214.記章
信用出来るとは思うけど証拠がない、か……。まあ、見方を変えれば信用させる為に証拠をねつ造してはいない、って事。
「あ……それからもう一つ。セルヴァリス子爵も具体的な場所は知らないらしいんだけど、城のどこかに反乱軍が捕まってるかも。この作戦を決行するなら、一緒に連れ出してほしいんだって」
「なるほどなあ……雪風が嗅いだ血の臭いってのはやっぱり反乱軍のか? 反乱軍を助けたところで、子爵にメリットはなさそうだが」
「反乱軍はレガート帝国の戦力が上がるのを恐れて子爵を取り返そうとした訳でしょ? バルトン侯爵の本当の狙いはさておき、自分があそこに居るせいで捕まったのは確かだから、可能なら助け出してほしいって。あと、反乱軍の引き渡しを要求した方がレガート帝国の軍人っぽいだろう、とも言ってたかな」
「まあ……、蓮華さん的には反乱軍の依頼も完了出来るから、助け出せるならその方が良いのか?」
ガンライズさんが返答を求めるようにこちら向くと、僕よりも先にヴィオラが口を開いた。
「でも私達は六人。普通反乱軍を移送するなら、もっと人数が多いはずよね? 疑われないかしら」
「『情報さえ得られれば全員生き残ってる必要はない、こっちで適当に処理する』とかなんとか言っとけばそれっぽくないっすか? もしくは『軍を率いて他国に侵入すれば貴国に要らぬ誤解を招く。だから途中で待機させているのだ』とか恩着せがましく言っとけば……」
「……えげつないけど、信憑性は増すか。誰かの真似か?」
「ふふ、もしかして今放送されてるドラマを参考に……?」
「お、えいりさんも観てます? あれ面白いっすよねえー」
オーレくんとえいりさんがドラマの感想に花を咲かせている。なるほどあのドラマか……。実は僕とヴィオラも観てるんだよね。
「そうだねえ……助けられるなら助けたいよね。ただ、僕達の目的はあくまでセルヴァリス子爵の救出。反乱軍に関しては状況確認であって救出の依頼は受けてないから、厳しそうなら諦める、でどう? 二兎を追う者は一兎をも得ずって言うし、欲張って子爵も助けられなくなったら目も当てられない」
「バルトン侯爵の反応次第で臨機応変に、ね? 良いと思うわよ。……で? 具体的に、まずは子爵提案の作戦で行く?」
「かなあ。皆もそれで良い?」
「さすがに強行突破は出来そうにないしなあ……賛成」
「帝国の軍人だってどうやって信じさせるんでしょうか? 軍服なんて用意出来ないでしょうし」
「あ、それに関しては……」
なにやら図形が描かれた一枚の紙を差し出すナナ。
「さっきセルヴァリス子爵に描いてもらった記章のデザインです。帝国軍人はどんな時でもこのバッヂを必ず衣服に付けてるらしいので、それっぽい物を作れば良いかなって。服がバラバラなのも、『他国で軍服は誤解を招くから』で説明がつきますし」
「なるほど……でも、作れるのかな? 僕は正直、そういうの全然駄目だけど……」
裁縫ならそこそこ自信があるし、むしろ軍服を作る方がまだ役に立てそうな気がする。
「細工と鍛冶の熟練度を上げてるので私が作ります! ただ、王都に戻って作ろうと思うので今日の今日作戦決行、とはいかないんですけど」
「私も細工は上げてるから手伝うわ。さすがに六人分を一人で作るのは無理よ」
「俺も鍛冶上げてるからなにかしらは手伝えると思うぞ」
「あ、すみません。私は明日日中帯のログインが難しくて……」
「勿論現実優先よ、無理しないで。バッヂもそんなにすぐには出来上がらだろうし」
「ああ、それなら僕も明日は仕事を優先しつつ……、こっちで他にも情報集めたり、万が一の時の逃亡ルートの確認とかをしておこうかな」
「じゃあ突入は明後日、月曜日の夜辺りを目安にしておきましょうか。バッヂが出来なかったら延期するって事で」
「おっけー! 今回はナナに頼りっぱなしで申し訳ないけど……よろしくお願いします」
「いつも頼りっぱなしだったのは私なので……頑張ります!」
作戦も決まり、ナナとヴィオラとガンライズさんは王都へ、えいりさんとオーレくんはログアウトをした。
「さて……じゃあ僕もそろそろ仕事でもしようかなあ。という訳で皆さんお休みなさい」
≪お休みー≫
≪蓮華くんもちゃんと寝るんやで……≫
≪土日も仕事か、ワーカホリックだなあ≫
≪おつおつー≫
視聴者さんに挨拶をしてからテレポートを起動。見慣れた執筆部屋に移動したのを確認してから、ホッと息を吐き出した。
「皆と一緒に行動するのも楽しいんだけど……やっぱりちょっと緊張しちゃうんだよなあ」
仕事相手と洋士以外に訪ねてくる者はなし。何十年……下手したら百年くらいはそんな生活を繰り返していたので、毎日誰かと過ごす日々にはなかなか慣れない。
「今日と明日で原稿を終わらせて、月曜日以降佐藤さんに確認してもらう、と。本来の締め切りは来週末だから、なにかあっても大丈夫でしょう」
§-§-§
「お帰りなさい、仕事は捗った?」
休憩がてらリビングへ行くと、ヴィオラに話しかけられた。
「うん、一応推敲まで完了した。ちょっと悩んでる部分は明日改めて考えようかなって。今日は気分転換の為に切り上げてきた」
「そうなの。こっちもひとまず試作品が完成したところよ。明日もう少し手直ししてから、量産する感じ。ところで……魔力の制御も出来るようになったし、月曜日からバイトに復帰しようと思って。店長からいつ戻ってくるんだってだいぶせっつかれちゃってるしね」
「あれ、でも夜は子爵救出作戦を決行するって行ってなかったっけ? ずらすの?」
「ううん、クランを組んだ以上、GoWのプレイは夜が中心になるでしょうし、バイトを日中にしたの。事後報告で申し訳ないけど……月曜日の送迎、お願い出来るかしら」
「勿論。むしろ今までは僕が日中出歩けないせいで夜勤ばっかりになっちゃってごめんね……。僕も少しは進化したから、これからはいつでも大丈夫だよ!」
まあ、同族は太陽を浴びてもなんの問題もない訳だし「進化」というよりは「正常に戻った」、というのが正解かもしれないけれど。僕って本当に間抜けだなあ……。





