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222.打ち上げ

実は大御所作家の長野さんのセリフ、ずっと書いてみたいと思って温めてたアイディアだったりします。

 幸い、周りに聞こえるくらい大きな声で「人外でも関係ない」と言ってくれた男性のお陰で、それほどの混乱もなく、そして列が途切れる事もなくサイン会は終了した。


 そして今、人生初の「打ち上げ」に参加している。勿論洋士達には連絡済みだ。


「それじゃ、次……、蓮華先生自己紹介お願いします」


 席順に自己紹介をしていく中、ついに僕の番がやってきた。


「はい! 蓮華陽都です、主に時代小説を書いています。よろしくお願いいたします!」


「よろしくー」


「いやー、蓮華先生がこんなにお若い方だとは思ってなくて、ちょっとびっくりしてますよ」


「そうそう、しかもイケメンだし」


「いや、全然」と否定する僕に男性陣が「否定するな、俺達が辛い」と渋面を作っている。ええ? 顔立ちなんて大して変わらないと思うんだけどなあ……。


「ところで蓮華先生、今日は大丈夫でした? おかしな人達が来ていたようですけど」


「ええ、スタッフの方が対応してくださいましたし、問題ありませんでした。その節は皆さんにもご迷惑をかけてすみません」


 頭を下げる僕に、何人かが「大丈夫だよ」と声をかけてくれた。


「蓮華先生のせいではないですし謝る必要はないですよ。……でもまあ、ああいうのは暫く続きそうですね。作家に対してだけじゃなくて、芸能人とか……ありとあらゆる人に対して」


「芸能界では既に結構あるみたいですよ? ほら、やっぱりあの業界って見た目が若々しい人多いから……人外なんじゃないか、って難癖が」


「実際のところ、皆さんはどう思います? 僕らは職業柄、ファンタジーな種族には縁があるんじゃないかと思いますけど。やっぱり現実とファンタジーは違う、ってなります?」


 それまで流れるように会話が弾んでいたのに、この質問に対しては皆「いやあ」とか「うーん」など悩ましそうな声を上げるだけで、一向に答える気配がない。中には僕の方をチラチラと窺っている人も居る。


「いやー、俺はむしろ自分が人外……長命種だったら良かったのにって、思う時があるよ」


 そう口火を切ったのは言ったのは、押しも押されもせぬ超有名作家の長野さん。出す本出す本、常にヒットを飛ばしている大御所作家さんだ。


「……というと?」


 続きを促したのは、最初に質問を投げかけた作家さん。他の作家さんも長野さんの理由が気になるようで、輪に入らずに近くの人と話しこんでいた人達もいつの間にか口を閉じていた。


「この年になると、長編シリーズを書く時に逆算するんだよね。死ぬ前に完結出来るのか、とか、何冊くらいなら絶対に書き上げられるかな、とかさ……。長命種ならそういうの、考えなくて良いじゃない。どんなに壮大なスケールの作品でも思いっきり、思いついたタイミングで書き始められる訳だよ……、俺からしたら羨ましいね」


「ああ……」と頷いたのは、同じく大御所作家の横江さん。


「分かるわ。私もね、夫が死んだ時に思ったのよ。ああ、人はいつか死ぬんだな、って。そんなの当たり前の事なのに、夫が亡くなるまでピンと来てなかったのよね。それでふと思ったの。あれ、私この作品完結させる事が出来るのかしら……って。そう思ったら今まですらすら書けてたのに、急に書けなくなったんだから笑っちゃうわよね」


「いやいや、お二人ともまだまだいけるでしょう?」


 比較的若い人達が笑いながら流しているけど、二人とも首をゆっくり横に振って否定した。


「そりゃね、あと十年は生きると思うわよ。でも作品が十年で完結するか分かんないじゃない。この先病気になって、ペースが大幅に遅れる可能性だってあるし。実際、一シリーズ完結させるのにそれ以上の年月かかった人もこの中には結構居るでしょう? 若いから出来る事なんだって、今のうちに自覚しておくと良いわよ」


 長野さんと横江さんの発言に、一瞬場がしん、と静まりかえり、それから一人、また一人と頷き始めた。


「肝に銘じます。……が、それ以前に十年も作家続けられるか分かんないですけどねー……」


「あー俺も俺も」


「分かる」


 ここに居る人達はサイン会に呼ばれるくらい売れているのに、そんな事を心配しているなんて。


 ……もしかして僕、恵まれすぎてた?


 体質が体質だったから外に働きに出る訳にもいかなくて、新たな身分証を貰う度に作家としてデビュー。年齢が誤魔化しきれなくなってその人生に幕を引くまで、ずっとそんな感じで書き続けて。「売れないかも」「生活出来なくなるかも」なんて一度も考えた事がなかった。


「長命種じゃない人外も居るでしょ? そういうのは?」


 僕が内心焦っている間にも、話はどんどん進んでいく。気付けば再び人外種についてどう思うか、という話題に戻っていた。


「やー、別に僕は興味ないかなあ。いや、創作の題材って意味では興味あるけど、知り合いが人間かそうじゃないかってそんな気にする事? どちらかと言ったら犯罪者かそうじゃないかのが気にならない? 詐欺とか誹謗中傷とかさ、身近に結構あるじゃん」


「まあでも、世間で騒がれてるのって、人外イコール犯罪者ってイメージが強いからじゃないですか? 人狼とか吸血鬼とかは人の命を奪うイメージがありますし。まあそのイメージが定着しちゃった一端は僕らにあるんですけど」


「だとしたら世も末だけどなあ。だってそれって創作物と現実の区別ついてないって事だろ? 例えば殺人鬼役をやった俳優を殺人鬼だと思い込んで毛嫌いするようなもんだぜ? ヤバすぎるだろ。創作物はあくまで創作物だ、そこを俺達のせいにされても困る」


「はは、林さんこの間まで吸血鬼ハンターが主人公の話書いてましたもんね。そりゃ責められたら困る」


「俺が言ってるのはそう言う事じゃないだろ!」という林さんの拗ねた声に、周りの人達皆が吹き出している。


「なんか……良いですね、こういうの。僕サイン会同様打ち上げも初めてなんですけど、すっごく楽しいです」


 思わず口をついて出た言葉に、長野さんが「お、おー……、そうか、良かったな」と言いながら酒瓶を持ってこちらに来た。


「ほら、今日は飲め飲め! あ、これはアルハラになるか? ほら、ウーロン茶もあるぞ!」


「お茶ハラだー」なんて誰かの声を聞きながら、サイン会と打ち上げに参加して良かったな、と心の底から笑ったのだった。

裏で連載中の「国に飼い殺され続けた魔女、余命十年の公爵の養女になる? 〜養女契約のはずが、妻の座を提案されてしまった〜」も本日1章完結しました。よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 書籍化したけど売れなくてモチベが失くなりエタったり アカウント消失とか、好きな作品だったのに結構ショック だったなぁ。 読者が完結しない作品を嫌うのと同じように、作家も 完結させられない…
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