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Side:ナナ編3(1)

しばらくナナ目線のお話が続きます。


前話にてバルトン侯爵の「屋敷」と表記していましたが、

諸々考えて「城」へと建物の規模を修正しました。

 えいりさんと蓮華さんのキャラクターが消えるのを見送ったあと。間髪入れずに興味津々な様子で「どこから侵入するつもりなんだ?」とガンライズくんが聞いてきた。

 

「一応下水道から入るつもり。貴族の城なら隠し通路の一つや二つあるとは思うんだけど、内部から探すのと違って、外部からはさすがに範囲が広すぎて厳しいし。屋敷ならまだしも、城はさすがに猫が迷い込める隙はないと思うから、外部から侵入をするしかないかなって」


「なるほど……、その、城に繋がってる下水道?ってのは見当付いてるのか?」


「これから探すけど、多分すぐ見つかると思うよ。えーと、シヴェフ王国の下水道は見た事ある?」


「いや……前回の王都クエストの時は別行動してたから、下水道には行った事ないんだ」


「そっか。えっとね、シヴェフでは太い下水道……まあ地下トンネルなんだけどそれが一本あって、都市内の建物は必ず下水処理用の排水口から配管を通じてそのトンネルと繋がってるの。ここも同じシステムなら、どの配管かさえ突き止められれば侵入出来る。貴族の屋敷は水の使用量が多いから他と比べて配管は太いし、ある程度絞り込めると思うよ。あとは城の方向とか、流れてる物とかで判断する感じかなあ……?」


 「なるほどなあ」と頷きつつも、ピンと来ていない様子のガンライズくん。一度も見た事がないなら仕方がないのかも。百聞は一見にしかず、全員で下水道に向かう事に。


「ちなみに、一般家庭の下水配管は数センチくらいしかないから猫の姿でも通れないんだけど、貴族の屋敷、それも今回はお城だから大丈夫だと思う」


 と、後ろを歩くガンライズくんから質問が飛んできた。


「迷わず進んでるけど、下水道の場所は既に分かってるって事か?」


「んーん、知らないけどとりあえずシヴェフを参考にしてスラム街に向かってる。やっぱり不衛生な場所だから貴族街とか商業通りは避けると思うし……。下水道が出来たからスラム街になったのか、スラム街があったから下水道を作ったのかは気になるところだけどね……」


 このゲームは都市や町に入った段階でマップの全体像が解放されるシステムだから、スラム街自体がどこにあるのかは分かっている。


「スラム街から先は、嗅覚頼りになるとは思うけど。猫獣人だからその辺も含めて任せて!」


 「ようやく皆の役に立てる!」という思いが先行して、思わず大口を叩いてしまったけれど、もし上手くいかなかったらどうしよう……。ちょっと調子に乗り過ぎちゃったかな。


 今からでも訂正する?と悩んでいたら、後ろでヴィオラちゃんが「短時間でここまで考えつくなんて凄いわね……」と呟いているのが聞こえてしまった。うう、せっかヴィオラちゃんが感心してくれたのに、シヴェフ王国と全然違う仕組みだったり、想定外の結果になったらがっかりされちゃうかも……。




「あんたはなにをやっても駄目なんだからせめて人一倍働きなさい」とは母の言葉。実際、妹に比べて趣味の一つもなければ話術の類いも皆無。そんな感じだから学生時代も友達一人出来なかったし、社会人になってもお昼を一緒に食べる同僚一人居なかった。


 そんな私が唯一自分で始めたのがGoW。だけど事前リサーチもせずに「猫獣人が可愛い」という理由でキャラクタークリエイトをしてしまい、「勉強はそれなりに得意だけど運動はからっきし」という現実世界の自分の資質との相乗効果でシヴェリー(王都)に辿り着く頃には戦闘面で限界が見えていた。


 少しでもネットカフェ代金を回収しようと始めた配信も、キャラの容姿のお陰で初見さんは多いのに、話術の稚拙さやプレイの面白みのなさが露呈して固定視聴者は全然増えない。


 「私って本当になにをやっても駄目なんだ」。突きつけられた現実に目の前が真っ暗になって、……それから私は自分を徹底的に分析して、正反対のキャラを作り上げた。


 よく笑い、話し方はカジュアルで親しみやすい子。話が面白くないなら他の人から話を引き出したり、人気者の真似をすれば良い。


 そうして出来上がった「ナナ」のキャラクターのお陰で、意を決して参加した王都クエスト以降ガンライズくんや蓮華さん達と仲良くなって……。配信こそ色々あってコメント欄が荒れた時もあったけれど、総じて自分の人生の中で一番充実した数ヶ月だったと思う。


 だけど、ここに来て迷いが生まれ始めた。


 生まれて初めて決めた「シーフになる」という目標。それは本当に自分一人の力で達成しなくて良いのかな?


 とか、


 皆が好きなのはいつも笑顔で明るくて、親しみやすい「ナナ」であって、「陸」は結局なにも手にしていないんじゃないかな?


 とか。


 それになにより、自分と正反対なキャラとして作り上げた「ナナ」は、妹を連想させる事に気付いてしまった。つまり()は……結局どう足掻いても(美玲)には勝てないって事……。


 ようやく手に入れたと思ったものが、自分の物じゃないと気付いた時、私は足下が崩れていく感覚に陥った。


 だったら、私に出来る事はなんだろう。そう考えてがむしゃらに修業をこなした。人の足を引っ張ってばかりいるのはもううんざり。だけど試験に落ちたら不甲斐ないし恥ずかしいし……一人でこっそり試験を受けて、合格した時にガンライズくんに報告しよう。少しは自信もつくし、そしたら役に立てるはずだから。


 それなのにいつの間にか皆で挑む事になってしまった。その上途中までは順調だったのに、私の発言が元でデウストラーと戦う羽目になって、戦闘面で手も足も出せず、結局皆に頼り切りで。


 今度こそ皆の役に立たないと。そうじゃないときっと呆れられて失望されてしまう……。


「ナナ? 大丈夫? 獣人にはこの辺りの臭いがきつかったりするのかしら?」


 ヴィオラちゃんの声に、はっと我に返った。いけない、考え事をしていたらまた失敗してしまう……。


「大丈夫! えっと…………、……こっち、かな?」


 猫獣人の嗅覚があれば簡単だと思っていたけれど、むしろスラム街そのものの悪臭がキツくて鼻が麻痺している。シヴェフではそんな事なかったのに……やっぱり国によって違いがあるみたい。


「無理するな、(人狼)でもキツイんだからナナはもっとヤバイだろ。むしろ、ヴィオラさんとかオーレの方が向いてるんじゃないか?」


「そうね、私は今のところ全然問題ないから……やれるだけやってみるわ」

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次回の更新は明後日4月20日ですが、書籍2巻の発売日ですので

「二巻発売記念短編:手紙」を投稿予定です。話の流れを遮って申し訳ありません。

本編の続きは4月22日投稿予定になります。

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2024年4月20日2巻発売!

吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

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