211.研究者トビアス
【告知:称号『隣国の旅人』を獲得しました。装備効果及び設定はキャラクター画面より行うことが出来ます】
【告知:称号『嘘も方便』を獲得しました。装備効果及び設定はキャラクター画面より行うことが出来ます】
「お、二つも称号貰っちゃった。……『嘘も方便』は嬉しくないな」
≪ぜったい出入国審査での件じゃん≫
≪あれ、特別称号じゃないんだな≫
≪確かもう他国に行った人居るはずだぞ≫
≪なんだ、蓮華くん一番乗りじゃないんか……≫
何故かがっかりしている視聴者さん達。そんなに特別称号が見たかったんだろうか……。
「そう言えば、ヴィオラは普通に出入国審査受けるって言ってたよね。他の皆も一緒に?」
話題を変える為に音声チャットで無事に審査を通った旨をクランメンバーに報告。ついでに皆の作戦を聞くと、ヴィオラから『いいえ』と否定の言葉が返ってきた。
『それなんだけど、私が国境から一番近い町に到着した段階でヴァルステッドに戻って、皆をテレポートで連れてくる作戦にしようかと思って。私含めて十人以内だから条件は問題ないし』
「あれ、でもテレポートって再使用まで十二時間あるよね……?」
それともヴィオラは僕よりも力の解放率が高いとか?
『ヴァルステッドを指定したテレポートスクロールを購入したのよ。一人用を割り勘で買ったから大した額じゃないし』
「あ、なるほど。その手があったのか……」
一人用のテレポートスクロールは五十銀。五人で持ち寄ったから一人十銀――一万円相当――の支出だ。安くはないけど、仮にバルティス共和国が指定されたテレポートスクロールを買った場合、五人プラスそれぞれのテイム生物で十人分必要。五人用スクロール二枚で二金、二十万円相当もする。
かといって節約の為に五人全員が出入国審査を受ければ、怪しまれて許可が出ない確率が高い。皆の作戦は、少額で確実に入国出来る最善手と言えた。
『蓮華くんの話術のお陰よ。私だけなら怪しまれずに通過出来そうだし、これが確実でしょ? 皆の騎獣は蓮華くんと同じ氷狼だから怪しまれるでしょうし』
「確かにそうだね」
『だから、国境を越えたあたりで合流って言ったのはなしの方向で。……蓮華くんは真っ直ぐセルヴァリス子爵が居る都市へ向かう?』
「そのつもりだったけど……そこから逃げなきゃいけない事態になった時の為に、僕もどこか町に寄ってテレポートを解放しておこうかなあ」
『そう、じゃあ万が一を考えて別々の町にしない? 私は一番近いテレシアへ行くから、蓮華くんはその次の……』
「フィロティスか、了解。……って事で雪風、ここから十一時の方向に直進してもらって良い? そっちの方向にあるみたい」
「承知した! しっかり掴まっててくれよ、頭領!」
言うや否や、トップスピードで走り出す雪風。舌を噛みそうになり、慌てて音声チャットをオフにした。
小規模な集落があちこちに見えたような気がするけど、雪風が脇目も振らずに走るので様子を窺う事も出来ない。まあテレポートの条件外だしそこまで気にする必要はないのかもしれないけれど……。
三十分程度走っただろうか。フィロティスへもすんなり入る事が出来たし、これでこの地にテレポートが出来るようになったはず。念の為システムメニューからテレポートを呼び出し、フィロティスが選択肢に含まれている事を確認してから一息をつけた。さて、これからどうするべきか。皆と合流してから行くのか、それとも僕だけ先に|セルヴァリス子爵の居る都市へ行くべきか。下見という意味では先に行った方が皆の役に立てるかもしれない。
「フィロティスに着いたけど、このままアウロリウムに行って先に情報を集めておこうと思う。それともここで合流する?」
『情報が古くてセルヴァリス子爵がもう居ない……って事もあるでしょうし、先に情報を集めてくれた方が助かる……かも?』
「おっけー、じゃあ移動するね。着いたら連絡する」
音声チャットを終了してから安堵の溜息。実を言えばこのフィロティス、人口こそ多いものの、道路は舗装されていないし、宿屋も見当たらない。酒場や教会、市場はあるけれど外部向けというよりは完全に内部向け。冒険者ギルドはあるみたいだけど、一般のお宅と見間違えるほどこじんまりとした建物。なんというか、全体を通して商業活動が全然活発じゃなくて、「待っててほしい」と言われたらどう暇つぶししようかと悩むレベルだったのだ。
「システムはなにを基準に村と町を区別してるんだろう……正直村と言っても差し支えない気がするけれど……」
≪人口?なのかな≫
≪もしくは冒険者ギルドの有無?≫
「オルカも町だけど、冒険者ギルドは確か……なかったよね? となると人口なのかなあ……。道路が全く舗装されてないって事は、荷馬車は殆ど通らないって事だよね。シヴェフとの国交はあんまりなさそうだし、外部とのやりとりがないから自給自足に特化してるのかな……?」
≪や、でもオルカは冒険者ギルドの代わりに魔術師ギルドがあったよね≫
「あ、そうなの? 知らなかった。じゃあなにかしらのギルドがあると町扱いになるのかな? よく分かんないね」
≪これだけ内に閉じてるコミュニティなのに、よそ者を警戒しないですんなり受け入れてるのは気になるな≫
「あ、確かに……。うーん、やっぱりちょっと、冒険者ギルドで話を聞くくらいしてみようか。もしかしたらアウロリウムの話も聞けるかもしれないし」
視聴者さんの発言を参考に、すぐ目の前のこじんまりとした冒険者ギルドへ。ギルドカードを提示し、受付で軽く聞き込み調査をする事にした。
「いらっしゃいませ、ようこそフィロティス支部へ」
「すみません、活動拠点を移す為に旅をしてるんですが、少しお話をお聞きしても?」
「勿論です」
「ここは一応、町というくくりですよね? その割にその……活気がないと言いますか。ギルドの規模も小さいようですし、あまり依頼はないのでしょうか?」
「そうですね、シヴェフ王国からなら、テレシアには立ち寄りましたか? あそこのギルドは凄く規模が大きくて、町としての活気もかなりあります。反対側も、アウロリウムという都市がありますから、こちらもやはり規模も活気もあります。なのでその中間に位置するここは年々規模を縮小していると言うのが現状です」
国境からここまで三十分程度。ゲーム内時間に換算すると一時間半強……テレシアからならもっとかからないはず。見たところ町の周囲には防壁らしい防壁も全然見当たらないし、この辺一帯は平和という事じゃないのかな? それなのに撤退せずに規模を縮小……。なんだか少し引っかかる。
「縮小してでも撤退しない理由があるんですか? うちの騎獣の足で国境から一時間半強……馬でも三時間程度あれば着くはずです。仮になにかあっても、テレシアなりアウロリウムに依頼を出せば良い気がしましたが」
「そうなんですけど、それだと間に合わない可能性があるんですよね……」
困ったような表情で告げる受付の男性。「間に合わない」という事は特定のなにかがあるって事か。
「活動拠点を探しているとの事なので正直に言いますが……、この辺りの植物は、時々急に凶暴化するんです」
「は、い? 植物が凶暴化、ですか……」
この世界はファンタジー。もうなにが来ても驚かない自信はある……とはいえ植物が暴れる、と言われてもピンと来ない。動物じゃないんだよ、植物だよ? 幻の華の例はあるけれど、あれも華というより氷だったしなあ……。いや、氷が歩き回るのも十分おかしいんだけど。
「信じられないでしょうが、事実です。その場で暴れるだけであれば良いのですが、こう……根を足のようにして移動しますし、凄い勢いで増殖もします。そして必ずフィロティスを強襲するものですから、何度強固な防壁を作ろうが、道を整備しようが、あっと言う間にボロボロにされてしまって……」
だから人口と反比例して寂れた状態なのか。確かに植物相手では道を整備しても意味はなさそう。アスファルトを突き破って咲いている花とか、現実世界でもよく見るもんね。
「なるほど。ギルドがあればゲート経由で応援を呼ぶ事が出来るから撤退出来ない、そういう事でしょうか?」
「ええ。かと言って、極たまに発生するそれらに対処する以外ではほとんど依頼もありません。ですから段々規模が縮小しているんです」
「なるほどー……だとしたらここを拠点にするのは難しそうですね。……ところで、植物が凶暴化する原因や頻度は分かっているんですか?」
「いえ、それは全然。ただ、ちょっと前に熱心に調べてくださっていた研究者が『この場所になにかがあるんじゃないか』と仰っていたんです。『町そのものに原因があるのか、それとも町に住んでいる人々に原因があるのかは分からない』とも。なので町として正式に研究者を誘致して、調べもらおうかと考えているところです」
≪!?≫
≪ま、まさか≫
「ちなみにそれはいつ頃の話でしょうか? その方は今どこに?」
「そうですね、だいたい……ひと月前、くらいでしょうか? それが……いつの間にか居なくなってまして、私共も行方は知らないんです。調査の依頼をしたかったのですが……残念です」
「もしかして……トビアスという名前でしたか?」
「え? ああ……そうです、トビアスさんです。有名な方でしょうか? それとも悪い噂がある方なのでしょうか?」
「ええと……博識な方です。ただ、本人が目立つ事を嫌われるので、名は有名ではありません」
セルヴァリス子爵がまたこの地に来る可能性を考えれば、勝手に名を売るわけにはいかない……けれど名前を出した以上、知らないとは言えない。悪評なんてもっての外だ。結局、無難な回答に留め、職員さんにお礼を言ってからギルドを出た。
【告知:クランクエスト「セルヴァリス子爵を追って」のクエスト情報が更新されました】
「ふむ……なんとなく分かってきたぞ」
別に聞き込み調査をしなくともアウロリウムで情報を得る事が出来たのだろうけど。セルヴァリス子爵が研究の為にこの国を訪れたらしい事が分かったし、十分収穫はあったんじゃないかな。