Side:ナナ編3(2)
結局、下水道の場所はスラム街の湿気や植生植物の差を元にヴィオラちゃんがあっさりと見つけ出してしまった。本当に私は誰の役にも立てないんだな……。
「ごめんなさい、私が見つけないと駄目だったのに……」
私が謝ると、ヴィオラちゃんに「どう言う意味?」と聞き返されてしまった。
「だって……試験も自分一人でクリア出来なくて皆の手を煩わせちゃったし、せめて城内の下見くらいは出来ないと。役立たずの足手まといになっちゃう……」
「ちょっと、馬鹿な事言わないでよ!」
言い終わるや否や、ヴィオラちゃんが甲高い声を上げた。
「ずっとそんな事考えてたの? 嘘よね? 私達の中で城内に侵入出来る技能を持ってるのはナナちゃんだけなのよ。その下準備は皆で協力するのが当たり前じゃない。それにこの作戦を立てたのは貴方なの、足手まといはただ頷いて後ろをついてきた私達の方よ」
「そうでしょ?」と他の二人を見るヴィオラちゃん。ガンライズくんもオーレくんも、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で頷いている。
「いや……ナナさん、それ本当に言ってます? ダンジョンで罠に引っかかったり、貴重な蘇生スクロールを使わせてしまった俺よりも役立たずだとでも言うんですか? 自分に自信がなくて言ってるんだろう事は分かりますけど、普通に俺の方がダメージ喰らうんで勘弁してください」
「えっ……でもオーレくんの魔法が一番攻撃力が高かったんだし、罠に引っかかったのだってシーフじゃないんだから当たり前だし……」
「それを言うならナナはシーフなんだから、むしろ戦闘力高かったら俺達の方が立つ瀬ないだろ。えーとほら、こういうのなんて言うんだっけ? ああ、適材適所。そうだろ? ゲームなんだから小難しい事考えるのはやめようぜ。『役に立つ』とか考えてたら楽しめないだろ?」
そういうものなの……かな、本当に? なんの見返りもなく、ただ純粋に楽しんでも良いの? でも、それなら私の人生って……ううん、今はそんな事考えている場合じゃない。
普段はシーフ向きのアクセサリーをつけているけど、今だけはそのうち腕輪とネックレスを下水道探索用の物にチェンジ。
『洗濯いらずの腕輪』。名前がちょっとふざけてるけど、起動時に水属性と風属性の複合魔法で一瞬にして身体の汚れを綺麗にしてくれる優れもの。ネックレスの方も『カリナの嗅覚抑制首飾り』といって、自身の嗅覚を抑制する為のアイテムで、こういう状況にうってつけ。
この二つは、以前何日もかけてシヴェリーの下水道を探索していた時、見かねた視聴者さんに教えてもらったもの。どちらもロストテクノロジーだから値段が高くて手持ちじゃ全然買えなかったけど、ギルドにお金を借りてなんとか購入。普通のアイテムとは違って「起動に魔力を必要としない」、「使用者のサイズに合わせて勝手に伸縮する」というかゆいところに手が届く仕様で、本当にお買い得だった。勿論、まだ駆け出しの冒険者だから返済は結構苦しいけど。
「とりあえず、無事に下水道に辿り着いたのはナナとヴィオラさんのお陰って事で良いよな? ……で? 次はここからバルなんとか侯爵の城に繋がる配管を探すんだっけか?」
「あ、う、うん。そう。えっと、幅が広くて、配管の方角……は位置関係的にどれもそこまで変わらないかな……。うーん、だとすると勾配が緩やかな配管が怪しい、かな?」
バルトン侯爵家の城は東。西のスラム街とは真逆だから、いくら町を一望出来る丘の上にあると言っても、距離的にどうしても角度は緩やかにならざるを得ないはず。あ、でも揚水機を使えば下から上にも流せるし、魔法とかロストテクノロジーでどうにかしてる可能性もある……。
ううん、やっぱりそんな事はないはず。農業なら揚水機を使うだろうけど、この世界観的に、目に見えない「疫病」対策の為に下水に大がかりな設備を導入するほど文明が発展しているとは思えない。
魔法もそう。水属性の魔核を要所要所に設置すれば直接水を操る事で揚水機と同じような事が出来るけど、そもそも魔核は使用者の魔力を注入して初めて使えるもの。魔力不要のロストテクノロジーを使う手もあるけど、下水配管に対して設置するのはどちらもコスパが悪すぎる。
結論、配管は確実に素直に上から下に向けて設置してるはず。
「まず、幅が広い配管を探せば良いんだな……と。明らかに太いのがここら辺に密集してる。あとあっち側にもちらほらあるぞ……思ったより数が多い」
ガンライズさんの声に、まずは密集しているという配管を確認してみた。幸いにも今は夜中、水の流れは皆無なので安全、かつ流れきらなかった物から色々と情報を得られやすい。
「んー……これは……。食べかす、革の端切れ、着色物が沈殿した割れた陶器。位置がやや南東な事も考慮すると、商業地区に繋がってるんだと思う。多分数店舗分の下水をどこかで合流させてるんじゃないかな」
「じゃあハズレだな。それなら……こっちは? 食材ばっかりだけど」
「確かに野菜、魚、肉が多いね。でも食べ物に偏ってるって事は、食材市場じゃないかな? 貴族の家ならお風呂とか、洗濯、掃除に使った水なんかも流れてくるはず」
「それならこれが当たりじゃないかしら?」
ヴィオラちゃんの元へ行くと、確かに様々なものが流れた形跡が見て取れる配管に辿り着いた。ネックレスを一瞬外して臭いを嗅ぐと、腐臭やアンモニア臭、カビの匂いに紛れて、明らかに高級そうな香料の香りが漂ってきた。洗剤か、入浴剤か……うん、貴族の家で間違いなさそう。
念の為更に奥、オーレくんが見つけた太い配管も確認してみた。こちらもまた貴族が住んでいそうな雰囲気は漂わせているものの、配管の幅が先ほどの物よりも狭い。
「うーん……領主のお城の配管が一番立派だろうから、多分ヴィオラちゃんの方が正解かな?」
進むべき道は決まった。万が一間違ってもまた引き返してきてもう一つの配管を選ぶだけの時間的余裕もある、はず。
「本当にここから侵入するのか? 配管の向こう側がどうなってるかは分からないんだろ? 出れなかったらどうするんだ?」
「実際に着いてから考えるけど、多分どっかしらの配管からは入れるはず……。途中で水が流れてきちゃったり、ガンライズくんの言う通り、万が一想定と違って出られなかったらこっちに戻ってくるね」
「……分かった。じゃあ俺達は……いつでも駆けつけられるように地上で待ってた方が良いよな?」
「そうね。私とオーレくんもここじゃ援護のしようがないし、外に出てましょうか。万が一の時にどうやって城内に入るか考えないと」
「分かった。なにかあったらパーティチャットするから確認よろしくね!」
気にしなくて良いって言われたけどやっぱりちょっとくらいは活躍しておきたい。ここからは私の独壇場、きっと皆の役に立てる……はず!





