軽減(極小)
種族
└スケルトン族:5000 骨密度上昇、骨構築
└ルーンボーン・ガーディアン:100
種族特性:不死、再生、状態異常無効
特殊事項:神聖魔法耐性
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「ルーンボーン・ガーディアン……? 確かに凄そうな種族になってるね」
確か前に見た時はただの「スケルトン族」だった気がする。アインの言う通り進化?派生?したようだ。ルーンボーン・ガーディアン……全く聞いた事がないからどんなものか想像がつかないけど、少なくとも魔法技能が飛躍的に向上した、って事だよね。一方でガーディアンって事は盾を使った戦い方にも特化してそう。
「ん……?スケルトン族の熟練度の横になんか書いてあるんだけど……。骨密度上昇と骨構築……?」
≪骨密度www上昇www≫
≪森で戦った時よりも更に強くなったんかw≫
≪もう刀じゃ倒せそうにないな……≫
≪これ蓮華さんの発言に運営が悪ノリした……?≫
骨密度に対して視聴者さんが異常なまでに盛り上がっている。ああ……そういえば初めてアインと戦った時、骨密度がどうとか口走った気がする。皆本当によく覚えてるなあ。
それはそれとして。
「骨構築ってなんだろうね? アイン、分かる?」
僕の言葉に少しだけ首を傾げるアイン。記憶を取り戻したり、進化したりと色々あっても変わらない仕草に一安心していると、「分かった!」とアインが声を上げた。
「えいっ!」
そんなかけ声と共にアインの手の平に現れたのは……、小さなスケルトン? こちらを見て大きく手を振っている姿が凄く可愛い。つられて僕も手を振り返しておく。
「こんな感じで自由自在に骨を操れるみたい。この子が見てる景色は僕の脳内にも伝わってくるから、小型偵察兵にしたりとか? あとは……武器にしたり」
言うや否や一本の長い骨をどこからともなく取り出すアイン。先端は鋭利になっており、普段使っている槍の代わりになりそうだ。
「へえ、凄いね!?」
「まあデンハムが作ってくれる装備が一番手に馴染むし、これはあくまで緊急時かなあ……。骨を構築するっていっても無からじゃなくて、あくまで僕の身体を削って作る感じだから大盾みたいな大きなものは作れないし。うーん、おまけ程度かな。むしろ僕にとっては魔法が使えるようになった事の方が重要だね、今までは魔法が使えなくてヘイト集め一つ満足に出来なかったからさ。これからは期待してくれて良いよ、蓮華さん!」
なるほど、アインが冒険を続けたいと言ったのはどうやら色々と出来る事が増えた事に起因しているみたい。まあ、種族特性の不死や再生があるからドロシーさんやデンハムさんも多少安心して送り出せるだろうし、本人が望んでるなら良いのかなあ……。
ちょっと間あいちゃってすみません!7章と8章途中までの各話のプロットの作成が完了したので、これからはさくさくと書ける、はず……?まあ戦闘シーンとか入ったらまた詰まると思うんですけど()
裏で連載中の「国に飼い殺され続けた魔女、余命十年の公爵の養女になる? 〜養女契約のはずが、妻の座を提案されてしまった〜」もよろしくお願いいたします!





